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HOME > 遊戯王SS一覧 > 2-6:ランチタイムは美しき監視者と

2-6:ランチタイムは美しき監視者と 作:氷色




アスナを昼食に誘ったのはユウゴだった。

極度のコミュ障であるアスナには初めての相手と一緒の昼食はハードルが高いだろうという配慮も理由の一つだが、それ以上にユウゴには彼女と二人きりになりたい理由があった。
アスナはクラスの女子数人にも誘われていたらしいが、今回はということでユウゴの方を選んでくれたらしい。フラれた形の女子達からのブーイングも覚悟していたユウゴだったが、ヒビキの決めたアスナの世話係ルールが効いているのかそうした声もなく、すんなりと学校の屋上で二人きりのランチは実現した。

「……で、どういうことなんだ?」

ユウゴは購買で買った大して美味くもない焼きそばパンをかじりながら、そう切り出した。

「どう、とは?」

アスナはクラスにいるときの無駄に優雅で気品漂う所作ではなく、いつものシンプルで涼しげな態度。
あの口調や態度がコミュ障による反応であることを考えれば、このつっけんどんな物言いは逆にユウゴには気を許しているということであり、その点は嬉しく思う。

「今朝言ってたろう、俺が監視対象になってるとかなんとか。あれのことを詳しく説明してくれよ」

ユウゴがアスナと二人きりになりたかったのはこれが理由だった。
結局、あの後は保健の先生が帰ってきてしまったこともあり、ゆっくりそのことを聞く暇はなかったのだ。
理由も分からず他人に監視されるなんて、そんなに気持ちの悪いことはない。

アスナはいちごオレを啜りながら「ああ、そのことか」と納得した。

「それを説明するには、まず我々DMCDという組織について理解してもらわねばならんな」

空になったパックをトンと置き、アスナの顔が真剣なものに変わる。

「まずDMCDは正式名を決闘対策課(Duel Monster Control Division)という。その大義・矜持は市民をデュエルモンスターの脅威から護ることであり、その職務は主に二つに大別される。“鎮定”と“管理”だ。鎮定は言わずもがな、暴走し帝都に被害を及ぼす可能性のある精霊をデュエルで打倒し被害を防ぐことだな。そしてもう一つの管理だがーー」

アスナは真っ直ぐにユウゴを指す。

「ーーこれはお前達デュエリストを管理する、ということだ」





「なぁ、ユウゴどこに行ったか知らないか?」

タツヤは手近にいた同級生を捕まえてそう尋ねた。しかし相手は首を振る。
礼を言って別れると、タツヤは首を捻る。

「どこ行ったんだ、あいつ」

ユウゴはたいてい昼食はタツヤとヒロトシと一緒に取る。場所もたいていの場合教室だ。
しかし今日はあの転校生と一緒にすると言って、タツヤ達とは別だった。

新しい担任に世話を任されたから、と言われればそうなのだろう。
しかしタツヤの知る限り、ユウゴはそんなことで自ら動くタイプではない。
それでなくとも今日のユウゴは何かがおかしい。今朝のことにしても、明らかに何かを隠そうとしていた。少なくともタツヤにはそう感じられた。

自分の記憶が昨日の帰宅途中から途切れているのも気になる。
そんな不可思議なことが起こった途端、突然担任が変わり、セキュリティバッチを着けていた少女が転校生としてやってきて、親友は挙動がおかしい。タツヤにはこれらの出来事が、何か一つの繋がりとして起きているように思えてならない。
自分の知らないところで、何かが起こっている。そしてそれにおそらくユウゴも関わっている。そんな予感が、ほとんど確信としてタツヤの胸中に渦巻き、不安を駆り立てていた。

「ったく、何か面倒ごとに巻き込まれてんじゃねーだろうな」

ふと窓から外を見上げる。
校舎はL字型に立っているため、窓からは斜め向かいに屋上が見える。
人の姿はそこからでは見えない。
しかしタツヤの足はなんとなく屋上に上がる階段がある方へと進んでいった。





「DMCDがデュエリストを管理する?」

「そうだ」

その問いにアスナが頷くと、ユウゴの口元は笑みの形に歪んだ。

「そんな、犯罪者でもあるまいしーー」

「“そう”ならない為に我々が監視し管理するのだ」

アスナの視線は刺すように冷たい。
そこには揺るがぬ決意が宿っているかのようだ。

その異様な冷たさがユウゴの焦りを助長する。

「ちょっと待ってくれよ。それじゃあまるで俺が危険人物としてマークされてるみたいじゃないか」

何かの本で、重大な犯罪を犯す者はDNAにその要因となる遺伝子が予め組み込まれているという説があると読んだことがある。アスナが言っているのはそういうことだ。
この図式に当てはめると、“デュエリスト=犯罪を犯す可能性を示す遺伝子”ということになり、DMCDはその遺伝子を持つ者をその人の人間性等を無視して一律に犯罪予備軍として統轄しているということになる。そんな横暴が許されてたまるか。

「では訊くが、お前は何故自分が危険ではないと言える?」

「そりゃあーー」




「昨日のエビル・デーモンとのデュエルーーその後の惨状を見て、お前は自分には人を傷付けるような要因がないと本気で思っているのか?」




言われてハッとする。

「地形が変わるほど大地は抉れ、辺りは焼け野はら。ほんの小一時間前まで人々が行き交い平和な時が流れていたはずのあの場所を、完膚なきまでに破壊し尽くしたのは他の誰でもないお前自身の力なのだぞ」

「で、でもあれはーー」

反論しようとするが、その先の言葉が見つからない。
あれは確かにユウゴとエビル・デーモンが戦った余波によって引き起こされた破壊だ。ユウゴが意図して行った破壊行為ではない。しかし、エビル・デーモンを屈服させその力を得た今のユウゴには、あの破壊を引き起こした力の全てが宿っているのもまた事実だ。

「確かに私も、お前が魔力を悪用して犯罪を犯すような輩だと思っているわけではない。しかしそのような人間性を一旦無視せざるを得ない程に、デュエリストの持つ力というものは強大なのだ」

アスナの言わんとすることが、ようやく実感を伴って理解できてきた。

デュエリストは自身の魔力を使ってモンスター、魔法、罠を現実の武力として行使することができる。
その力はまさに圧倒的で、人智を遥かに超えたものだ。それはエビル・デーモンとのデュエルでユウゴ自身、嫌という程に思い知らされた。

デュエルという形式をとっているならばまだいいが、あの力の矛先が魔力障壁も精霊の耐久力も持たない一般市民に向けられたとしたらどうだろう?

例えば、核ミサイルでも化学兵器でも銃でもいい、そういう他者にとって圧倒的に脅威となる武器を所持している人がいるとして、その所持者個人の人間性に全てを委ねて何の対処もせずそれを見過ごすことなどできない。アスナがしているのはそういう話だ。
もしもそれで何かが起きた場合、それは取り返しのつかない圧倒的かつ未曾有の惨劇となる。

「デュエリスト一人の持つ軍事力は、完全武装した一個中隊に匹敵またはそれを上回る規模だと言われている。そんな力が個人の裁量でどうとでもされるのだ、その存在そのものが人々にとって充分な脅威だとされても仕方あるまい。ましてお前が倒しその力を得たのはレート6+という大物。否応にも警戒されるのは当たり前だろう」

これまで、大した訓練も受けていない素人同然のデュエリストがこれほどの大物を屈服させた前例は、少なくともアスナが知る限りはない。
それ故に支部もユウゴの取り扱いについては決めあぐねているのが実状だろう。

だからこそ支部はアスナを転校生としてこの学校に赴任させた。
支部が彼女に課した任務は監視ももちろんだろうが、大きな役割としてはストッパーとしての意味合いが強いだろう。DMCDにとって有益かどうか判断のつかないユウゴの傍に知人であるアスナを配置し、これを精神的な枷とすることで彼を暴走できないようにするつもりなのだ。
万が一、ユウゴがアスナを排除するような素振りを見せれば、DMCDは即座にユウゴを拘束するだろう。要するにアスナはユウゴを判定するための試験薬であり、ユウゴの暴走に対する人身御供なのだった。

DMCDのアスナに対する評価が知れるというものだ。

アスナはそう自嘲めいた息をつく。

「DMCDがデュエリスト達をどう見てるのかは分かった。じゃああのカードゲーム部の人達にもこうして監視が?」

ユウゴが訊く。

「いや、彼らはすでに支部の承認を受けたデュエリストコミュニティに所属している。この学校で言えば、あの“カードゲーム部”そのものがそれだ。あのヒビキという教師が言っていただろう、カードゲーム部の活動はDMCDの下請けだと。彼らはあのカードゲーム部に所属することでDMCDへの友好を示し、民間協力者という立場を確立させている。警戒レベルはお前を基準にすれば、かなり低いと言えーー」

と、そこまで答えたアスナの目尻がピクリと痙攣した。
ふい、とその視線が屋上の出入口付近に注がれる。

「どうしたーー」

突然雰囲気が変わったアスナの様子にユウゴが尋ねようとするが、それは制された。
アスナの細い人差し指が彼女の唇に立てられる。いわゆるシー。ビークワイエット。静かにしろ、のジェスチャーだ。
ユウゴも訳は分からないが、反射的に黙る。

彼女がそうしていたのはほんの1、2秒。
すぐに唇から指を離し、言葉を続ける。

「ですから、これ以上警戒されないためには、まずはカードゲーム部に入部されるのをオススメ致しますわ」

いきなり教室での優雅な口調に戻っている。

だがユウゴも今度は気付いた。
アスナがこの口調でしゃべるのは、近くにユウゴ以外の人物がいる時だけだ。
この会話が誰かに聞かれるのはユウゴ・アスナ共に避けたい。これ以上の会話は続けられそうにない。

そこでタイミング良く校内放送が流れた。

内容はユウゴにヒビキのところへ来るようにとのものだった。

「なんだろ?」

言いながらユウゴはコンクリートの地面から腰を上げる。

「わたくしのことは気にせず、行ってらして下さい。わたくしももう教室に戻りますわ」

そう言ってアスナはひらひらと手を振る。
それになんとなく「さっさと行け」というアスナの意思を感じて、ユウゴは不服そうにではあるが屋上から去っていった。



少し間をおいて、同じ出入口から顔を出したのはタツヤだった。

「やあ、天上院さん」

「あら、城之内くん」

笑顔で手を上げるタツヤに、アスナもにこやかに返す。

「武藤くんなら今しがたヒビキ先生に呼ばれて行かれましたよ」

「知ってるよ」

校内のどこにいても聞こえるから校内放送なのだ。当然タツヤにも放送の内容は聞こえていた。
と言うかーー

「あら、では入れ違いでしたわね」

そう言ってアスナはにっこりと笑う。

それをタツヤは鼻で笑った。

「よく言うよ、俺がそこに隠れてたのは気づいてたんだろ?」

タツヤがこの屋上に上がってきたとき、二人の会話が聞こえてきて反射的にドアの陰に隠れて聞き耳を立てていたのだ。
と言っても話の内容はほとんど聞こえなかったが。

鎌かけのようなタツヤの問いかけに、アスナは何も答えない。一瞬の動揺もない。ただにこにこと微笑んでいる。

こえー女だ、とタツヤは内心で毒付く。
どうやらちょっとやそっとの揺さぶりでボロを出すタマではなさそうだ。

「アンタはこれからも俺達のクラスにいるんだよな?ならクラスメート同士で腹の探り合いは御免だ。単刀直入に訊くわ」

ふうっとタツヤは息を吐く。

タツヤは高校生にしてはクレバーな男だ。
しかし相手は専門の訓練を受けたプロ。心理戦で勝てるはずもない。
それを一瞬のやりとりで確信するタツヤも流石ではあるが。

だからこそ質問をストレートにぶつけてみることにした。
手練手管などお構い無し。時にはそういう戦法が有効な場合もある。

「アンタがセキュリティの人間だってことは分かってる。何を企んでこの学校に来た?何の目的があってユウゴに近づく?答えてくれ!」

タツヤのあまりに馬鹿正直な問いに、アスナは笑みを消した。
そして氷の眼を据えて真っ直ぐに彼を視た。







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氷色
カードゲーム部顧問の教師・響紅司の通称を「コウジ」から「ヒビキ」に修整しました。戸惑った方がいらっしゃいましたら申し訳ありませんでした。 (2016-10-30 13:56)
から揚げ
親友思いのタツヤがイケメンですね!。それにしても、専門の機関が監視しているとか、この世界のデュエリストって結構ヤバい存在なんですね〜。アスナも大変そうですね。 (2016-10-30 17:54)
氷色
アスナはこれからどんどん大変になっていきますよ。
久しぶりにおっPに関しないコメントでびっくりでした笑 (2016-11-01 06:51)

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