第５８話　緊急集会　作：白金　将

～早朝　女王の間～
聖戦士「……」

女王「朝早くから慌ただしいわね」
カウスト「申し訳ございません」
女王「大丈夫よ。エアトスから話は聞いてたから」

カウスト「聞いているかもしれませんが、一応報告です」
カウスト「先日、ミストバレー湿地帯でヴェルズの復活が確認されました」
女王「とうとう来た感じね……」
聖戦士「ヴェルズ……私たちの里には古文書に記されている程度ですね」
カウスト「確かに彼らは昔の存在……」

カウスト「ですが、伝承によれば、彼らは死骸に感染……時には生きている物さえ食らい尽くしながら勢力を増やします」
カウスト「我らセイクリッドは彼らを掃討することが役目でありますが、仲間のうちからヴェルズが出るかもわかりません」
女王「そうね……」
聖戦士「……」

女王「それで、あなたたちは何か対策をしているのでしょう？」
カウスト「そのことですが」

カウスト「事後承諾の形になって申し訳ございませんが、広場に我らの兵器を用意しました」
女王「兵器？　どうしてこの里に？」
カウスト「申しづらい事ですが……」

カウスト「ヴェルズの勢力拡大図を我らで作りました」
カウスト「この里は、彼らが復活して間もない頃に襲われます」
聖戦士「……！」
女王「そう……」

カウスト「彼らからこの里を守るために……よろしかったでしょうか」
女王「勿論よ。民を守るのは女王の役目だけど、この件に関してはあなたたちの方がよく分かってるわ」
聖戦士「私は女王の判断に従うのみ」
カウスト「分かっていただけて光栄です」

カウスト「では、こちらへ来てください。我らの最終兵器……『トレミスＭ７』をお見せしましょう」




～早朝　広場～
訓練生「」ﾀｯﾀｯ
訓練生「……あれ？」

女王「」
聖戦士「」
カウスト「」

訓練生（女王様と聖戦士様と……あと一人は？）
訓練生（それに広場に何かでっかい物が置いてある……）

訓練生「女王様」
女王「あら、訓練生。朝からランニングかしら？」
訓練生「は、はい。ところで、こちらの方は……？」

カウスト「訳合ってこの里にやって来ました、セイクリッドの一族のカウストです」
女王「……例のことは民衆に話してよろしいかしら？」
カウスト「その方がよいでしょう」
訓練生「……？」

女王「訓練生。よく聞きなさい」
訓練生「はいっ」ﾋﾟｼｯ

女王「この里にはもうすぐ『侵略者』……ヴェルズと呼ばれる者たちがやって来るわ」
女王「戦いなら私たちも出来るけど、ヴェルズは死骸に感染する物……時には生きた人も」
女王「いち早くこの里中の仲間に知らせなさい。広場で緊急集会を開くわ」
訓練生「はい！」

ﾀｯﾀｯﾀｯ

女王「……行ってくれたわね」
聖戦士「……」
カウスト「お騒がせして申し訳ありません」
女王「大丈夫よ。この里の未来がかかってるんだから」


女王「ところで、これがあなたの言った『最終兵器』かしら？」
カウスト「そうです。しかし……」
カウスト「昔の伝承の最後に出てきた物、と言われますが、分からないことも多いのです」
聖戦士「いざという時には動かせるのか……？」
カウスト「操縦方法は確認しています。メンテナンスも欠かさずしていますので安心を」
聖戦士「……ふむ」

聖戦士（兵器だから機械のような物を考えていたが、これはまるで岩だな……）
聖戦士（竜をかたどった石像、とでも言うべきか……だが、何かを感じることは確かだ）

女王「……本当にこの広場には場違いね」
カウスト「それだけは否めませんね」






～朝　射手の家～
訓練生「女戦士さん！　射手ちゃん！」
女戦士「ＺＺＺ……む？」
射手「ＺＺＺ……む？」

訓練生「女王様からの命令です！　大至急広場まで集まってください！」
女戦士「むぅ……分かったよぉ」

ﾀｯﾀｯﾀｯ

女戦士「ほら、射手ちゃん、起きてー」ﾕｻﾕｻ
射手「むぅ……分かったんだし」



～朝　広場～

女王「みんな集まったわね」

ｶﾞﾔｶﾞﾔ　ﾜｰﾜｰ

女王「今日から、この里に非常事態宣言を致します」



女戦士「ひじょーじたいせんげん？」
射手「なんかやばいことが近くで起こってるらしいんだし」


女王「里からそう遠くない所……ミストバレー湿地帯で『ヴェルズ』が確認された」
女王「勿論私たちにとっては古文書でしか読んだことのない存在……」

女王「だけど、あなたたちは知ってるはず」
女王「彼らは死骸、時には生きている者に『感染』しながら勢力を拡大していく事を」

女王「彼らに対抗するため、私たちは『セイクリッド』という一族の手を借りた」
女王「不本意な者もいるかもしれないが、ヴェルズには並大抵の力では遠く及ばない」
女王「代わりと言っては何だが、広場の中央に彼らの『兵器』を置くことになった」

女王「決戦の日は遠くはない」
女王「皆、彼らの伝承をもう一度確認し、そして自身の技量を確かめることだ」
女王「出過ぎた真似はこの私が許さない。犠牲になりたくなければ無理はするな」

女王「それと、女戦士」
女戦士「ひゃっ！？」ﾋﾞｸｯ
射手「！？」

女王「……伝承の再来を期待している。以上。解散だ」




～昼　食堂～
訓練生「大変ですね」
女戦士「うー」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
射手「本当の戦いがあるんだし……？」

訓練生「実戦……勿論、命を懸けて戦うことになりますからね」
訓練生「私たちの中から犠牲者は出るのでしょうか……」
女戦士「そんなこと考えちゃだめー！」

女戦士「……私のいた連合軍でも、戦いの度に友達がいなくなることがあったんだ」
女戦士「だけど、そんなことでいちいち悲しんでたら次に進めないの」

女戦士「……里の仲間は一つの家族みたいなものだから、悲しいかもしれないけどさ」
女戦士「でも、それがちょっとうらやましかったりして」

射手「……」

射手「女戦士さんには死んで欲しくないんだし」
女戦士「……！？」
訓練生「そうですよ。女戦士さんだって私たちの家族です」
女戦士「二人とも……」

女戦士「ありがとー！」ｷﾞｭ
射手「わわっ」ｷﾞｭ
訓練生「あーもう……」ｷﾞｭｩ

調理師（頼まれてた丼出来たんだけど声かけづらいな……）