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虹彩竜と歩むもの/第3話:試験 作:光芒




 デュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの二次試験の試験会場はアカデミア・ジャパン・セントラルの講堂である。この講堂は始業式や終業式で使われる以外は基本的にはデュエル形式の講義や生徒同士のフリーデュエルなど、デュエルのことに用いられている。
 今回の試験会場はここであり、遊希ら在校生もかつてはこの場所で入学試験に臨んだ。この場所はいわばアカデミアを目指す者の中から一次試験を突破した者だけが立ち入ることが許される神聖な場所なのだ。
 遊希の気遣いで難なくアカデミアの外に出ることができた遊大は、開場時間である9時に合わせて今度は堂々と正門からアカデミアの敷地内に入る。アカデミアは校舎やデュエル施設、生徒が住まう寮などを含めると東京ドーム数十個分という敷地面積を誇っており、徒歩で移動するとなると中々骨の折れる場所である。それでも生徒や来客が迷わないように正門から校舎などの施設に向かう場合は歩道のように整備されているため、よほどの方向音痴ではない限り迷うことはないだろう。


(俺の受験番号は……80。遅いのか早いのかよくわからない数字だなぁ)


 案内を務める事務員の先導で受験生控室へと通された遊大ら受験生は自分の受験票に書かれている番号の席にそれぞれ座る。遊大より先に数十人ほどの受験生が着席していたが、会話はなく、控室には緊張感が張りつめていた。
 数年前までは二次の実技試験は教員らが試験官となって受験生のデュエルの技術を見る形式を取っていたが、例年増加する受験生に対応するのが厳しくなってきたことから、今年度からは受験生同士がデュエルを行い、そのデュエルの勝敗からタクティクスまでを総合的に判断して合否を決める形式となっていた。
 そのため今この部屋にいる誰かが自分のデュエリストとしての今後を決める存在となる。この事実がより受験生同士の緊迫感を増す原因となっていた。


(俺の席はここか……番号的にまだ呼ばれないだろうから、ちょっとデッキでも見ていよう)


 椅子に腰かけた遊大は鞄の中からデッキを取り出す。遊大のデッキはオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを中核に添えた【魔術師】【EM】【オッドアイズ】の混合デッキ。この3テーマはいずれもシナジーを生み出しており、上手くかみ合った時の爆発力はかなりのものを誇る。
 その分オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンら【オッドアイズ】のカードは手に入れにくいカードが多く、構築難易度は比較的高い。恐らく今年度の受験生に自分以外にオッドアイズカードを持つ者はいないだろう。ミラーマッチになる可能性が限りなく低いとなれば、相手がこのデッキの対応に苦心する可能性もそれだけ高くなるため、遊大は比較的気楽にこの試験に臨むことができる。
 しかし、この時対戦するデュエリストがもし遊希のように実績のあるデュエリストであるならば、その可能性は潰える。仮にどのようなデッキが相手であったとしても、遊大はこのデッキを信じ、このデッキと共に戦うだけ。それがデュエリストにとって一番大事なことなのだ。


(……貰ったデッキだけど、俺はこのデッキと……)
「おい」
(頼んだよ、オッドアイズ。みんな)
「おいってば!」
「わっ!?」


 ポン、と誰かの手が遊大の肩に触れる。試験やデッキのことに集中していた遊大は突然のことにビクッと大きく身体を震わせる。おい、という声のした方に振り返った遊大の眼には怪訝そうな顔をする一人の少年の姿が映った。
 癖のついた黒い短髪に地黒の肌という如何にも体育会系を思わせる風貌、身長は遊大より10センチ近く高く、俗世間的に言う「細マッチョ」に分類されるその少年は実際よりも大きく見えた。


「お前ここの席か? 俺隣なんだけどよ」


 そう言って少年は受験番号に書かれた「70」という数字を見せてくる。遊大は隣の席に人が座る、ということをすっかり失念していた。彼は自分の座席に座りたかったのだが、遊大の持ってきた荷物が邪魔で自分の荷物を置けないようだった。
 彼の肩にはよく体育会系の部活に入っている学生が持っている白色のエナメルバッグがあり、そのバッグからはデュエルディスクらしきものがちらりとはみ出ていた。


「あっ、ごめん」
「悪いな。あっ、俺は国広 陸(くにひろ りく)ってんだ。宜しく」
「俺は……高海 遊大」
「じゃあ遊大だな。俺のことも気軽に陸って呼んでくれて構わないぜ」


 初対面ながらとてもフレンドリーに接してきた少年・陸。エナメルバッグからデュエルディスクがはみ出しており、またここに来るということは彼も遊大と同じ受験生なのだが、彼はこの緊迫した控室に似つかわないような雰囲気を醸し出していた。


「ところでよ。なんでこの部屋の他の受験生はみんな辛気臭い顔してんだ?」
「そりゃ試験前だし……あと二次試験はこの中の誰かとデュエルをするんだよ」
「それが?」
「それがって……ほら、ここでのデュエルでアカデミアに入学できるかできないが決まるんだから後味悪いじゃん」
「へえ、そんなもんなのか。じゃあ俺と遊大がデュエルするってこともあるってことか」


 陸は腕を組んでなるほど、と一人で納得する。イメージで物事を決めつけることは良くないことなのだが、陸はその見た目に違わず何処か脳筋なところがあるようだった。しかし、その脳筋がいい方向に作用しているのか、この緊張する場面においてもまるで夏の晴天のような笑みを見せていた。


「でもよ、このデュエルの勝ち負けで全部が決まるわけじゃないんだろ? だったら負けてもいいデュエルができれば決して悪い評価はされないってことだよな?」
「ま、まあね……」
「じゃあ勝ち負けがどうこう関係ないな。俺は俺の、俺ができる最高のデュエルをアカデミアの奴らに見せてやる。それだけだぜ」
「陸……」

 
 自分の将来がかかっている、という局面であっけらかんとしてみせる陸。仕事やスポーツからデュエルまで何かしら社会において成功する人間がいかにも持ってそうなものを露わにして見せるあたり国広 陸という人間は結構な大物なのではないか、と遊大は思った。それこそ自分が小さく見えてしまうほどに。
 こういう人間が天都 遊希のようなプロデュエリストとして世を席巻する。決して自分のような中途半端な人間ではなく―――というネガティブな考えが泡のように浮かんできてしまった遊大は思わず両手で自分の頬をパチン、と叩いた。


「おいどうした?」
「気合を入れただけ」
「おっ、張り切ってるな。じゃあ俺も!」


 遊大の真似をした陸が思い切り自分の頬を両手で叩く。強く叩き過ぎたことからか一人で悶絶する陸を見て、大物なのかそれともただのバカなのか。遊大が失礼なことを考えていることは陸の知るところではない。










「受験番号60番から80番の方、デュエル場に移動してください。あっ、デッキと受験票を忘れないようにしてくださいね」


 試験開始から2時間ほど経った頃だろうか、アカデミアの制服を着た女子生徒が控室に入ってきた。長い黒髪が凛とした雰囲気を醸し出すその少女は控室で待機する受験生たちに移動を指示する。テーブル一列に20人ずつ座っているため、遊大と陸の出番は全体の4番目と比較的早い方ではあるが、それでも昼食を挟んでの出番となるため、思っている以上に長い時間待機したことになる。
 デッキと受験票を持ったことを改めて確認した2人を含む受験生たちは控室を出て、先導する生徒の後についていく。試験に臨む誰もが緊張の色を隠せないでいたが、やはり一人……陸だけはまた別のところに着目していた。


「おい、あの人知ってるか?」
「えっ」
「あの人だよ。今俺たちを先導してる人。あの人この学校の生徒会長だぜ」


 陸は小声で遊大に耳打ちしながら先導する女子生徒について話し出した。陸が以前アカデミアのホームページを見た時、件の少女のインタビューが掲載されていたという。
 なんでもその少女は去年からアカデミアの生徒会長を務めているほどの優秀な生徒であり、その美貌と優しい性格から生徒たちの信望も厚いという。傍から見ると何処か大人しそうな雰囲気を感じさせる少女であるが、デュエルにおいては物凄い実力を発揮するようで、彼女も遊希に匹敵するだけの実力を秘めたデュエリストということなのだろうか。


「そうなんだ……」
「ああいう人みたいなデュエリストになりたいよなぁ。なんつーか、動と静を併せ持ってるっていうか。ほら、俺動ばっかだし」
「……自覚あるんだ」
(俺たちもアカデミアに入学したらああいう人に……でもそんなことを考える前にまずは試験だ)


 そう考えているうちに遊大たちは試験場へと通された。そこには特製のデュエルフィールドが10個用意されており、20人の受験生はここで2人ずつ組んでデュエルを行う。誰とデュエルするかはコンピューターでランダムで選ばれることとなり、講堂に設置された大型の液晶画面に組み合わせと結果、各組のデュエルの推移が映されるようになっているのだ。


「それではただいまより二次試験を開始します。今から組み合わせが表示されるので、コンピューターの指示に従ってそちらでデュエルを行ってください」


 どのような組み合わせになるのか、誰もが固唾を飲んで見守る中。液晶画面に二次試験の組み合わせが発表される。


・60-78
・72-79
・63-65
・66-77
・71-75
・62-68
・64-73
・69-74
・61-67


「……マジかよ」
「……こんなことってあるんだね」


 遊大と陸は互いの顔を見ると、思わず笑ってしまった。何故なら、最後に表示された受験番号の組み合わせが―――70-80。
 受験番号70の国広 陸と受験番号80の高海 遊大。偶然隣の席となり、偶然知り合った2人の少年が、ここでいきなり雌雄を決する戦いに臨まなければいけなくなったからだ。


「あはは……」
「よし! まあ決まっちまったもんはしょうがねえな! 俺は俺のできる最大限のデュエルをする。だから遊大、お前も」
「うん。俺も俺ができるだけのデュエルをする。そういうことだよね?」
「そうそれ! どっちが勝っても恨みっこなしだかんな!」


 二次試験のこの組においてもやはり遊大と陸は異質であると言っていい。他の組み合わせとなった受験生たちは壁を作り、会話を交わしても挨拶程度のものなのだが、これからデュエルをするにも関わらずこの二人はまるで親友同士のように振る舞っている。そんな彼らの姿は他の受験生にとってもそうだが、受験生たちをここまで案内した女子生徒の眼にも一際目立って見えた。


(あのお二方は元々友人同士か何かだったのでしょうか? ですが、制服は違いますし……私がここを受験した時は結局試験官の方以外とは誰とも喋りませんでした。こういう場において余裕を見せられるということはこのデュエルに自信があるということなのか。それとも……)


 少女は生徒会長として公平な眼で試験を、デュエルを見なければならない。しかし、少女―――月宮 詩織(つきみや しおり)の眼には他の誰よりも高海 遊大と国広 陸の姿が一際眩しく映っていた。


「おっ、先攻後攻の決定権はお前にあるようだな。どうする、遊大」
「俺は先攻を貰うよ」
「じゃあ俺は後攻だな。よし、最高のデュエルを魅せてやろうぜ!!」
「うん。互いにね!」
「「デュエル!!」


遊大 LP8000 手札:5
デッキ:35 モンスター:0 魔法・罠:0 Pゾーン:赤/青 墓地:0 エクストラ:15(0)除外:0
陸 LP8000 手札:5
デッキ:39 モンスター:0 魔法・罠:0 Pゾーン:赤/青 墓地:0 エクストラ:15(0)除外:0



(……生徒会長職を預かる者として、そしていちデュエリストとして。お二人のデュエルをしっかり見届けさせて頂きます)




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ター坊
試験前のあの空気は学校に行った者ならば誰もが通る道。そんな中でも豪快と言うか粋な性格の陸。彼の言う通り勝ち負けなく素晴らしいデュエルをするのが一番正解かも?そんな彼が使うデッキとは…。
そして人前が苦手だったハズなのに生徒会長になってる詩織にもビックリ。 (2017-01-23 00:55)
光芒
ター坊さん
確かに高校受験の時や大学受験の時も普通はこんな空気ですよね。あくまで遊大と陸が異常なだけであって……ただター坊さんの仰る通り、アカデミアの入学試験では結果よりも課程が重視される傾向にあるのは確かですね。ただ勝てばいい、というわけではないのが難しい。

>そして人前が苦手だったハズなのに生徒会長になってる詩織にもビックリ。
一応彼女も成長しているんですね。詩織が生徒会長になる経緯についても追々触れていく予定です。
(2017-01-23 23:40)

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