DRAW:５７ 復讐を映す儀水鏡　作：人喰い

(57)




《WDCS予選・バトルロイヤル》

◉大まかなルール

参加者全員は、予選開始時に反亭アリーナの敷地内のどこかにランダムで転送される。そしてそれと共に反亭アリーナの館内と館外の一帯に散らばる“1〜16の数字が書かれた16種のパスカード”(1枚ずつではなくそれぞれ複数存在)のいずれかを手にし、『セントラルホール』前の受付に戻ってきた決闘者に本戦への出場資格与えられる。セントラルホール内にて予選終了まで待機。



＊決闘の申し込みは、DUEL GEARにより半径1メートル以内の一番近い距離にいる決闘者に申し込みコードを送る事で強制的に決闘となる。


◉決闘条件と勝敗による判定

・パスカードを持っていない決闘者同士
→勝者のDUEL GEARのマップに5分間、“全てのパスカードの位置が表示される”。
敗者は10分間、“決闘の申し込みができない“。

・同数字パスカード持ち決闘者同士(ゴールしていてもしていなくても)
→敗者の持っていたカードは運営によって“会場のどこかに飛ばされる”。

・異なる数字のパスカードを持つ決闘者同士
→勝者は10分間、“他の決闘者からの決闘申し込みを受けない”。敗者のカードは“会場のどこかに飛ばされる”。


◉禁止事項
・参加者及び観客・スタッフへの暴力・暴言
・参加者から直接パスカードを奪い取る行為
・パスカードの破壊
・パスカードの譲渡
・パスカードを2枚以上所持する事


◉持ち込める物
・40〜60枚のメインデッキ
・0〜15枚のエクストラデッキ
・支給されたDUEL GEAR
・支給された決闘盤











ーーー私の故郷の村を襲った奴らは、とても残酷で、残忍で、残虐の限りを尽くした。
燃え盛る焔に包まれる家族や家を背に、ただ走って逃げる事しかできなかった自分自身の臆病さを私は恨んだ。



















遊戯王 Ph.X DRAW:５７
《復讐を映す儀水鏡》
















◉TURN:０３◉



火群【LP 7200】[手札 1]
場:『炎王獣 キリン』[ATK 1000]
伏せ:２


雫【LP 8000】[手札 1]
場:『イビリチュア・ガストクラーケ』[ATK 2400]
『イビリチュア・ガストクラーケ』[ATK 2400]
伏せ:１







雫「…どうしたんですか？ もう、終わりですか……？」


火群（…柏木さんは膨大な情報アドを得ることで一時的優位に立って完全に油断している……動くならここしかねえ！）


火群「俺は伏せカードをオープン！『ジェネレーション・チェンジ』！！ この効果で俺の場のキリンを破壊し、デッキからもう一体のキリンを手札に加える！」


火群「…更に、破壊されたキリンの効果で、デッキの『ヴォルカニック・カウンター』を墓地へ送る」


火群「そして自分の『炎王』モンスターが効果で破壊された場合、手札のバロンとキリンは特殊召喚できる！ 現れろ！」[DEF 200][DEF 200]



雫「…いくら壁を並べたところで…！！」




火群「タダの壁じゃないさ。ーーこいつらは起爆装置だ！ 伏せカードオープン！『激流葬』！！」


雫「…えっ…！？」


火群「互いの場のモンスターの一掃する！！」




ズォォオオォオオ



火群「…キリン、バロン、ごめんな。でもお前たちの死は無駄にしない…！」




雫（…っなんでこのタイミングで…！？ 初手から伏せてたなら前のターンに私が展開してる時にも発動できたはずなのに…！）


火群「…破壊されたキリンの効果で、『ヴォルカニック・カウンター』を墓地へ！
俺はこれでターン終了だ！」[手札 0]


雫「……？」



◉TURN:０４◉




雫「私のターン！ ドロー！」[手札 2枚]




火群「このスタンバイフェイズ時、効果で破壊されたバロンの効果でデッキから『炎王の急襲』を手札に！」




雫（…何を手札に加えようと関係ないっ！ 私にはまたガストクラーケを召喚する手段がある…！ 大丈夫…、大丈夫…っ！）


火群「……」


雫「…いや」


雫（…さっき墓地に送った『ヴォルカニック・カウンター』…っ、あのカードは受けた戦闘ダメージを相手に返す効果がある…！ それが2枚墓地にあるってことは、私がガストクラーケでダイレクトアタックして、2400のダメージは与えられても私は4800のダメージを受けてしまう…）


雫（私の手札には『リチュアの写魂鏡』と『イビリチュア・マインドオーガス』があるけど、墓地の儀水鏡の効果でガストクラーケを回収したとして、出せるのは片方のみ。自分へのダメージを避けるか、一歩前に出て勝負をかけるかーーーどちらかを選ばなきゃいけない……）




雫（あれ？ これってーーー）



雫（あの時と、同じーーーっ）








ーーーシズクッッッ！！！




ーーー助けてっっっ！！




ーーー助けてよぉっっっ！！！









雫「……どちらかを……捨てなきゃいけない……？？」




火群「ーーー何ためらってんだ？ 君の思うままでいいんだぜ？」



雫「…？」



火群「…今は柏木さんが『どうしたいか』…その想いをカードに乗せればいいんじゃないかな」



雫「……っ」



雫（私が、あの時……どうしたかったか…？）





雫（そんなのーーー）






雫「ーーー決まってますっ！！」






火群「…っ！」






雫「…私は墓地の儀水鏡をデッキに戻し、墓地のガストクラーケを手札に！」[手札 3]



火群「……！！」



雫「そして手札から儀式魔法『リチュアの写魂鏡』を発動！！」




《リチュアの写魂鏡》
儀式魔法
「リチュア」と名のついた儀式モンスターの降臨に必要。
儀式召喚するモンスターのレベル×５００ライフポイントを払わなければならない。





雫「…私は3000のライフを支払いーーー儀式召喚！！」【LP 8000→5000】





雫「ーーー相手の魂をも深海へと誘う暗黒の魔手！ 来て！『イビリチュア・ガストクラーケ』！！」[ATK 2400]



雫「その効果で、あなたの残り１枚の手札ーーー炎王の急襲をデッキへ！」


火群「…くっ！！」



雫「バトルいきます！！
ガストクラーケでプレイヤーにダイレクトアタック！！〝スパイラル・ガスト〟！！」


ガストクラーケの触手が高速で回転し、生み出された竜巻がゆっくりと火群に近づき、直撃した。




火群「ぐぅぅうう……っ！！」【LP 7200→4800】


火群「………っだがこの瞬間！ 俺の墓地の2体のヴォルカニック・カウンターの効果発動！ ヴォルカニックカウンターを除外し、俺が受けたダメージと同じ分のダメージを相手にも与える！！
俺が受けたダメージは2400ーーーそれがx2で合計4800のダメージを受けてもらうぜ！」



火群の足元から発火した炎が雫へと襲いかかった。


雫「ーーーっっ！ いやぁあああぁああ！！！」【LP 5000→200】



雫（…熱い、熱い、熱い、怖い、怖いよぉ…っ！ ）




雫（でも）




雫（お姉ちゃん…も、同じように辛かったんだよね…っ）



雫（ならーーー私だって！）





雫（負けるもんか！！）






雫「くぅぅうぅ……ぁぁあ！！ 私はこれでターンエンド！」






◉TURN:０５◉



火群【LP 4800】[手札 0]


雫【LP 200】[手札 1]




火群「俺のターン！」



雫「………っ、どうしてそんなに楽しそうなんですか…？ この状況……あなたに未来なんて残されていないはずなのに…！」


火群「そんなの柏木さんが決めることじゃないだろ？
未来は自分自身の手で引き抜くもんさ」



雫「………」



火群「……ドロォオーーーッッ！！！」[手札 1]





ゴォオオォオオオ！！！



雫「！！」



雫（まただ……！ 腕が燃えて……っ！？）



火群「…何度引き放そうが、俺とニクスの絆は決して解けることはーーー無い！！」



火群はドローしたカードを見ないままに決闘盤の魔法・罠ゾーンに差し込んだ。






火群「ーーー魔法発動！！ 『炎王の急襲』！！！」



雫「嘘…っ！ 今さっきデッキに戻したカードを一回のドローで再び引き込んだっていうんですか……！！？」




火群「俺がこの効果でデッキから炎属性・鳥獣族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する！！
ーーー急襲せよ！ 勝利へ導く紅蓮の翼！ 『炎王神獣 ガルドニクス』！！！」



火群の足元の大地が割れ吹き出す炎と共に不死鳥が現れる。




ニクス『はぁあああぁあああっっ！！！』[ATK 2700]




不死鳥の出現と共に辺りを暖かい熱風が包み込む。



雫「……何…？ これ……ポカポカする…っ」



火群「わかってくれ！！ 俺たちは『終焉の焔』なんかじゃない！」



雫「……っ」



火群「むしろ俺たちもあいつらには借りがある！ 何か知ってることがあれば教えてくれないか！？ 俺たちが知ってることも話すから！」



火群「だからそんなに悲しそうな顔をしないでくれ！！」



雫「ーーーっっ！」






雫「……私の、負けです」



雫は力が抜けたようにその場に膝をつき、ぺたんと座り込むとデッキの上に手を置き、





雫「サレンダーします」





瞳に大粒の涙を溢れんばかりに溜めながらそう宣言した。

だがそれでも、どこか安心したようなーーー笑顔で。










＊


〜セントラルホール・観客席〜



和泉「………てん、てん、てん」



千愛『あら和泉ちゃん、三点リーダーをわざわざ口に出してどうしたのかしら』


和泉「いや、なんかこう、わかんないんだけど、ムカつく」


瑞希「ははは！ もしかして焼いてんのー！？ かっわいー♪」


和泉「！ …そんなんじゃないですよぅぅ」


和泉（よかった。瑞希先輩、デュエルが終わった途端またいつもみたいに元気になった）


和泉「ん…？ ってかいま、“私たち”の会話に……っ」


瑞希「…それじゃあ私はそろそろ行くね♪ 用事がまだ終わってないし！」


和泉「…え、あ、はい！」



瑞希「またね！ いずみん！
ーーーそれから後ろの堕天使さんも…♪」


千愛『！』


和泉「…え…！？ ちょっ先輩ーーー」





＊




〜予選会場・森林エリア〜



雫「ーーーはわわっ！？ それじゃあ火群さんは終焉の焔の裏部隊を決闘で倒し退けたんですか！？」



火群「…とは言っても、俺1人の力じゃないけどな」



雫「それでも十分凄いですよ！」


火群「でも幹部っぽい3人は逃しちまった。植物園が受けた被害も大きかったし…」


雫「……火群さん…」


火群「…柏木さんは奴らをずっと追ってたの？」


雫「…ええ、そのおかげで情報もいろいろと集まりました」



雫「まずは『終焉の焔』の目的ーーーそれは“この時代に存在しないはずのカード”を探すこと」



火群「…！（エクシーズモンスターやシンクロモンスターの事だな…！）」



雫「それから、カードの精霊を集めている、とも聞いたことがあります」


ニクス『！！』


火群「カードの精霊を……！？」



雫「なぜ狙っているかまではわかりませんでしたが、単に珍しいモノ欲しさにって訳ではないでしょう。もっと別の理由があるはずです」



火群「……ふむ」


雫「…あと、これは私がこの大会に参加した理由にも関わってくるのですが、奴らは絶対にこの大会に参加しているはずです」


火群「…強力な決闘者の集まるところには、自然と強力なカードと精霊が集まる、って訳だな」



雫「そうです！ この大会で勝ち抜けば、きっと『終焉の焔』に近づくことができる、そう思って私はWDCSに参加したんですけど……知らない人と話すの…全然慣れてなくって…」



火群「…うんうん、それはよくわかるぞ。なんかこう、挙動不審になるよな」



雫「はわわっ、わかりますか！？ ……私たち、なんだか似た者同士ですね、えへへ♪」



火群「…えっ？ あははは…そうかなぁ」


雫「……あっ！！」


火群「！？ どうした！」



雫「…火群さんあそこ！ ありましたよ！ パスカードっ！」


火群は雫が指差した方に目線を向けると、その先の木の根元には確かにパスカードが落ちていた。


火群「本当だ！ パスカード『4』、ゲット！」



火群はパスカードを拾い上げ、DUEL GEARにセットする。



火群「……よし！ これで一歩、近づいた！」


雫「おめでとうございます！ 火群さん！」



火群「それじゃあ俺は先にセントラルホールに行かせてもらうよ、いろいろありがとう。柏木さん」


雫「はわわわ……っ、お礼を言われるような事なんて…してないですよっ！ お礼を言うのは私の方です！ 最初に変な勘違いで勝負ふっかけちゃったのに、こんなに優しくしてくれて…」


火群「いいっていいって！ それより俺のDUEL GEARのマップにまだ表示されてるパスカードの位置、見ていきなよ」



雫「……いえ、流石にそこまで甘える訳にはいきません。
それに、『未来は自分自身の手で引き抜くもの』ですよね！」



火群「！ それもそうか…。頑張って、柏木さん！」



雫「…はい！ ありがとうございました！ 火群さん♪」


雫はそう言ってぺこりと頭をさげると、早足でその場を去っていった。






火群「復讐のため、か」


ニクス『…なにか気になるのか、火群』



火群「…いや、ここには色んな理由で来てるやつがいるんだな、って」


ニクス『そうだな』


火群「…俺の戦う理由が間違ってるとは思わないけど、なんだろうな…なんか、頭がぐるぐるするんだ」


ニクス『色々な人が居て、そこに様々な目的があるのは当然の事だ。
…だが、だからと言ってお前がブレることはない。お前はお前の願いのためにそのカードに想いを込めればいい』



火群「…ニクス」


ニクス『そうだっただろう？ 今までも。そして、これからも同じようにすればいい』



火群「……ありがとな」



ニクス『ん？ 声が小さくて聞こえんぞ』


火群「…なんでもねぇよ！ ばーかばーかメロン星人！」


ニクス『…なっ…！？ だれがメロン星人だっ！』




火群（…俺の心が揺れてるときは、いつもニクスと和泉が支えてくれてる…。本当に感謝してるんだ。だからその恩を返す為に俺は今まで戦ってきたじゃないか）



火群（ーーー何を迷う必要がある）






＊



〜セントラルホール〜




爽香「ーーーパスカードNo『8』、ただいま1番乗りでゴールしましたーっ！！
それでは奥のセントラルホールでお待ちいただきま〜……ってちょっと！ 勝手に行かないでくださいよ〜っ！」




爽香「ーーー斬波 戒選手！」









戒「………」




戒（…こんな茶番はただの通過点でしかない。
俺に見えているのはーーー優勝の二文字だけだ）












To Be Continued…






〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y



◉このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！
質問が無い場合は、キャラ紹介や自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)
＊質問をいただいた時点で、本SSに載せる事を承諾したものと見做します。あらかじめご了承ください。
匿名希望の場合は言ってくださいね！



質問待ってるぜ！！(切実)





『柏木 雫(かしわぎ しずく)』
・年齢:13歳
・誕生日:7月10日
・身長:148cm/40kg
・外見:目が隠れるくらい垂らした前髪、後ろは肩にかかるくらいのストレート。
・使用デッキ
【リチュア】
・主な使用カード
『イビリチュア・ガストクラーケ』
『リチュアの儀水鏡』
『水霊術ー葵』

・幼い頃に『終焉の焔』に故郷の村を襲われてしまう。それ以降『終焉の焔』に対する復讐心を抱き、事件の当事者でありながら恐怖で逃げる事しかできなかった自分の臆病さを酷く恨んでいる。特に仲の良かった姉の助けを求める声より自分の命を優先して逃げてしまった事を深く後悔しており、雫自身はその時自分が姉を死なせてしまったと思っているようだが……。
事件の直後、逃げ着いた孤児院で育ち、今はその孤児院の手伝いをしながら『終焉の焔』の情報を集めている。
そんな時『終焉の焔』の目的を知り、大勢の決闘者が集まるWDCSの参加を決意。決闘の時は普段のオドオドした様子は無く、落ち着いたプレイングをできるだけの決闘の腕はあるらしい。
常日頃から臆病で恥ずかしがり屋な自分を変えたいとは思ってはいるもののどうやら進歩はあまりない模様。「はわわ…っ」が口癖。





《次回予告》






次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:５８ クロス・デュエル


ーーー闘いは更に激化する。