第13話　その男ゲスにつき　作：ｸﾄｩﾙﾌ大好きな人

　次の日……

「ん～、今日も良い天気だ」


　朝日を浴びながら庭で背伸びをしている心。すこし早めの起床から朝食の準備をした後、一人で体を動かしていた。



　いつもなら宇宙だけが泊まっているが、今日はさらにもう一人香蓮先輩も泊まっている事もあり朝食はどうするか悩んだが、テーブルに和食がいいと希望が書かれたメモ用紙がおいてあった。文字からして宇宙が書いたものだろう。それを見た心はわかめと豆腐の味噌汁に焼き鮭、厚焼き玉子に納豆と漬物を用意してご飯が炊けるのを待っている。炊飯器からは湯気が昇り、タイマーも後５分ほどとなっていた。




「おはよう心、今日もえらく早起きだな」


　リビングに最初に入ってきたのは宇宙だった。


「おはようソラ姉。もうすぐご飯も炊けるよ」


　心は庭の花に水をやりながら返事をしている。今水を与えているのは心の母が育てているゴールドマリーやバンジーといった色鮮やかな花が多い。


「相変わらず愛さんは花が好きなんだな」


　宇宙はソファーに座りながら庭を眺めている。


「でもお母さんは忙しいから世話とかはほとんど僕がやってるんだけどね」


文句を言っている心ではあるがその表情は嬉しそうなものだった。




「おはようごじゃいますわ～」


　大きな欠伸をしながら香蓮が遅れてやってくる。長い髪は寝癖で爆発した後のように見えるレベルであったりｗ



「あはようございます香蓮先輩。みんな揃いましたしご飯にしましょうか」


　心はホースを片付けると手を洗った後に中に入って朝食を並べていく。席についてはいるが半分寝ている香蓮と、朝からエプロン姿の心を見て元気一杯の宇宙。いつもより一人多い朝食の時間に心は嬉しそうな顔で席についた。



　ちなみに香蓮は納豆が苦手なようで真っ青な顔でワタワタしていたようですｗｗ




　食後は三人でデュエルしたりちょっとした雑談で盛り上がり、お昼には香蓮の執事が迎えにきたのでお見送り。残った二人はしばらくテレビを見ながらゆっくり過ごしていた。特集ではゴールデンウィーク間近であり、外出先のオススメスポットや食べ物などのものばかりだ。



「そういえば心、お前はゴールデンウィーク中はどうするんだ？もし予定が無ければ私と……」


「ん？ゴールデンウィークならもの予定が入ってるよ？」


　あっさり返ってきた返事に宇宙は一瞬落ち込むが、まだチャンスはあると考える。


「ちなみにだが、その用事というのは……」

「うん♪僕の彼女の凛ちゃんが泊まりにくるんだ」


　宇宙の頭の中で無限にリピートされる「僕の彼女」というワード。何かの聞き間違いあって欲しいと願うも心の表情を見れば間違いでないと分かる。今まで異性との接触やそういった話題が一切上がっていなかった為完全に油断していたがまさか心がそこまで進んでいたとは……


　だがそれでも、０に等しい可能性であったとしても宇宙は諦めない。

「な、なぁ心。もしよければ心の彼女の事を教えて貰ってもいいかい？お姉ちゃんとして色々心配でな？」


「ソラ姉は相変わらず心配性だね、でも大丈夫だよ？その子ソラ姉と同い年だし、僕が参加したあの合宿で同じ班だった子だがら」



　その後も心からはその「凛」いとう少女の話をと称して延々と惚気られ、宇宙の顔を絶望の色へと染まっていくのだった。






　その日の夜……


　人気のない町外れの廃工場に二人の男女がいた。女は見た目からするに、一般的な表現をするなればギャルと称される格好をしている。そしてその女が腕を組んでいる男、身長はかなり高くオールバックに纏められた髪。着崩した制服は心達が通っている高校と同じ制服で大きく肌蹴た上着の下にはヒョウ柄の服が見て取れる。

　いかついヤンキーのような男とギャルのような女は誰も居ない工場の中へとはいっていく。


「ねぇ葛谷～、わざわざこんな所に来なくったっていつも見たいに葛谷の部屋でいいじゃ～ん」


　葛谷と呼ばれる男の腕を引っ張りながら女は言葉を続ける。


「肝試しにも早いしさぁ～、それより私はいつもみたいに楽しい事がしたいな～」


　女の手はゆっくりと葛谷の下へと伸びていく。が、葛谷を女を引き離し先に進む。



　女は慌てて追いかけると建物の中で広い場所に出た。葛谷はその真ん中に立っている。


「なぁ女」


　葛谷は女を見る事なく話しかける。


「今日は何の日か覚えてるか？俺らが付き合ってもう三ヶ月目だよなぁ。だから俺から取って置きのプレゼントを用意したんだよ」



　そういって葛谷が指を鳴らすとどこからともなく知らない男達がゾロゾロと現れる。「ひっ」と小さく悲鳴を上げる女だったが数人の男に抑えられ声も出せないようにされてしまう。



「俺からのプレゼントってのは何となく理解出来たんじゃねぇか？そう、お前との別れ話だよ！お前が前から他の男と二股掛けてたのは知ってんだよ。だから別れるついでにお前の大好きな男を一杯用意してやったんだぜ？感謝しろよ？」


　女は身動き出来ず、声も出せない。だが必死に否定をしようと首を振るが葛谷はすでに一人歩き出していた。錆びた扉は閉めようと葛谷は一度振り向く。


「精々楽しむ事だな」


　暗闇で顔が見えない葛谷が歪んだ笑顔を浮かべていた。




　しばらく一人で歩いていた葛谷を遮るように一人、道の真ん中に立っている女がいた。


「あれれ～？葛谷くぅ～ん、今日は一人なの～？」


「うるせぇよ猫被り野郎、とっとと失せろ」


「いやぁ～ん☆葛谷くん怖～い」


「相変わらず鬱陶しい女だな『擂芽』。なんの用だ」


　葛谷の問いにニヤリと笑みを浮かべる擂芽。彼に見えるように一枚の写真を見せる。


「んだよこいつは。俺がこうゆう奴が嫌いだって分かってやってんだろうが」

　葛谷は写真を奪うとすぐさま破る。その写真には『一 心』が写っていた。


「葛谷くんがさっき女の子を捨ててきたでしょ～？だから新しい女の子を紹介してあげようかなってぇ～☆ミナミやっさしぃ～♪」


「その割りに見せてくるのが男女の写真ってか」


その表情には苛立ちが見える。


「来週にゴールデンウィークが来るでしょ？そしたらその写真の子の彼女がわざわざ遠くからやってくるの。後は言わなくても分かるでしょ？クズ谷くぅん？」


　擂芽は女がしてはいけないようなどす黒い笑みを浮かべる。


「なるほど、俺が嫌いな男の女を寝取るって訳か……。たまには面白い事言うじゃねぇか擂芽。伊達に退学しただけの事はあるな」


「あれは私の意志じゃねぇよ！あのクソ野郎が余計な事をしたせいで私の居場所を奪われたんだよ！！だからアイツらに復讐を……はっ」



　咄嗟に口を押さえるがすでに時遅し。葛谷はとてもいい表情を浮かべている。


「俺はお前みたいなクズ野郎は嫌いじゃねぇよ？面白い情報あんがとよ。来週が楽しみだわ」



　葛谷は暗闇の中へと消えていった……