56 オペレーション・アブソーブ　作：ギガプラント

（ジェネシックスタジアム・通路）


避難した人でごった返す通路をなんとか通り抜けていく夏武斗。


夏武斗「天姉！天姉ぇ！！」


夏武斗「くっそぉ…まさかまだ外に…！？」


「ったくなんなんだよあの異常気象は！？」
「うぁ～ん！お母さんどこ～？」
「落ち着いて！今は一旦落ち着いて下さい！」


夏武斗「っ！悪ぃ通して！通してくれ！」


扉が外れて倒れおり吹きっさらし状態となっているゲートまで辿りつく。


夏武斗「くあっ！！なんて風だよ！？こんな中に居たら……天姉えええ！！」


スタッフ「君！危ないから外へは……！！」


夏武斗「っ……！！」


スタッフの制止を無視し外へ飛び出す。


夏武斗「天ねうっわ！！！」


大きく風に煽られてバランスを崩す。
そのまま大きく転倒し３、４回転がり漸く地面に突っ伏す。


夏武斗「くっ！痛って～！台風の時だってこんな風吹かないぞ…！」


夏武斗「デッキだけは飛ばされねえようにしない……と。」


壁際のありとあらゆるものに掴まり、ゆっくりと壁沿いに立つ。


夏武斗「ふぅ…ぃしょっと！。」


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ロバート「夏武斗！？おい夏武斗！！」


ロバート「おいおいまさかホントに出て行っちまったのか！？」


仁「世話の焼ける…！」


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夏武斗（この中を歩き回るのは無理だ…）


夏武斗（何も考えずに出てきちまったけど、このままじゃ俺もヤバい。）


夏武斗「にしてもなんでこんな……ん？」


ホルダーの中から微かに光が漏れている。


夏武斗「まただ、またカードが……っ！！」

一瞬気を抜いた瞬間、再び前のめりにバランスを崩す。
なんとか足を前へ出し転倒は免れたが、そのまま背中にとんでもない規模の風が襲い掛かり、前へ前へと身体を押し出す。


夏武斗「ぁ～あ～あ～あああ！！！」


夏武斗の意志に反してどんどんと走り出す身体。


夏武斗「んぬぁにおおお！！なんの…これしきいいい！！」


全身の力を振り絞り、近場の出入り口になんとか転がり込む。


夏武斗「はぁ…。死ぬかと思った。」


夏武斗「よし、デッキもちゃんと無事だ。」




夏武斗「ああぁっ！？」


デッキに伸ばした手を見て声を上げる。


夏武斗「天姉に貰ったバングルが！！」


周囲を見渡すがどこにも見当たらない。


夏武斗「あっ！？もしかしてさっき転んだ時に…！」


夏武斗「くそっ！……天姉。」


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（管制室上部）


アリス「きゃっはは！！会場が吹き飛ぶかもとは言われたけど、ホントにこんなめっちゃくちゃになるんなんてびっくり！！きゃはは！！」


マヘル「潮時だ。アリス、ヴァルト速やかに撤退しろ。セキュリティに来られたら厄介だ。」


アリス「はいはい。」


一度通信を遮断する。


アリス「さて…と」


顔全体を覆っていたフードを外す。


そのまま楽々とアブソーバーを担ぎ、管制室へと降りていく。


アリス「ってかセキュリティも何もみ～んな外に逃げ出してるんだけどね。」


アリス「オペレーション・アブソーブだなんて気取った名前だけど、やることは簡単だったわね。」


アリス「こんなとこにわざわざ来る奴なんか居ないって～の。」












？「それが居るんですよねぇ。」







アリス「！！？」



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天音「ふぅ…ひとまず安心ですね。」


天音（とりあえず…夏武斗君や仁君の試合の時じゃなくて良かった…。）


「痛って～思いっ切り転んだ～」
「くそっ…あのまま行けば絶対俺の勝ちだったのに…。」
「あーもー！！よりによってどうしてグレイシア様の試合の時に…！」


天音「グレイシアさん……。」


天音（いつの間にかいなくなっていましたけど…大丈夫でしょうか。）



ｶﾝｯ!



天音「！！」

ゲートの方向から聞こえた音に一瞬身体を強張らせる。


天音（この風で色々なものが飛ばされてきているんですね…。）


天音（何が飛んでくるか分かりませんしここは……）


天音「えっ！？」


飛んできた物を見て目を丸くする。


天音（あのバングルって……）


天音「まさか…！！」


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（関係者用通路）


夏武斗「風が止んだら見つかるかなぁ……もし見つかんなかったら」


夏武斗「いや、そんなことより今は天姉を見つけないと…。」


夏武斗「あ、そういやさっき…」


デッキホルダーを開ける。

眩い光を放つ１枚のカード。



夏武斗「ヴィクトリー・ビートル…また……」


夏武斗「なんだ？…そっちに何か……」


導かれるようにどんどんと歩いていく夏武斗。


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（通路）


初「うぅ……グスッ」


楯山「あ～もう！！いつまでも泣いてるんじゃない！」


初「で、でも……グスッ。」


竜太「あんた……デッキが…。」


楯山「………」


初「僕が…あの時デッキを落としたりしたから…。」


楯山「君のせいではない。何度も言っているだろう…。」


初「でも……」


竜太「いや、俺も一気に引っ張りすぎたんだ。もうちょっと要領良くやれたら…。」


初「竜太君は何も……！！」


楯山「あぁもう！！済んだ事をいつまでもグダグダ言っているんじゃない！！」


楯山「あの時……一人で突っ走ったのは、僕自身が勝手にやったことだ。」


初「でもそれは…」


楯山「運が悪かっただけなんだ。誰かに悪意があったわけじゃない。」


楯山「君も男なら…いつまでもメソメソしていなでシャキッと立ちたまえ。」


初「………」


楯山「それに！君等程度の子供が全部の責任を背負おうなどと片腹痛い！！」


楯山「この僕が良いと言っているんだ！今は命がある事に感謝しろ。」


初「楯山さん…。」


竜太「お前………。」




楯山「………」


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アリス「な………！」


マイティ「あ、驚きました？ですよね～普通こんな状況でこんなとこに来る人なんて居ませんもんね～。」


マイティ「重要機器が盗まれた～とかいう理由で、大会参加者に紛れて特別警戒していた訳なんですが…まさかこんなに可愛らしいお嬢さんが現れるとは～。こっちまで驚かされちゃいましたよ。」


マイティ「にしても……これは高くつきますよ～？アストベリー杯でテロ行為だなんて随分思い切ったもんです。」


アリス「ﾁｯ!」


マイティ「おっと～！下手な動きはお勧めしませんよ～？管制室の人達を気絶させるくらいは余裕だったかもしれませんが、僕は一応…それなりに鍛えてますんでね。」

デュエルディスクを構えるマイティ。


アリス「へぇ…自信たっぷりって事。期待に副えなくて悪いけどあたしはたった一人くらい何も怖くないのよ！！」












夏武斗「っ！あれは！」


二人の元まで一気に駆ける夏武斗。


夏武斗「やっぱり！！お前あの時の！！」


アリス「んなっ！？」


マイティ「あれ？あなた……」


夏武斗「おい！お前何しにこんなとこに！！」


夏武斗「まさか…お前がやったってのか…！」


アリス「また五月蠅いのが…ふん！だからどうしたっつーの！！！」


夏武斗「！？」


マイティ「あっれぇ…確か楠さん。どーしてまたこんなとこに。」


マイティ（逃げ遅れ…ではなさそうですけど。）


夏武斗「お前…大会を…アストベリーカップを台無しにしやがって！！」


マイティ（なんだかよく分かりませんが…ここは）




マイティ「お嬢さん。残念ながら一人じゃなく二人になったようです。２対１じゃあ分が悪いでしょ？ここは大人し～く投降………」






空を切るような音。


夏武斗「っ…！！？」




夏武斗の背中の数センチ後に大槍が突きつけられていた。



大槍の操者がゆっくりと口を開ける。




ヴァルト「２対２です。それもそちらに圧倒的不利な。」


夏武斗「………！」

あまりにも急すぎる出来事に声が出ない夏武斗。


ヴァルト「言う事を聞けば危害は加えません。ディスクを棄てて下さい。」


マイティ「なんとまぁ…」


アリス「遅いわよ馬鹿ヴァルト！！！」


ヴァルト「申し訳ありませんアリス様…。」


マイティ（人質を取られては……打つ手がありませんねぇ。）


マイティがディスクを外そうと手を掛けた瞬間………



ヴァルト「！！」


後方より光の帯が伸び、ヴァルトの腕を掴む。













ユニ「ジェネシック製バインドアンカーです。そう簡単には抜けられません。」


ヴァルト「くっ…！」


夏武斗「っ！！」


ヴァルトの気が一瞬逸れた瞬間にマイティの方へ移動する。


マイティ「あ、ユニ～助かりました～！！」


アリス「ったくヘボヴァルト…！！」


ユニ「あなた方には窃盗、器物損壊その他諸々の容疑がかかっています。大人しく投降してください。」


アリス「投降しろって言われてあっさりついてく奴なんていないわよ！！」


ユニ「………」


マイティ「どうしてもドンパチしたいご様子ですか…」


夏武斗「おい！お前等何でこんなことするんだよ！」


アリス「はぁ！？あんたみたいなガキンチョに教えるわけないでしょ？」


夏武斗「皆楽しみにしてたのに……皆、皆……！！」


アリス「ふん！そんなこと知ったこっちゃないっつーの！！」


夏武斗「お前ら………お前らぜってぇ許さねえええ！！！」






夏武斗が叫ぶと同時にヴィクトリー・ビートルのカードが眩く輝きだす。






夏武斗「うわ！」


マイティ「なっ！」


アリス「きゃん！！」


ヴァルト「っ！」


ユニ「あれは……！？」











？「速攻魔法発動！『ヴァイオレント・ブリザード』！」







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天音（風は……もう完全に止んだようですね。）


天音（このバングル。これは間違いなく……）



管制室の窓から異常なほどの光が漏れだす。



天音「っ！！」


天音「あれは……」


天音（もしかして……）


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誰かが叫んだその声を引き金に、外に吹いていたものとは違う猛吹雪が周辺に巻き起こる。






夏武斗「うわあああ！！なんだこれ！！」


マイティ「くっ……！！」


ユニ「だ、誰……？」


夏武斗「駄目だ…目が開けられ……」






十数秒後。最初から無かったことのように吹雪が晴れている。




夏武斗「く………なっ！？居ない！！」


マイティ「………」


ユニ「あの一瞬でアンカーを……。」




ユニ「こちらユニ。報告します。」


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夏武斗「なんだってんだよ…一体。」


マイティ「ま、一先ず無事でいられた事を喜びますか…。」


マイティ（アブソーバーは持ってかれるし犯人は取り逃がすし…結果的には全然喜べませんがね。）


マイティ「楠さん。お怪我はありませんか？」


夏武斗「あ、あぁ。っとそうだマイティ！！なんでこんなとこに……っていうかお前何者だよ！？」


マイティ「いやまぁ気持ちは分かりますけどね～半分はこっちのセリフですよ～？こんなとこに避難してる人がいるなんて思わなかったなぁ。」


夏武斗「それは…その…」







天音「夏武斗君！！」





夏武斗「あ…！天姉！！」


天音「やっぱり……もう、ホントに心配かけるんだから…。」


夏武斗「天姉………ごめん。ちょっと慌て過ぎてた。」


天音「ホントですよ…。これが飛んで来た時はホントに心臓が止まるかと思いました。」


バングルを夏武斗の手に着ける。


夏武斗「これ…天姉が拾ってくれたのか。」


夏武斗「ごめんな。また心配かけちまって…。」


天音「ちゃんと無事だったので許してあげます。……私を探してくれたんですよね。」


夏武斗「え、あぁ、うん。」


天音「その気持ちはとても嬉しいです。ありがとうございます。」


天音「でも、こんな無茶はもう嫌ですよ？」


夏武斗「あ…うん。分かったよ。」


天音「ふふ…。」




終











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（次回予告）


夏武斗「くっそ～！一体なんだってんだあいつら！」


天音「でも夏武斗君が無事で良かったです…。」


夏武斗「あ…心配かけてごめんな。」


天音「はい。……でも、どうしてこんなところにユニさんが？」


夏武斗「そうそうそれにマイティもだ。あんた達一体何者なんだ？」


夏武斗「次回！『ジェネシックのエージェント』」


マヘル「ヴィクトリー・ビートル…か。」
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・バインドアンカーとは、要するに満足アンカーの事です。