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HOME > 遊戯王SS一覧 > 2-3:答えは決まっている

2-3:答えは決まっている 作:氷色

「お断りします」

ユウゴはできるだけ丁寧に頭を下げた。

「ええッ!?即答!?」

予想外のユウゴの反応に、アキラだけではなく他の面々も思い思いの驚きを見せる。
戸惑いを感じるというくらいなら予想していたが、まさか即答で断られるとは思っていなかった。

「な、なんで!?そりゃ後つけたりしたのは悪かったと思うけど、もう恩を傘にきて言うけどその後わりと私達キミの役に立ったでしょ!?」

「それは感謝してます。だけど俺は部活に入るつもりはないんです。そもそもここって何する部活なんですか?」

新入生のレクリエーションで行われた部活紹介では、カードゲーム部なんて部活は参加していなかったはずだ。
まさかこの人数のデュエリストが集まってトランプなんかをしているわけではあるまい。

「デュエリストの集まりなんだ、そりゃデュエルしてるに決まってるだろ」

ユウゴの問いに答えたのはアキラでもケンゴでもなかった。
いつの間にか出入口のドアが開き、中年の男が立っていた。

一番出入口に近かったアスナがギョッとした顔をしている。

短い黒髪に無精髭。少しくたびれてきているスーツ姿から、彼が学生ではないことは一目瞭然だ。
若い頃はなかなか精悍だったであろう目鼻立ちの通ったその顔付きには見覚えがあった。

「響先生……!?」

『響 紅司(ヒビキ コウジ)』は有馬第一高校の教諭である。担当科目は現国。
ユウゴとは直接の関わりはないものの、彼のことは知っている。
飄々としていて言動は軽薄だが、それがウケてか生徒には存外と人気がある先生らしい。
ちなみにアラフィフのバツイチ独身。

「なんでヒビキ先生が、ここに?」

「そりゃお前、俺はここの“顧問”だからな。俺がいなきゃお前らだけでこんな時間に部室なんか使えるわけないだろ」

そう言って、ヒビキは部室に入ると、手近なパイプ椅子にどかりと腰を下ろした。
ふわっと煙草の匂いがする。
じっとユウゴを見つめ、フッと笑った。

「そうか、お前がアンリが見つけてきたっていう武藤ユウゴか」

ほぼ初対面にも関わらず相手を“お前”と呼ぶ。なるほど確かに他人との距離感の取り方が普通ではない。

「アキラに聞いてるぜ。レート6+の精霊を倒したそうじゃねぇか」

そのヒビキの言葉にアキラとカエデ、そしてアスナを除く面々がザワッと顔色を変える。

「レート6+を一人で……?」

どうやらアキラ、カエデ、アスナ、そしてヒビキ以外の面々はユウゴが勝ったというエビル・デーモンのレートまでは聞かされていなかったらしい。
これまでユウゴに全く興味を示していなかったイズミも、これには流石に驚いた顔をしてそちらを見ている。

「事実だ」

と、アスナが肯定したことでさらに驚愕は広がる。

エビル・デーモンとのデュエル前、アスナは「レート6+と戦うなんて普通は有り得ない」と言っていたが、どうやらそれは彼らデュエリストの間では共通の認識のようだ。今更ながらあのときの恐怖感がにわかに甦る。

「ここの主な活動内容も今日お前がやったことと同じだよ。暴走して人様に迷惑をかける精霊を、話し合いかそれがダメならデュエルで屈服させる」

「要するにDMCDの下請けだな」と、付け足してコウジはこちらの反応を窺うようにしてニヤリと笑った。

「そうッス!時には強力な精霊とも戦わなくちゃならないんス!エビル・デーモンを倒したキミはアタシ達にとって、とんでもない逸材なんス!是非アタシ達と一緒に戦って欲しいんス!」

カエデも強く言うが、ユウゴの顔には困惑しか浮かばない。

「買い被りすぎですよ。俺は本当にただの素人です。今回エビル・デーモンに勝てたのだって、まぐれみたいなもんでーー」

「デュエルに“まぐれ”はねぇよ。デュエルってのは魔力の駆け引きだ、運も魔力に勝る者が引き寄せる。今日のデュエルもそうだったろう?」

確かにヒビキの言う通り、思い返してみれば精神的に優位に立った瞬間から思うようにカードを引けるようになった。
運を引き寄せようと考えてやっていたわけではないが、結果的にはその通りだったのだろう。

「エビル・デーモンの魔力をお前の魔力が上回ったから、お前が勝ったんだ。強い魔力というのは才能だ、お前が本当にレート6+の精霊に勝ったんなら、お前が得難い逸材であることに疑いはないさ。少なくとも“今のデュエル”ではな……」

彼らが自分を買ってくれているのは分かる。
しかしそれでもユウゴの心は動かなかった。いや、むしろその期待こそがユウゴのネックになっていると言える。

「……それでも俺はこの部には入りません」

そう言った声はまるで絞り出したかのように震えていて、ユウゴ自身もその響きに驚いた。

「理由を聞いてもいいかしら」

アキラがふぅっと深く息を吐く。
彼女のその声は落ち着いていて、先程まであれほどはしゃいでいたのと同一人物とは思えないほど大人びている。

それに対してユウゴは自嘲ぎみに笑う。

「理由は単純です。怖いんですよ。あんな怖い相手とこれからも戦い続けるなんて俺にはとても無理です」

ここに運ばれたばかりの時のユウゴを思い出す。
打撲、擦過傷は数知れず、火傷は水ぶくれになり、それは痛ましい姿だった。
あれほどの傷を受ければ、トラウマになってもおかしくない。

それでも、とカエデが何かを言おうとするが、それを制したのはアキラだった。

「分かったわ、今日はこのくらいにしましょう。私達も無理強いするつもりはないし」

まるで休廷でも言い渡すかのような言い方。まだ諦めたわけではないという意志が見え隠れする言葉ではあったが、それでもそこからはユウゴを労る気持ちが伝わってきた。

状況だけ見れば多人数で取り囲み恩を盾に脅迫しているようでもある。時間が時間だけに、監禁と言われても仕方ない状況だ。
それはアキラ達の本意ではない。
彼女達はあくまでユウゴを仲間として迎え入れたいのだ。

ユウゴは軽く頭を下げると、荷物を取り、退室した。
アスナは一緒には来なかった。

「あのッ、武藤くん!」

代わりに追ってきたのはアンリだった。

一度家に帰ろうとしていたユウゴは部室棟の出口付近で追ってきたアンリに呼び止められた。

「カードゲーム部には入らないよ、真崎さん」

説得は無駄だと先に断りを入れるユウゴに、頑なな意思を感じつつアンリは首を振る。

「違うの。もっと……その……個人的なこと」

言いながら少し乱れてしまった髪を直す。その仕草は妙に艶っぽい。
たぶん彼女は運動が得意ではないのだろう。部室からここまでの短い距離を少し駆けただけなのに、頬が少し上気している。それが先の艶っぽさの正体か。

頭にクエスションマークを浮かべるユウゴに、少し照れたような表情を浮かべる。

「あの……私のこと、覚えてない?」

現代社会を生きる日本人にとって、これほど嫌な質問は多くないだろう。
言われた瞬間に心臓を掴まれたようにキュッと身が縮む。脳がフルスロットルでの回転を要求され、ユウゴの額から煙ではなく冷や汗を吹き出させる。
覚えているのならいい。覚えているのなら何の問題もない質問なのだ。
ユウゴは必死に記憶の中の彼女を探すが、しかしその姿は濃い霧の中だ。

アンリはフリーズしてしまったユウゴに自嘲の笑みを見せる。

「覚えて……ないよね、私地味だし」

何故だろう、申し訳ないを通り越して死にたくなる。
謝るより他にどうすればいいのか分からず、ユウゴは潔く頭を下げた。
エビル・デーモンの言っていた通りだ。潔さこそ敗者の尽くすべき礼儀。

「ごめん、分からない。何処かで会ったかな?」

「小学校の時、一度だけ同じクラスだったの。私すぐに転校しちゃったから、覚えてなくても仕方ないよね」

頭を下げたユウゴに逆に慌ててアンリは種明かしをする。

「あ……」

その情報から、ユウゴの中で帰結するものがあった。
確か5年生の時だっただろうか、確かに彼女によく似た雰囲気の女子が同じクラスにいた。すぐに転校してしまったので話したことはなかったが、なんとなく覚えている。

「あの子が、真崎さん……?」

「思い出してくれた?」

アンリは嬉しそうに目尻を下げる。

何故すぐに思い出せなかったのだろうか。あの時の女子と今目の前のアンリとは、髪の色や長さ、黒縁の眼鏡をかけていること、その控えめな存在感に至るまで符合する特徴は多い。年齢や身長などを除けば、決定的に違うのは胸の大きさくらいのものだ。
人の顔や名前を覚えていることには自信があったのだが、どうやら自惚れだったらしい。

しかしまさかこんなところでそんな頃の知人に出会うとは、帝都とは言え世間というやつはやはり狭いものだ。

「武藤くんのお友達もチラッと見たけど、あれ城之内くんだよね?懐かしいな」

そう、タツヤもまた同じときに同じクラスだった。人の顔や名前を決して忘れない彼ならばすぐに分かったのだろうか。

「武藤くんも城之内くんも変わってなくて安心した」

そう言ってアンリは微笑む。
その笑顔はカードゲーム部の彼女としてではなく、小学校の同級生としての笑顔だ。それにユウゴは少し安心する。

「真崎さんも変わらないよ。どうしてすぐに分からなかったのか不思議なくらい」

言うほど当時のアンリを知っているわけではない。
しかしユウゴの脳裏に残る彼女の姿は今のアンリに繋がるものであることは確かだ。

「アンリ」

「えっ?」

「アンリでいいよ。仲の良い人達はみんなそう呼ぶから。武藤くんにもそう呼んで欲しいな」

少し照れながらはにかむその姿は、とても地味だとは言えない輝きを放っていた。

「俺もユウゴでいいよ」

思わずユウゴもそう言っていた。
アンリとは違い、ユウゴにはそう呼ぶ親しい友人は少ない。極力そういう友人は作らないようにしてきた。
しかしアンリの笑顔には抗えない魔力のようなものがあった。
それは決してデュエルで使う魔力とは別種のものであったが。
本当に女の子の笑顔ってズルいよな。

「分かった。じゃあユウゴ……くんって呼ぶね」

きっとアキラ達が言っていたストーカー気質とかうんぬんは彼女達の勘違いなんだろう。
こんなに眩しい笑顔をするアンリがそんな粘着質な性格なはずがない。

そうしてユウゴ達は少しだけ昔話をして当時を懐かしんだ後別れて家路へと着いた。

カードゲーム部に入るつもりはないがせっかくできたアンリとの繋がりは切りたくないな、とそんなことを考えながら、ユウゴは帰宅した。




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氷色
小説とは関係ありませんが、今日実家近くで大きな地震があり、少しですが実家も被災しました。幸い怪我人はいませんでしたが、日頃の備えの重要さを痛感致しました。皆さんも日頃から気を付けておいて損はないと思います。まずは家具が倒れないような処理をしておくことをオススメします。
氷色でした。 (2016-10-21 19:01)
氷色
今話で2000閲覧を達成しました!
ありがとうございます! (2016-10-21 20:38)
から揚げ
結構地震でかかったですよね、ご無事でよかったです!余震に気をつけてください。それと、2000閲覧おめでとうございます!これからも無理せずに、頑張ってください!応援しております!感想の方ですが、まあユウゴが断るのは当然ですよね。今回は大怪我を負いながらも勝利を収めましたが、次も勝てるかどうかはわかりませんし。私だったら、一戦毎にアンリちゃんやアキラ部長やマナちゃんの巨乳で癒やしてもらえるのであれば、やってみたいと思います(オッP星人感)まさか、アンリちゃんが幼馴染みとは、ユウゴの後をつけ回そうとしていたのは、ユウゴに会いたかったからなんですね、健気だなぁ。私としては、城之内も自分の精霊を見つけてユウゴと一緒に活躍する展開も見たいですね!後は、カードゲーム部の面々やマナちゃんと親睦を深めるためにも、水着回や温泉回が見たいです! (2016-10-22 11:50)
氷色
コメントが遅くなり申し訳ありません汗
タツヤがデュエリストになる可能性は……あるのかな?ないのかな?まだ決めてません笑
10月の設定なので、水着回はまだまだ先になりそうですね。温泉回はアリかも。
今後はしばらくこのカードゲーム部の面々にフューチャーした展開になりそうです。よろしくお願いします。 (2016-10-26 12:42)

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