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第三章 骸達との邂逅 作:スワラル・ネクロ
カイが見張りを始めてから
2時間位が経った。それでもカイが一睡もせずに見張りを続けていた。
カイはもう一度サーベルを持ち、刀身を確認する。
(よし、刀身に問題は無いな。これならいつあいつらが来ても…)
そこまで思ったところでカイはふと気付いた。
(そういえば…今日は『やけに明るい夜』だな…)
ここで、思い出してほしい。
カイが持っているのはサーベルとペンダントだけ。だが、夜の見張りをするのに必須な『灯り』を持っていない。今日が満月であれば何も不思議では無いが、今日は三日月である。ではなぜ、カイが灯りもなしにサーベルの刀身を確認できるほど明るいのか?
不思議に思ったカイはもう一度月を確認した。確かに三日月だ。しかし、その三日月はいつもより光って見えた。
カイは一年位前、大陸から商船に乗ってやって来た男の話を思い出した。
『いいかぼうず、月には女神様がいるんだ。笑うんじゃねえほんとの話だ。いいか、その女神様はな、俺たちが住んでいる世界に何かよからぬことが起きようとしていたら月をいつもより強く光らせるのさ。俺たちの先祖達はいつも夜に月を見て、明日は平和かどうか占ってたって話だぜ。だが、ここ最近は誰もその話を信じちゃいねぇなぁ。だがなぼうず。こういうもんは頭の片隅にでも覚えておいた方がいいぜ、あとで役に立つかもしれねぇからな。』
「…ということは、この先また悪いことが起こるかもしれない。そういうことなのか?月の女神様…」
カイは月に向かって問いかける。月は何も答えず、ただ光っているだけだった。
カイが視線を夜の海に戻す。すると、船が見えた。
「あれは…商船かな?それにしては黒すぎるけど…」
カイはよく目を凝らし、遠くの船を見つめる。その船はただ黒いだけの船では無かった。
その証拠にマストに大きなドクロが描かれている。
「海賊船…!?まさか、バミュレーツ!?」
バミュレーツ。魔の海と呼ばれた海から現れ、世界の海をさまよい、行く手を阻むものは全て皆殺しにする骸骨の海賊団だと海の男たちの間では有名だ。でも、そんな海賊団が本当に存在していたのか。
本当にバミュレーツだったらどうすればいいのか。戦って勝てる相手なのか。そんなことを考えていると桟橋の方向から
「イカリを降ろせー!」
という声が聞こえて来た。
(まずい…船からおりてくる!)
「んー!静かでいいところだコッホ!これがあのアラビキの前の静けさという奴だコッホ!」
船から降りた料理人風の格好をした骸骨が伸びをしながら言う。
「それを言うなら嵐の前の静けさでござろう?フィーア殿。それはさておき、いいところでござるな。」
「…嵐の前の静けさとは俺たち海賊なとっては縁起でもねえ言葉だな。フユンフ。」
「そうでござるなゼクス殿。しかし、これ以外にここの雰囲気を表す言葉といえば何があるか知っているでござるか?」
「…知らん。」
料理人風の骸骨に続いて和風の格好をした骸骨と拳銃を持ってウエスタンハットを頭にかぶった骸骨が船から降りて来た。
「とうとう着いたでやんすね!ウミナリ島に!」
「ああ、ここで必ず海鳴りのペンダントを手に入れてやるぜ!」
最後に水夫の格好をした骸骨と、船長が降りてきた。
「しっかし、やけに静かだなぁこの町…人の気配が全然しやがらねぇ…」
「きっと寝てるでやんすよズィーベン船長!あっしもそろそろ眠たくなってきたでやんすから!」
「そうか…。」
「あら?あっしの渾身のボケスルー?スルーでやんすか?」
「ん?ああ、お前は一週間飯抜きだ。」
「ガビーン!そんなぁ〜!」
「オー!アインス!こういうのを口はワサビのもとと言うのでコッホ!」
「それを言うなら口は災いのもと、でござるよ。」
「…おい。」
「船長〜!考え直してくださいでやんす〜!流石に一週間飯抜きはキツイでやんす〜!」
「…おい。」
「うるせえ!てめえはいつもいつもどうでもいい時にふざけやがって!今日という今日は許さねえ!」
「…おい!!」
「どうしたぁ!ゼクス!銃がぶっ壊れたのか!?」
「…そんなことあるはず無いだろう船長。…誰か来るぞ。」
「んん?」
ズィーベンが町の方向に顔を向けると、確かに子供がやってくるのが見えた。その子供とは言うまでもなく、カイのことである。
「なんだぁ?子供か?」
「あっし達を歓迎してくれるでやんすかね?」
しかし、その子供、もといカイは腰に提げたサーベルを鞘から引き抜いてこっちに突進してくる。
「…ずいぶんなご挨拶だな。ズィーベン船長?」
「全くだ。俺も長いこと海を巡って来たがこんなことは初めてだ。」
「下がってくだされ。ここは拙者が。」
とフユンフが前に出る。
カイはフユンフを斬りつけようと自分から見て右上からサーベルを振り下ろした。
ところが、その勇気の一撃はひらりとかわされ、さらにカイはフユンフに右側面に回り込まれてしまった。
そしてフユンフはカイの両腕を掴み、時計回りに捻じる。
「ぐあっ!!」
骸骨の異様な力技によって軽く悲鳴をあげたカイはそのままサーベルを地面に落としてしまう。それを確認したフユンフは懐から縄を取り出し、カイを後ろ手で縛った。
「ふぅ…いざという時のために持っててよかったでござるなぁ。」
「…くそっ!」
「ご苦労フユンフ。…それでだ。てめえ、この島の奴か?」
カイはだんまりを決め込もうかと考えた。しかし、その考えはズィーベンの威圧感によってかき消された。
「…そうだ。」
「正直でよろしい。それでよぉ…さっきから気になってたんだが、そのペンダントは何だ?」
「…両親の形見だ。」
「…そうかい。辛いことを聞いちまったな。」
「…?」
カイは一瞬きょとんとなった。この骸骨の海賊団、しかも船長が両親がいない自分を気遣ったのだから。
(だけどこいつらがいい奴らだとはまだわからない。)
カイがそんなことを思っていると、不意に後ろの方から
「カイお兄ちゃんを離して!」
フユミの声が聞こえた。それに反応して、バミュレーツ一味が一斉に顔をフユミの方に向ける。当のフユミは恐らく兄のために無理をしているのだろう。足をガクガクさせながらその場に立ち尽くしている。
「…なんだお前は?」
先程の襲撃もあった影響か、ゼクスは無意識に持っている拳銃をフユミに向ける。
「やめろ!フユミに手を出すな!フユミ!逃げろ!」
カイは必死に叫ぶ。
しかしフユミは逃げずに両膝を地面につき、祈るように手を組み、こう言った。
「…お願いします。カイお兄ちゃんを離してください…!私はどうなっても構いません、だから…!!」
「フーム、どうなっても構わない。でコッホか。」
そう言うとフィーアはフユミに歩みよりこう言う。
「じゃあみんなのご飯を作るためにキッチンを貸して欲しいでコッホ!」
「え…?」
自分が思っていたよりも軽い要求に思わず困惑したフユミだが、すぐに案内を始めた。こうしないとカイが殺されるかもしれないと考えたためである。
「よし、じゃあお前も行くぞ!飯だ飯!」
ズィーベンはカイの縛りを解いてからそう言う。
「え…?俺達を殺すんじゃ無いのか?」
「何を言うでござるか!拙者達のモットーは『命取るなら宝取れ!』でござるよ。だから、おぬし達のような善良な人々の命は奪わぬ故、安心して欲しいでござる!」
聞いてた話よりずっといい人の集まりであったバミュレーツに困惑するカイとフユミ。
これが後に世界が滅びる運命を変える海賊団バミュレーツと、カイ達の出会いであった。
2時間位が経った。それでもカイが一睡もせずに見張りを続けていた。
カイはもう一度サーベルを持ち、刀身を確認する。
(よし、刀身に問題は無いな。これならいつあいつらが来ても…)
そこまで思ったところでカイはふと気付いた。
(そういえば…今日は『やけに明るい夜』だな…)
ここで、思い出してほしい。
カイが持っているのはサーベルとペンダントだけ。だが、夜の見張りをするのに必須な『灯り』を持っていない。今日が満月であれば何も不思議では無いが、今日は三日月である。ではなぜ、カイが灯りもなしにサーベルの刀身を確認できるほど明るいのか?
不思議に思ったカイはもう一度月を確認した。確かに三日月だ。しかし、その三日月はいつもより光って見えた。
カイは一年位前、大陸から商船に乗ってやって来た男の話を思い出した。
『いいかぼうず、月には女神様がいるんだ。笑うんじゃねえほんとの話だ。いいか、その女神様はな、俺たちが住んでいる世界に何かよからぬことが起きようとしていたら月をいつもより強く光らせるのさ。俺たちの先祖達はいつも夜に月を見て、明日は平和かどうか占ってたって話だぜ。だが、ここ最近は誰もその話を信じちゃいねぇなぁ。だがなぼうず。こういうもんは頭の片隅にでも覚えておいた方がいいぜ、あとで役に立つかもしれねぇからな。』
「…ということは、この先また悪いことが起こるかもしれない。そういうことなのか?月の女神様…」
カイは月に向かって問いかける。月は何も答えず、ただ光っているだけだった。
カイが視線を夜の海に戻す。すると、船が見えた。
「あれは…商船かな?それにしては黒すぎるけど…」
カイはよく目を凝らし、遠くの船を見つめる。その船はただ黒いだけの船では無かった。
その証拠にマストに大きなドクロが描かれている。
「海賊船…!?まさか、バミュレーツ!?」
バミュレーツ。魔の海と呼ばれた海から現れ、世界の海をさまよい、行く手を阻むものは全て皆殺しにする骸骨の海賊団だと海の男たちの間では有名だ。でも、そんな海賊団が本当に存在していたのか。
本当にバミュレーツだったらどうすればいいのか。戦って勝てる相手なのか。そんなことを考えていると桟橋の方向から
「イカリを降ろせー!」
という声が聞こえて来た。
(まずい…船からおりてくる!)
「んー!静かでいいところだコッホ!これがあのアラビキの前の静けさという奴だコッホ!」
船から降りた料理人風の格好をした骸骨が伸びをしながら言う。
「それを言うなら嵐の前の静けさでござろう?フィーア殿。それはさておき、いいところでござるな。」
「…嵐の前の静けさとは俺たち海賊なとっては縁起でもねえ言葉だな。フユンフ。」
「そうでござるなゼクス殿。しかし、これ以外にここの雰囲気を表す言葉といえば何があるか知っているでござるか?」
「…知らん。」
料理人風の骸骨に続いて和風の格好をした骸骨と拳銃を持ってウエスタンハットを頭にかぶった骸骨が船から降りて来た。
「とうとう着いたでやんすね!ウミナリ島に!」
「ああ、ここで必ず海鳴りのペンダントを手に入れてやるぜ!」
最後に水夫の格好をした骸骨と、船長が降りてきた。
「しっかし、やけに静かだなぁこの町…人の気配が全然しやがらねぇ…」
「きっと寝てるでやんすよズィーベン船長!あっしもそろそろ眠たくなってきたでやんすから!」
「そうか…。」
「あら?あっしの渾身のボケスルー?スルーでやんすか?」
「ん?ああ、お前は一週間飯抜きだ。」
「ガビーン!そんなぁ〜!」
「オー!アインス!こういうのを口はワサビのもとと言うのでコッホ!」
「それを言うなら口は災いのもと、でござるよ。」
「…おい。」
「船長〜!考え直してくださいでやんす〜!流石に一週間飯抜きはキツイでやんす〜!」
「…おい。」
「うるせえ!てめえはいつもいつもどうでもいい時にふざけやがって!今日という今日は許さねえ!」
「…おい!!」
「どうしたぁ!ゼクス!銃がぶっ壊れたのか!?」
「…そんなことあるはず無いだろう船長。…誰か来るぞ。」
「んん?」
ズィーベンが町の方向に顔を向けると、確かに子供がやってくるのが見えた。その子供とは言うまでもなく、カイのことである。
「なんだぁ?子供か?」
「あっし達を歓迎してくれるでやんすかね?」
しかし、その子供、もといカイは腰に提げたサーベルを鞘から引き抜いてこっちに突進してくる。
「…ずいぶんなご挨拶だな。ズィーベン船長?」
「全くだ。俺も長いこと海を巡って来たがこんなことは初めてだ。」
「下がってくだされ。ここは拙者が。」
とフユンフが前に出る。
カイはフユンフを斬りつけようと自分から見て右上からサーベルを振り下ろした。
ところが、その勇気の一撃はひらりとかわされ、さらにカイはフユンフに右側面に回り込まれてしまった。
そしてフユンフはカイの両腕を掴み、時計回りに捻じる。
「ぐあっ!!」
骸骨の異様な力技によって軽く悲鳴をあげたカイはそのままサーベルを地面に落としてしまう。それを確認したフユンフは懐から縄を取り出し、カイを後ろ手で縛った。
「ふぅ…いざという時のために持っててよかったでござるなぁ。」
「…くそっ!」
「ご苦労フユンフ。…それでだ。てめえ、この島の奴か?」
カイはだんまりを決め込もうかと考えた。しかし、その考えはズィーベンの威圧感によってかき消された。
「…そうだ。」
「正直でよろしい。それでよぉ…さっきから気になってたんだが、そのペンダントは何だ?」
「…両親の形見だ。」
「…そうかい。辛いことを聞いちまったな。」
「…?」
カイは一瞬きょとんとなった。この骸骨の海賊団、しかも船長が両親がいない自分を気遣ったのだから。
(だけどこいつらがいい奴らだとはまだわからない。)
カイがそんなことを思っていると、不意に後ろの方から
「カイお兄ちゃんを離して!」
フユミの声が聞こえた。それに反応して、バミュレーツ一味が一斉に顔をフユミの方に向ける。当のフユミは恐らく兄のために無理をしているのだろう。足をガクガクさせながらその場に立ち尽くしている。
「…なんだお前は?」
先程の襲撃もあった影響か、ゼクスは無意識に持っている拳銃をフユミに向ける。
「やめろ!フユミに手を出すな!フユミ!逃げろ!」
カイは必死に叫ぶ。
しかしフユミは逃げずに両膝を地面につき、祈るように手を組み、こう言った。
「…お願いします。カイお兄ちゃんを離してください…!私はどうなっても構いません、だから…!!」
「フーム、どうなっても構わない。でコッホか。」
そう言うとフィーアはフユミに歩みよりこう言う。
「じゃあみんなのご飯を作るためにキッチンを貸して欲しいでコッホ!」
「え…?」
自分が思っていたよりも軽い要求に思わず困惑したフユミだが、すぐに案内を始めた。こうしないとカイが殺されるかもしれないと考えたためである。
「よし、じゃあお前も行くぞ!飯だ飯!」
ズィーベンはカイの縛りを解いてからそう言う。
「え…?俺達を殺すんじゃ無いのか?」
「何を言うでござるか!拙者達のモットーは『命取るなら宝取れ!』でござるよ。だから、おぬし達のような善良な人々の命は奪わぬ故、安心して欲しいでござる!」
聞いてた話よりずっといい人の集まりであったバミュレーツに困惑するカイとフユミ。
これが後に世界が滅びる運命を変える海賊団バミュレーツと、カイ達の出会いであった。
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