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虹彩竜と歩むもの/プロローグ:邂逅 作:光芒





 

 長く寒い冬が終わり、世界は春を迎えた。春というのは終わりの季節であると同時に始まりの季節でもある。進学、就職、引越し、年度末……人々は春を契機に人生の岐路を迎えると言ってもいい。
 徐々に暖かくなり、街を行きかう人々にも活気が溢れる。それはこの国の首都郊外であるこの街においても例外ではない。何故ならこの街は、日本のデュエリスト育成機関で最も大きな規模と実績を誇る“デュエルアカデミア・ジャパン・セントラル”のお膝元であるからだ。
 教科書に載るほど昔からデュエルアカデミアというものはこの国に存在し、かつて日本はデュエリスト養成においては世界一の国であった。
 しかし、そんな日本に後れを取るものかとばかりにデュエルアカデミアを広い国土のあちこちに設立した米国や中国、ロシア、さらに一つの共同体を為している欧州連合など諸外国の成長は凄まじく、数年前まではデュエリスト育成の実績で先達者である日本が後れを取るようになっていた。
 そんな中、国の複雑な事情を一変させる出来事が起こる。国は日本を代表するデュエリストであり、海馬コーポレーションによってレアカード中のレアカード“青眼の白龍”を持つことを許された数少ないデュエリストである“星乃 竜司(ほしの りゅうじ)”を校長として、竜司の旧友であるドイツ人プロデュエリストの“ミハエル・シュトラウス”を教頭に招聘、また日本を代表する大企業である“海馬コーポレーション”や竜司と旧知の中である“藤堂 雄一郎(とうどう ゆういちろう)”が社長を務める“藤堂グループ”が支援を本格化させるなど、政府が重い腰を上げる形で本格的なデュエリスト養成に取り組み始めたのだ。
 その結果デュエルアカデミア・ジャパンには多くの前途有望なデュエリストたちが入学、めきめきと国際大会での入賞者を輩出するようになっていったのだ。そして今年度から関西や九州などにも新しいアカデミアの設立が決まったことで、校名をデュエルアカデミア・ジャパン・セントラルへと改称し、新しい生徒兼デュエリストの募集を行っているのである。


「ここがデュエルアカデミア・ジャパン・セントラル……」


 そんな新生デュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの校門前には一人の少年が立っていた。金髪を逆立てた派手な髪型をした少年は、何処か緊張した様子を見せながら左腕につけた時計を見る。
 少年は通っている中学校のものと思われる制服を纏っているが、傍から見るとその髪の色と髪型で所謂不良のような印象を受ける。しかし、よく見ると少年というより少女に近い優しく整った顔立ちをした彼はきりっとした目つきで生じる厳つい印象を下がった眉で和らげているなど、どちらかと言うと不良のような姿をした美少年であるともいえる。
 そんな金髪の美少年は時計を見て小さくため息をついた。彼の時計の針は短針が8、長針が6を差しており、受験票に記載された開場時間は午前9時30分。一次試験である筆記試験をなんとか突破した少年は、二次試験である実技試験を受けるために県外にある実家から前乗りしてこの街に来ていたのだが、緊張のあまり開場時間よりも1時間も早くここまで来てしまったのである。
 30分前ならいざ知らず、1時間前となるとさすがに他の受験生も来ていないようで、閑静としたアカデミアの正門前で少年はただ開場までの時間を待たなければいけなくなってしまったのだ。


「はあ……残り1時間どうしようかな……」


 定刻に遅れてくるのは当然、定刻より早く来すぎるのもマナーおよび暗黙のルール違反。こんなザマで今日の試験は大丈夫だろうか、とネガティブなことを考えながらも少年は鞄に入れたデッキケースから数枚のカードを取り出す。
 この少年もアカデミアを受験するだけあってデュエリストであり、カードおよびデッキはデュエリストにとって命と言ってもいいほど大事なものだ。ただ、少年は未だにこのカードたちについてはわからないことだらけだった。何故ならばこのカードは少年が自分で手に入れたものではないのだから。











「一次試験は……たぶん、大丈夫なはず」


 時は今から2か月ほど前に遡る。その日は天気予報が外れ、関東地方平野部にも珍しく数センチほどの雪が積もった。たかが数センチと聞けば響きは可愛いが、その数センチの雪で機能不全に陥るのか都会というものである。雪の降る中、少し開始時刻を遅らせて行われた試験を何事もなく終えた少年は、試験の出来にある程度の手ごたえを感じながら帰路へとついていた。


―――お前がアカデミア? まあ受けるだけならば自由だからな。
―――あなたにはもっと別の道があるはずよ。


 アカデミアを受験する、と言った際に両親には冷たい言葉をぶつけられてしまったが、この出来ならば胸を張って家の門を潜ることができる。ほっと胸を撫で下ろしながら、慎重に道を歩いていたその時である。
 少年は路地裏から飛び出してきた男と正面衝突してしまった。まるで少女漫画の冒頭で主人公とヒロインが出会う王道のようにぶつかった2人は、顔を抑えながらその場にうずくまった。


「貴様、何処を見て歩いているのだ!」
「いや、そんなことを言われても……」


 少年にぶつかったのは全身黒ずくめの長い黒髪が特徴的な怪しい男だった。ぶつかってきたのはそっちだろう、と言い返したかったがスマートながらも背が自分より20センチ以上高い大男に言い返すだけの度胸は少年には無かった。


「まあいい。怪我はないか?」
「あっ、まあなんとか……」
「そうか……むっ」


 一時的にではあるが、少年を気遣うような素振りを見せた男は自分が走ってきた路地裏を見て渋い顔をする。男はズボンのポケットの中に無造作に手を突っ込むと、そこからカードをの束を取り出した。


「ぶつかった詫びだ。これを貴様にやろう」
「えっ……?」
「我からの贈り物だ。決して手放すなよ? では、さらばだ!」


 そう言って男は雪が積もって滑りやすくなった歩道を物凄いスピードで走り去っていった。少年が呆然とその様を眺めていると、男が飛び出してきた路地からは黒いスーツにサングラスをかけた如何にもな風貌をした3人の男たちが飛び出してきた。男たちは周囲をきょろきょろと見回すと、カードを抱えてその場にしゃがみ込んでいる少年の存在に気が付いた。


「ちょっといいか? 我々はこの男を追っているのだが、見なかったか?」


 スーツの1人が見せてきた写真に写っているのは今まさに少年とぶつかった怪しい男だった。写真映りのせいか実際以上に怪しさ満点の男。追われていることを見ると指名手配犯だったりするのだろうか。もしそうならば正直に言ってしまった方がいいだろう。
 しかし、少年は指を震わせながら男が行ったのとは真逆の方向を指差した。もし少年の思っている通りに彼が犯罪者だったのであれば、逃亡幇助の罪に問われかねない。しかし、それでも少年はこの不審者が悪い人間には思えなかったのだ。
 スーツの男たちは「そうか、ありがとう」と素直に少年に礼を言うと、少年が指差した方へと走っていった。罪悪感に苛まれたが、少年は立ち上がると渡されたカードの束を見る。


「このカードは……?」


 束ねられたカードの一番下にあったカードを見て少年は驚きを隠せなかった。


「“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”……なんでこんな超レアカードが……」


 デュエルに一石を投じ、更に多彩なデュエルを創出するため―――I2社がシンクロ、エクシーズに続く新たな召喚法として世に送ったのがペンデュラム召喚である。
 ペンデュラムモンスターはモンスターであると同時に魔法カードとしても扱われ、赤と青、左右に1つずつ存在するペンデュラムゾーンに置かれることでその真価を発揮する。赤と青のペンデュラムスケールにはそれぞれ数字が刻まれており、その数字と数字の間のレベルのモンスターを手札・エクストラデッキから特殊召喚できるのがペンデュラム召喚である。
 今から1年前に登場したペンデュラムモンスターは瞬く間にデュエル界を席巻。【EM(エンタメイト)】【妖仙獣】【マジェスペクター】【DD】【メタルフォーゼ】……1年の間で禁止カードに指定されるカードが登場するなど、ペンデュラム召喚を駆使したデッキはプロの中にも愛用者が多い。
 そんなペンデュラムモンスターの代表格にして、デュエル界における超レアカードの一種として扱われているのが、この少年の手の内にある“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”。10代の少年の財布で買える代物ではないこのカードが、何の因果か3枚もこの少年に渡る。少年は運命というものが存在する、ということを改めて認識することになったのだ。











「オッドアイズ……どんな形とはいえ、お前は俺の中にいる。今日も頼むよ?」


 優しい笑みを浮かべながらカードに語り掛ける少年。男に言われた通り、絶対にこのカードを手放すつもりなどない。しかし、そんな少年の決意を嘲笑うものがいた。人の力ではどうにもならない自然だ。
 天気予報では気象予報士がこんなことを言っていた。「今日は春一番が吹くでしょう」と。春を告げる一陣の風が少年を襲った。うわっ、と一瞬怯んだ少年の手からは絶対に離してなるものか、と誓っていたはずのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのカードがふわふわと舞い上がる。開発の時点で防水加工が為されているとはいえ、所詮は紙のカードである。風の前にはやはり無力であった。


「ああっ、オッドアイズ!」


 少年は精一杯ジャンプしてカードを掴もうとするが、170センチ代前半の少年がジャンプしたところでたかが知れている。無情にもカードはアカデミアの塀を越えて敷地内へと飛んで行ってしまった。
 どんなことをしてもこのカードを失うわけにはいかない。周囲に誰もいないことを少年が確認すると、少年はアカデミアの塀を乗り越えてアカデミアの敷地内へと侵入する。彼の頭の中には「アカデミアの人間に見つかったらどうしよう」などという考えは当然存在しなかった。










「……カード? なんでこんなところに?」











 風の悪戯で飛ばされたカードは幸か不幸か一人の人間の前にひらひらと降り立った。腰の辺りまで伸びた美しい黒髪が印象的な少女はそのカードを拾い上げる。


「あっ、あの! それ……俺のカード……です」


 息を切らしながら掛けてきた少年はそのカードを拾い上げた少女を見て言葉を失った。このデュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの躍進の理由は教育者と協賛者だけではない要因がある。それはこのアカデミアに所属する生徒だ。
 前途有望なデュエリストがこのアカデミアには数多く所属しているのだが、そんなデュエリストたちがこのアカデミアに進学を希望した一番の理由はこの少女がアカデミアに在学している、ということにあった。
 わずか7歳でプロの世界に飛び込んだこの少女は、家庭の不幸という理由で引退するまでの3年間で世界中に衝撃を与え、今の10~20代のデュエリストたちが皆「彼女のようになりたい」の憧れた存在。それが彼の目の前にいる。




(……天都 遊希……!!)



 黒髪の美少女、こと天都 遊希を見て呆然と立ち尽くす少年。遊希はそんな少年を見て怪訝そうに首をかしげる。
 


「……これ、あなたの?」
「あっ、あの!!」
「?」





「お、俺! 高海 遊大(たかみ ゆうだい)って言います!! あ、天都 遊希さん、俺と―――デュエルしてください!!」






 その存在が伝説と化した少女・天都 遊希と、そんな少女に憧れる少年・高海 遊大。少年と少女の出会いからまた新しい物語が始まろうとしていた。










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ター坊
銀河眼の次はオッドアイズと来たか!
遊希の登場やペンデュラムモンスターの記述から、前作から2年後の世界みたいですね。銀河竜を駆る少女の出来映えから、期待大しかありませんね! (2017-01-16 14:34)
白金 将
新作が始まりましたね(*´ω`)ヤッター
今回はオッドアイズがテーマになりそうな感じ。早速前作の主人公であった遊希ちゃんとデュエルということになりますが、果たして今回の主人公君はどのような戦いを見せてくれるのか……? (2017-01-17 00:31)
光芒
ター坊さん
コメントありがとうございます。そうですね、銀河眼の次はオッドアイズがメインです。ただオッドアイズはそうですが、精霊はこの世界では一体しか存在しない……ということになっているので遊大の中にもう1つの心が的なことにはなりません。

>遊希の登場やペンデュラムモンスターの記述から、前作から2年後の世界みたいですね。
銀河竜を駆る少女のラストデュエル:3月(遊希たち1年生)
ペンデュラム召喚一般流通:4月
銀河竜を駆る少女の最終回:5月(遊希たち2年生)

なので厳密にいうとこの作品では遊希たちは3年生になりますね。

>銀河竜を駆る少女の出来映えから、期待大しかありませんね!
やめてプレッシャーやめてください

白金 将さん
コメントありがとうございます。一応主人公のエースカードはオッドアイズになりますが、前回の光子竜ほどストーリーには絡んでこなかったりします。なので前回と比べると人間メインの話が多くなりますね。

>早速前作の主人公であった遊希ちゃんとデュエルということになりますが、果たして今回の主人公君はどのような戦いを見せてくれるのか……?
まあ相手が相手ですからね……結果は見えていると思って頂ければ。

(2017-01-17 11:29)

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