第138話：綾香の忘れたもの　作：光芒

「源竜星-ボウテンコウ……？ 竜星のシンクロチューナーですか……」


※源竜星-ボウテンコウ
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星5/光属性/幻竜族/攻0/守2800
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
自分は「源竜星-ボウテンコウ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1)：このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「竜星」カード1枚を手札に加える。
(2)：1ターンに1度、デッキから幻竜族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードのレベルは、墓地へ送ったモンスターと同じになる。
(3)：表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動できる。デッキから「竜星」モンスター1体を特殊召喚する。


源竜星-ボウテンコウ DEF2800

「ボウテンコウの特殊召喚に成功した場合、1つ目の効果を発動するわ！ デッキから「竜星」カード1枚を手札に加えるわ！ 私はデッキから“竜星の九支”を手札に加える！」
「攻撃力は0ですが、守備力が2800もあるのですね」
「そうよ、攻撃には向かないけどね」

　綾香は攻撃には向かない、とは言うが守備力2800と上級モンスターにしてはかなり高く、さらにビシキとホロウを素材にしているため魔法・罠カードの効果を受け付けない。

（サフィラの攻撃力は2500……攻撃力が0なのでオネストを使ってもサフィラでは突破できません）
「私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」


詩織　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：14　除外：0
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：33　モンスター：1（源竜星-ボウテンコウ）魔法・罠：2（竜星の具象化）墓地：6　除外：0


☆TURN05


（ボウテンコウの守備力は2800で魔法・罠カードの効果を受け付けない。あのカードを超えるには火力で勝るしかありません……私のデッキであのカードを倒せるのは……）
「私のターン、ドローです！！……綾香さん」
「……何？」
「私たちが出会ってもう半年以上経ちますね。その間色々なことを学んではたくさんの壁を乗り越えてきました。ですが、人とは忘れる生き物です。綾香さんは精霊使いとなって強くなりましたが、その代償として大事なことを忘れています」
「私が……忘れたもの？」

　綾香に詩織の言う“忘れたもの”というものについて心当たりなどなかった。自分の言った言葉の意味を掴んでいない綾香の様子を見た詩織は一瞬だけ悲しそうな顔を見せた。

「それをこのデュエルで思い出させてあげます！ 私は墓地の光属性モンスター、ライトロード・アーチャー フェリスと、墓地の闇属性モンスター、魔界発現世行きデスガイドをゲームから除外します！」

　墓地に眠る光と闇を除外。詩織のデッキでこの条件で特殊召喚されるモンスターは1体しかいない。

「“一つの魂は光を導き、一つの魂は闇を導く。混沌の世界よりその剣で未来を開きなさい！”カオス・ソルジャー-開闢の使者-！！」
「っ、開闢……」
「そして私は手札からライトロード・マジシャン ライラを召喚します」


※ライトロード・マジシャン ライラ
効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻1700/守200
(1)：自分メインフェイズに相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。自分フィールドの表側攻撃表示のこのカードを守備表示にし、対象の相手のカードを破壊する。この効果の発動後、次の自分ターンの終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
(2)：自分エンドフェイズに発動する。自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。


「そしてライラの効果を発動です！ 自身を守備表示に変更し、フィールドに存在する魔法・罠カード1枚を破壊します！ 破壊するのは竜星の具象化です！」
（ここで具象化を破壊されたら後続を呼べなくなる……）
「ライラの効果にチェーンしてリバースカードを発動するわ！ カウンター罠“竜星の九支”！！」


※竜星の九支
カウンター罠
(1)：自分フィールドに「竜星」カードが存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし、そのカードを持ち主のデッキに戻す。
その後、このカード以外の自分フィールドの「竜星」カード1枚を選んで破壊する。


チェーン2（綾香）：竜星の九支
チェーン1（詩織）：ライトロード・マジシャン ライラ

「ライラの効果の発動を無効にしてライラをデッキに戻すわ！」
「ですがその後にフィールドの竜星カード1枚を選んで破壊する必要があります。せっかく守ってもボウテンコウか具象化のどちらかを破壊しなければいけないはずです！」
「わかったわ、じゃあ破壊するのはボウテンコウよ」

　綾香は竜星の九支で破壊されるカードにボウテンコウを選んだ。しかし、一向に竜星の九支の効果でボウテンコウが破壊される気配はない。

「何故……あっ」
「気づいたみたいね。ボウテンコウはビシキをシンクロ素材にしているから罠カードの効果を受け付けないのよ！」
「っ……バトルフェイズに移行します！ カオス・ソルジャー-開闢の使者-で源竜星-ボウテンコウを攻撃！“開闢双刃斬”！！」

カオス・ソルジャー-開闢の使者- ATK3000 VS 源竜星-ボウテンコウ DEF2800

「戦闘でモンスターを破壊したことにより、カオス・ソルジャー-開闢の使者-の効果が発動！ もう1度だけ続けてこのカードは攻撃することができます！」
「だったらその効果にチェーンしてフィールドを離れたボウテンコウ、そして竜星の具象化の効果が発動するわ！」

チェーン3（綾香）：竜星の具象化
チェーン2（綾香）：源竜星-ボウテンコウ
チェーン1（詩織）：カオス・ソルジャー-開闢の使者-

「具象化の効果でデッキからヘイカンを守備表示で特殊召喚するわ！ そしてボウテンコウの効果でビシキを守備表示で特殊召喚！」
「なんて堅い守り……カオス・ソルジャー-開闢の使者-でビシキを攻撃します！“時空突破・開闢双刃斬”！！」

カオス・ソルジャー-開闢の使者- ATK3000 VS 水竜星-ビシキ DEF2000

「破壊されたビシキの効果でデッキから炎竜星-シュンゲイを攻撃表示で特殊召喚！」
「私は……これでターンエンドです」


詩織　LP8000　手札4枚
デッキ：35　モンスター：1（カオス・ソルジャー-開闢の使者-）魔法・罠：0　墓地：12　除外：2
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：30　モンスター：2（炎竜星-シュンゲイ、地竜星-ヘイカン）魔法・罠：1（竜星の具象化）墓地：9　除外：0


「そんな、カオス・ソルジャーでも綾香の守りを突破できないなんて……」

　デュエルの行く末を見守る千夏は何処か不安そうだった。いつも元気で快活なイメージがある彼女であるが、この時ばかりは親友を不安そうに見守る少女のそれをしていた。

（千夏サン……どうしてあんな顔を……）
―――なんかあるね。
（なんか……とは？）
―――さあ、さすがのあたしでもそこまではわかんないけど……



☆TURN06


「私のターン、ドロー！ 一気に行くわ。私は手札から魔法カード、調律を発動。デッキからジャンク・シンクロンを手札に加え、その後デッキトップ1枚を墓地に送るわ」
「またしてもチューナーを……」
「そして今加えたジャンク・シンクロンを召喚！ 効果で墓地のレベル2モンスター、水竜星-ビシキを蘇生する！ そしてレベル2の水竜星-ビシキにレベル3のチューナーモンスター、ジャンク・シンクロンをチューニング！ シンクロ召喚！ 再び我が下に舞い降りよ！ 源竜星-ボウテンコウ！！」

　綾香のフィールドには2体目のボウテンコウがシンクロ召喚される。ボウテンコウの特殊召喚時の効果で綾香は墓地の竜星をサルベージすると共にドローが行える魔法カード、竜星の軌跡を手札に加えた。

「手札から魔法カード、竜星の軌跡を発動！ 墓地のビシキ、ホロウ、ボウテンコウをデッキに戻し、2枚ドローするわ！」
「ボウテンコウはシンクロモンスター……実際にメインデッキに戻るのはビシキとジョクトだけですか。確かに破壊すれば後続を呼べる竜星もその種が尽きてしまえばどうしようもありません」
「それにボウテンコウは何度も召喚したいからね。でも今竜星の軌跡を発動した理由はそれだけじゃない！ フィールドのボウテンコウの2つ目の効果を発動するわ！」
「ボウテンコウの2つ目の効果……！？」
「ボウテンコウはデッキから「竜星」モンスター1体を墓地に送ることで自分のレベルをそのモンスターと同じレベルにできるのよ！ 墓地に送るのはレベル1のホロウ！」

源竜星-ボウテンコウ 星5→1

「3体のレベルの合計は……8」
「そういうこと！ 私はレベル4の炎竜星-シュンゲイとレベル3の地竜星-ヘイカンにレベル1となった源竜星-ボウテンコウをチューニング！！ “暗黒に染まる空を切り裂く一筋の閃光よ！ 今その姿を白き竜と変え、未来へ繋がる道を切り拓く！ 魂を、命を震わし世界へ！ 親友の心へ届け！！”シンクロ召喚、飛翔せよ！ 閃珖竜 スターダスト！！」

　綾香のフィールドにはレベル8のシンクロモンスターであり、彼女の精霊である閃珖竜 スターダストが舞い降りる。同じレベルのシンクロモンスターではシンクロ召喚時にシンクロ素材にした竜星の数だけフィールドのカードをデッキバウンスできる輝竜星-ショウフクがいるのだが、今詩織のフィールドに存在するのはカオス・ソルジャー-開闢の使者-1体のみである。
　仮に詩織がカオス・ソルジャー-開闢の使者-に加えて裁きの龍など強力なモンスターを多数フィールドに展開していたのであれば迷わずショウフクをシンクロ召喚していたかもしれない。
　ただ今彼女のフィールドに存在するカオス・ソルジャー-開闢の使者-は詩織にとってはサフィラ同様思い入れのあるカードであり、彼女にとっては大事なモンスターの1体である。そのモンスターに相対するのであれば綾香からしてみれば精霊であるスターダストしかないという考えもあった。

―――綾香、行くよ。
（ええ！）
「シュンゲイとヘイカンを素材にしていることでスターダストの攻守の値は500ポイントアップし、戦闘では破壊されないわ！」

閃珖竜 スターダスト ATK2500/DEF2000→ATK3000/DEF2500

「カオス・ソルジャーと攻守が並びましたか……」
「そしてフィールドを離れたボウテンコウの効果でデッキから竜星モンスター1体を特殊召喚するわ！ 来なさい、シュンゲイ！」

　綾香のフィールドにはスターダストとシュンゲイの2体が召喚され、詩織のフィールドのカオス・ソルジャー-開闢の使者-と対峙する。膠着状態にあったデュエルであったが、このターンから一気に動き出す。

「バトルよ！ 閃珖竜 スターダストでカオス・ソルジャー-開闢の使者-を攻撃！“流星閃撃”！！」
「……迎撃して下さい！“開闢双刃斬”！！」

閃珖竜 スターダスト ATK3000 VS カオス・ソルジャー-開闢の使者- ATK3000

　同じ攻撃力であるモンスター同士の戦闘となるため、普通ならば両方のモンスターが破壊される。それでもスターダストはヘイカンを素材にしているため、効果を無効化でもされない限り戦闘では破壊されない。そのため破壊されたのは詩織のカオス・ソルジャー-開闢の使者-のみだった。

―――綾香、今。
「これでフィールドはがら空きよ！ 炎竜星-シュンゲイでダイレクトアタック！」

炎竜星-シュンゲイ ATK1900

詩織 LP8000→6100

「っ……！ この程度！！」

　両者譲らないせめぎ合いのデュエルにおいて先手を取ったのは綾香であった。それでも与えたライフは1900と全体の4分の1程度であり、この程度のビハインドならば最上級モンスターのダイレクトアタックであっさり覆せるものである。
　しかし、その比較的小さなダメージであっても先制攻撃を受ける形となった詩織は普段の大人しい彼女とはとても同一人物とは思えないほどの闘志を剥き出しにした顔を見せたのだ。それだけこのデュエルにかける詩織の意志が強いことの表れなのだろう。しかし、綾香には何故このデュエルに詩織が力を入れて取り組むのかがどうしてもわからなかった。

（デュエリストにとってデュエルに大小はない……けど詩織があんな怖い顔をしてるの初めて……なんで……？）
「バ、バトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移行するわ。私はカードを2枚セットしてターンエンドよ！」
―――どうしたの……綾香。何か……怯えてる？
（そ、そういうわけじゃないんだけど……）


詩織　LP6100　手札4枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：13　除外：2
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：25　モンスター：2（閃珖竜 スターダスト、炎竜星-シュンゲイ）魔法・罠：3（竜星の具象化）墓地：12　除外：0


☆TURN07


「私のターン、ドローです！……これじゃないですね。私はモンスターをセットしてターンエンドです」


詩織　LP6100　手札4枚
デッキ：34　モンスター：1　魔法・罠：0　墓地：13　除外：2
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：25　モンスター：2（閃珖竜 スターダスト、炎竜星-シュンゲイ）魔法・罠：3（竜星の具象化）墓地：12　除外：0


☆TURN08


「私のターン、ドローよ！ バトル、閃珖竜 スターダストでセットモンスターを攻撃！ 流星閃撃！」
「墓地の超電磁タートルの効果を発動します！ このカードをゲームから除外して綾香さんのバトルフェイズを終了します！」
―――この……タイミングで超電磁タートル？ 妙だね。
（そうね……何かあるのかしら）
「ダメージを与えることはできないか……私はこれでターンエンドよ」


詩織　LP6100　手札4枚
デッキ：34　モンスター：1　魔法・罠：0　墓地：12　除外：3
綾香　LP8000　手札4枚
デッキ：24　モンスター：2（閃珖竜 スターダスト、炎竜星-シュンゲイ）魔法・罠：3（竜星の具象化）墓地：12　除外：0


☆TURN09


「私のターン、ドローです！ 私は手札から魔法カード、光の援軍を発動します。デッキの上からカードを3枚墓地へ送り、デッキからはライトロード・サモナー ルミナスを手札に加えます。そして今加えたルミナスをコストに魔法カード、ソーラー・エクスチェンジを発動し、デッキからカードを2枚ドローし、デッキの上からカードを2枚墓地へ送ります」
（一気に手札を交換してきた……そろそろ来るかしら）
「……綾香さん、デュエルはここからです。私は手札から儀式魔法、祝祷の聖歌を発動します！ 墓地の儀式魔人リリーサーと儀式魔人デモリッシャーをゲームから除外し、手札からこのカードを儀式召喚します！“天より舞い降りし竜姫、救いを求めるものに慈悲を、抗うものに神罰を下さん！”儀式召喚！ 降臨せよ、竜姫神サフィラ！！」

　清らかな歌声と光に包まれて詩織のエースモンスターである竜姫神サフィラが降臨する。リリーサーとデモリッシャーを儀式のための生贄に捧げているため、サフィラが存在する限り綾香はモンスターの特殊召喚を封じられ、さらにサフィラは対象を取るカードの効果を受け付けなくなる。

「……無駄撃ちになるけど使っておくわ。サフィラの儀式召喚にチェーンしてリバースカード、奈落の落とし穴を発動するわ！」
「墓地の祝祷の聖歌をゲームから除外することでサフィラは1度だけ破壊を免れることができます！」

　何度もデュエルをしているため墓地の祝祷の聖歌を除外してサフィラを守ることは知っている。今わかっているだけでも墓地に祝祷の聖歌が2枚存在していたため、綾香としてはできる限り消費させてサフィラを除去してしまいたかったのだ。

「バトルです、竜姫神サフィラで炎竜星-シュンゲイを攻撃！“竜姫の讃美歌”！」

竜姫神サフィラ ATK2500 VS 炎竜星-シュンゲイ ATK1900

綾香 LP8000→7400

「っ……！」
「リリーサーを生贄にして儀式召喚したサフィラが存在する限り、綾香さんは一切の特殊召喚を封じられます。そのためシュンゲイの効果も竜星の具象化の効果も発動できません。メインフェイズ2に移行します。私はセットされているモンスターを反転召喚します」

　セットされていたモンスター、オネストが表側表示になる。守備力1900とシュンゲイクラスのモンスターの攻撃なら受けきれることができるのだが、オネストの本来の使い道は当然そのようなものではない。オネストを壁にしなければいけないほど詩織の状況が逼迫していたのがわかったが、サフィラが儀式召喚されたとなれば話は別だ。

「オネストの効果を発動します。フィールドに存在するこのカードを手札に戻します。そしてターンエンド……と言いたいところですが、サフィラにはエンドフェイズに発動する効果があります」
「光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに3つの効果から1つを選択して発動できる、でしょう？」
「ええ。私はその効果のうちから“自分の墓地の光属性モンスター1体を選んで手札に加える。”効果を発動します。手札に戻すのは裁きの龍です」

　詩織の5枚の手札のうちにわかっているだけでもオネストと裁きの龍が存在する。ヘイカンを素材にしているため、スターダストが戦闘で破壊されることはないが、オネストで攻撃力を上乗せできるサフィラとスターダストと同じ攻撃力でかつ全体破壊効果を持つ裁きの龍があるという情報は綾香にとって決していいものではなかった。
　今はスターダストで耐えれたとしても、裁きの龍を複数体特殊召喚されてしまえばさすがのスターダストでも堪えきれないだろう。綾香はリリーサーを素材にしたサフィラを打ち破りつつ、裁きの龍を超えるモンスターを特殊召喚しなければならない。

（……ここからが正念場ね）


詩織　LP6100　手札5枚
デッキ：25　モンスター：1（竜姫神サフィラ）　魔法・罠：0　墓地：18　除外：5
綾香　LP7400　手札4枚
デッキ：24　モンスター：1（閃珖竜 スターダスト）魔法・罠：2（竜星の具象化）墓地：14　除外：0