天才少女・水花の極寒デュエル！②　作：はにわ

　
「お！俺の先攻だな！」

まず最初の手札、５枚をドローした二人。
先攻を掴んだ透矢がその５枚を見て、最初の一手を考える。

「俺はまず、『三騎士 守護の鎧』を守備表示で召喚する！」

召喚されたモンスターは重量感のある黄土色の鎧で、全身を余すことなく包み込んだ戦士。
頭も兜でその大半を覆い隠し、僅かに覗かせる柔らかい顔付きのみが、女性であるということを教えてくれる。
しゃがんだ姿勢で、『Ⅱ』の装飾が為された巨大な盾を前面に構えて完全な守備の構え。
もはや動かざる岩の如く、透矢を守護する鎧となった。

レベルは４、守備力は１９００となっている。

「守護の鎧の効果だ！
召喚に成功したとき、次の自分のターンのスタンバイフェイズに、デッキから守護の鎧を１枚手札に加える！」

「・・・（こくり）」

「（うう・・・なんか、テンション上がらねぇなぁ・・・）
ーーお、俺はカードを２枚セットしてターンを終了！」

透矢が気合いよく自分のターンを進めてみても、水花は無表情のままぼーっとこちらを見ているだけ。
刹那の話ではデュエルの最中は普段、多くを語らない水花も生き生きするという話だが、果たして。

透矢は気合いを空振るような思いをしながらも、カードを２枚セットしてターンを終える。

ーーいよいよ、水花のターンである。
すると水花は目を閉じ、一度小さく息を呑み込む。

「ーー水花のターンっ！」

そう力強く宣言しながら、見開かれた瞳。
先ほどまでとは違い、ギラギラと光る鋭い眼差しが透矢を捉える。

（うお・・・っ、と。
おいおい、あれが本当に九歳の目かよ。
まるで歴戦のデュエリスト、って感じだぜ・・・）

あろうのことか、九歳の少女に睨まれてたじろいだ透矢。
一気に緊張感を増大させながらも、不敵な笑みで返す。

（へへ・・・っ、そうこなくっちゃな！）

やはり目の前の少女はただのそれではない。
僅か九歳にして、あの地影と肩を並べるデュエリストなのだ。
恐らくこの１ターン目から、風雲、急を告げる出来事が自分を襲う。

鬼気迫るような水花の瞳がそれを伝えていた。

「カード、ドロー！」

他の生徒も顔負けの、気合いを充実させた、身体を大振りさせるドロー。
観客からも思わずどよめきの声が上がる。

「水花はまずモンスターを召喚するよ！
『絶海の騎士』！」

水花は６枚の手札をさっと見て、戦術を決めた。
まず召喚されたモンスターは絶海の騎士。
エメラルドを思わせる緑色の甲冑に、赤いマントを羽織った線の細い顔付きの男戦士。
目を黒いゴーグルのようなもので覆い隠し、きりりと引きしめた口は寡黙な印象を与える。

レベルは４、攻撃力は１４００だ。

「この瞬間、俺は罠を発動！」

「ーー？」

「『誘発同盟』！」

透矢もこの瞬間を逃さず、伏せておいたカードを発動させる。
ーー誘発同盟。
地影がくれたカードである。

「相手がモンスターを召喚した時に発動！
自分フィールド上に存在するモンスターと同名のモンスターを、デッキまたは手札から特殊召喚するぜ！」

「・・・（こくり）」

「俺は２体目の『三騎士 守護の鎧』をデッキから特殊召喚！
朝霧ーーっ、ありがとな～！」

誘発同盟の効果で、場に現れる２体目の『守護の鎧』。
同じ守備の構えを取り、顔が隠されて顔付きの違いは分からないが、
背丈は先に召喚された方よりも一回り大きいようだ。

そこで誘発同盟をくれた地影に手を振りながら、恥も知らぬというような大きな声で礼を言う透矢。
当然だが観客の視線を一点に受けて、さすがの地影も照れたように俯いてしまう。
そんなことも気にせずに手を振り続ける透矢の姿を見て、クロエのように笑う者、冷やかす者、と観客は様々な反応を見せている。

「・・・水花のターン、だけど、続きいい？」

「ああ、悪い、悪い！
続けてくれ！」

水花はただ冷静に透矢に確認する。
透矢がそれに応えて、水花のターンの続きが始まる。

「・・・手札から速攻魔法、『ライフ・コントローラー』を発動するよ！」

「おぅ！」

「このカードはフィールド上に存在するモンスターの表示形式を変更するの。
対象のモンスターが攻撃表示なら攻撃力、守備表示なら守備力分だけライフを回復するの！」

「表示形式変更・・・か。
てことは、俺の『守護の鎧』を攻撃表示にするつもりか！？」

透矢が咄嗟に危機感を感じる。
『守護の鎧』の攻撃力は６００、と低い。
『ライフ・コントローラー』で攻撃表示にすれば、ライフを１９００も回復した上で、攻撃表示となった守護の鎧を狙って攻撃する事が出来る。

「・・・ううん、表示形式を変えるのは水花のモンスターだよ」

「あれ、違うのか？！」

そんな透矢の予想を、水花は首を振って否定し、その宣言通りに『ライフ・コントローラー』は水花の『絶海の騎士』を対象に発動され、守備表示となる。
絶海の騎士の攻撃力は１４００。
その数値分回復し、水花のライフは５４００となった。

「ーー絶海の騎士の効果。
表示形式が変更された時、水花のデッキから水属性モンスターを１枚、墓地に送るよ」

「そうか、その効果を使うためか！」

「水花は『凍土の妖精（ブリザード・フェアリー）』を墓地に送るの！」

デッキから素早くモンスターを選び、それを墓地へと送る水花。
これは水花のデッキ、そのコンボの流れの１つ。
一連の流れは何度も事前に練習しているため、淀みはない。

「手札から魔法カード、『死者蘇生』！」

「うぉっ！いきなりか！」

「その効果で墓地に送った『凍土の妖精』を特殊召喚するの！」

『死者蘇生』は呼んで字の如く、彼我の墓地からモンスターを１体選び、それを復活させるカード。
絶海の騎士の効果を、手をかけて発動させたのにはこれが理由だ。

死者蘇生によって墓地から蘇った『凍土の妖精』。
手のひらに収まるような青白い身体を持った異世界の住人。
背中には透き通った蝶のような羽が生えていて、それを羽ばたかせる事により、自らの身体を宙に浮かせている。

レベルは１、攻撃力は４００しかない。

「凍土の妖精の効果だよ！
墓地から特殊召喚に成功したとき、更にデッキから別の凍土の妖精を呼び出すの！」

そしてまだ繋がるコンボ。
狙っていたその効果の発動により、
更にデッキから２枚目の凍土の妖精 を呼び出す。

水花の場には２体の小さな妖精が並んだ。
息をつく間もない水花のカードの発動に、観客は固唾を呑み込む。

「あっという間に３体のモンスターを場に揃えたのか・・・。
こりゃすげぇコンボだな」

「ーーまだだよ・・・？」

「えっ？」

感心する透矢だったが、水花のコンボはまだ途中だった。
次の一手が最後の仕上げである。

「手札から魔法カード！
『静止する日（ザ・レスト・デイ）』を発動！」

「何だ！？」

「水花の水属性モンスターを３体、リリースして発動するの！
デッキ・手札・墓地から『凍獄龍 ゼロ・プリズナー』を特殊召喚するの！」

「ゼロ・・・プリズナー？」

発動された最後の仕上げたる魔法カード。

まだ１ターン目。
１ターン目にして、水花が持つ『四龍』がその姿を現そうとしていた。