第１０話　来客は突然に(前編)　作：ｸﾄｩﾙﾌ大好きな人

　時間は飛んで夕方の５時半ごろ・・・


「では、今日の会議はここまでとしよう」


　手元の書類を纏めトントンと整える。他の生徒会メンバーも粗方書類等を纏めるとそのまま片付けに入った。宇宙は今日は用事があるので先に失礼させて貰うと生徒会室を出た。


　廊下ですれ違う先生に会釈をしそのまま帰路へと付く。普段とは違う道ではあるが彼女にとってはある意味慣れた道、彼女の表情は満面の笑みである。それもそのはず、これから向かうのは従弟であり大好きな心の家なのだから。





　途中近道で商店街を抜ける。魚屋や酒屋、八百屋が並び地元の人には馴染み深い場所である。ちなみに心はいつもこの商店街で買い物をしている。



「お～い嬢ちゃん、今お帰りかい」


　急に声を掛けられ振り返る。視線の先には八百屋のおじさん。こっちにくるのも中々珍しいなと手招きしている。


「えぇ、今日は心の家に泊まりにいくので」

「ほほぅ、つぅことはあれか？通い妻ってやつか？若いってのはいいねぇ」


　そんなんじゃないですよと宇宙は笑う。こいつはサービスだよとおじさんは並べられている商品の中から山芋を一本掴むを袋にいれて宇宙に渡す。


「い、いやいくらなんでもタダという訳には！？せめて少しでもお金を」


　急いで財布を出そうとする宇宙を止めるおじさん。


「心の坊主にはいつも世話になってるからな。感謝の気持ちも込めてのサービスだよ。それに山芋はアッチのほうにもいいしｎ・・・」

「あんたぁ！まぁたなんか余計な事してんのかい！！」


　飛び出してくる奥さん。


「ば、ちげぇよ！？俺はただ若いもんの応援を・・・」

「いいからこっちきな！！！」


　そのまま引きづられていくおじさん。まぁこんなのはいつもの光景で。宇宙はお辞儀をしてその場を後にする。心の家までは後もう少し。







　※心宅


「うん、こんな感じでいいかな」


　先に家に帰っていた心は着替えた後、晩御飯の用意をしていた。時間を見ると６時５分前。鍋の火を止め、そろそろかなと心は玄関へ向かう。リビングを出たところでピンポーンとチャイムが鳴り響く。



「心、今帰ったぞ～」


「お帰りソラ姉。カバン持つよ」

　エプロンを揺らしながら走ってくる心。そんな心を見て興ｈ・・・テンションの上がる宇宙。まだ鼻血は出ていない模様。


「帰りに八百屋のおじさんにこれを渡されてな」

　袋から半分以上飛び出した山芋を見て唖然とする心。

「こんないい物貰ってきたの！？さっそく食べようよ！！」


　目がキラキラと輝くその様はまるで新しいおもちゃを貰った子どもの如く、純粋に喜びに満ちた目だ。


「そうだな、新鮮なうちに頂こうか」


　カバンと山芋を持って走っていく心とその後を歩く宇宙。まるで本当の姉弟のような光景で、こんな日がずっと続けばと思う宇宙であった。だがその願いは呆気なく崩れ去る運命だとは今は知る由も無い。




　宇宙は先に部屋に上がり、着替えを済まして１階のリビングへと降りてくる。この家はオープンキッチンスタイルでリビングと繋がっている。視線をキッチンへと向けると心が「凄い粘りだよ！これ！」と凄くテンションが上がっているのが見て取れる。

　こんな心も可愛いなと宇宙はソファーに座りテレビをつけた。ニュースや教育番組など一頻り回すとテレビを切った。あまり好みのものがやっていなかったようだ。



　宇宙はおもむろに立ち上がると足音を立てずにゆっくり心の背後に忍び寄る。距離は３メートルないくらい。一歩また一歩と近づき、気付けば心の真後ろまで辿りついていた。


（さぁ、堪能させて貰うぞここｒ・・・！？）

　本来ならここでガバッと抱きつく予定なのであるが動かない。正確には動けないのだ。いざ本番となると誰しもが緊張するもの。

　だが彼女の「今」の現状を違う。抱きつくつもりで両手を広げたまではよかったが、見てしまったのだ。すぐそこに吊るされているステンレスのおたまに写った動く影を・・・。



　本当ならばここで遠慮なく心を堪能するのだが、何かあってからでは遅い。宇宙は抱き締めるのを諦めると静かに移動し、懐中電灯を持って玄関を出た。おたまに写ったのは庭の隅で動いていた。たぶん人であろう。

　宇宙はある程度の武術の心得はあるので大の大人相手でも引けは取らない。まずは相手を確認しなければとゆっくり移動する。そして壁越しに確認した宇宙の目に飛び込んできたのは確かに人だった。それが泥棒とかではないと一瞬で判断が付く。なぜならそこにいたのは自身と同じクラスの九条 香蓮だったのだから




「おい香蓮、そんなところで何をしている」


「ひゃい！？い、いえわたくしは決して怪しい者ではありませんでして・・・って生徒会長の三 宇宙！？なぜ貴女が心の家に！？」


「その質問、そっくりそのままお返しさせて貰おうか。返答次第では出る所に出て貰うぞ」


　宇宙はスマホを取り出す。


「別にわたくしは悪いことをしようとここに来たわけではありませんの！ただ、今日一泊だけさせて頂ければと・・・」



　申し訳なさそうに視線を落とす彼女の足元にはキャリーバックがあった。たぶん着替えなどが詰め込まれているのだろう。全く、用意のいい奴め


「残念だが今日は私が心の家に泊まる日なのでな、日を改めてくれ」


　宇宙はスマホをポッケに入れながら玄関へ向かうがすぐさま香蓮に腕を掴まれる。

「何故貴女が心の家に泊まるのですか！？あれですか！？心の彼女というのは貴女なのですか！！」


「何を言っているのかは分からんがとにかく離せ！私はこれから晩御飯なのだ！」

「だったらわたくしも一緒に晩御飯を・・・


　庭でギャーギャー騒いでいれば中に居た心も異変に気付き、ガラス扉を開け顔を出す。

「ソラ姉、中に居ないと思ったら外で何して・・・って香蓮先輩！？なんでここに」


　宇宙しか居ないとおもっていた心は突然の来客に驚いた。


「よくは分からんがこいつがいきなり心の家に泊まると言い出してな」


「とりあえず２人とも中に入って。香蓮先輩、晩御飯は食べましたか？まだでしたら今出来たところなので一緒に・・・「頂きますわ！」


　被せてくるとは、よっぽどお腹がすいてたのかな。心はそんな事を思いながら三人分の食事を用意した。



　食事中、宇宙はかなりのしかめっ面で食べていた。一方香蓮は美味しいですわ美味しいですわとお嬢様らしからぬ食べっぷりで、作った側としてはちょっと嬉しかったり。


　しかめっ面の宇宙であったが、なんだかんだでみんなで食べる食事を楽しんでいたり。結局は満更でもない事を心は見抜いていたのはここだけのお話。