side恭治：スピードの向こうへ　作：名無しのゴーレム

「……風音、どこにいやがる！ 聞こえてたら返事しやがれぇぇ！！」



……反応無しかよ、チクショウッ……！！



（あの馬鹿野郎、なんだってこんな場所に来てるってんだ！ ……まさか、師匠の差し金か！？）



……いや、それはないか。それよりかは風音が師匠を脅して何とかしてこっちに来たって方がまだあり得る。



「……風音、頼むからあっちにだけはいてくれるなよ……！」



粗方周辺を探し切った今、最後に残った場所は……音、衝撃、どれをとっても今までのどこよりも激しい戦場だ。間違ってもあんなところにはいるはずないと後回しにしてきたが……行くしか、ないらしい。






無数の爆発音の中を駆け抜ける。アカデミアが大量にいたが、そいつらと闘っているはずのレジスタンスの姿は見えない。一時撤退しているのか、あるいは……



「……え、…う……よ！」



……そのとき、確かに風音の声が聞こえた。



「あっち、かぁぁぁ！！」





風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア 伏せカード2枚
アカデミア生徒×10 LP4000


「……数の暴力にしても、これはやりすぎじゃない？」
「フンッ。そんなことを言いながら、お前は我々の仲間を何人倒した。……お前は脅威だ、だから覆せないほどの数を以って倒させてもらうぞ」
「過大評価もいいところよ。……偉そうにしてるところを見るに、あなたがこいつらのリーダーだったりするの？」
「ほう、どうやら判断力も高いらしい……やはり、お前は神谷 敦人に次ぐ強敵だ」
「……じゃあ、もうこっちから手は出さないからそっちも大人しく退いてくれたりは……」
「ふざけるな。霧生様の命令はこの地のデュエリストの討伐、及び神谷 敦人を限界まで疲労させること……我々にとって命令は絶対だ」
「……そう。でもね……私も退けない理由があるの。粘れるだけ粘らせてもらうわよ」
「……その心意気は認めよう、だが……お前は負ける。総員……」



「…………この、馬鹿妹がぁぁぁぁ！！」



「！？ ……何者だ！」
「…………嘘、この声って、まさか……お兄ちゃん！？」



一瞬の隙をついて、アカデミアに囲まれる風音のところに辿り着く。



「お兄ちゃん、どうしてここに……」
「それは俺の台詞だっつうの！！ テメェ、なんでよりにもよってこんな場所にいんだ！ さっさとシティに戻りやがれ！」
「なっ……なんですって！？ それがお兄ちゃんを助けに来た妹に対する言葉なの！？ 私はねぇ、お兄ちゃんが世界を守るために闘ってるって聞いて……」
「……ってことは、やっぱり師匠が原因か！ ふざけんな！ だいだい、お前はいつもそうだ！ 自分のことなんてまったく考えずに思いつきで行動しやがって……」
「それはお兄ちゃんでしょ！！ お兄ちゃんが勝手に家を出て行って、その後私がどれだけ辛かったか……お兄ちゃんに分かる！？」
「っ、それは……仕方なかったんだよ！ あのままじゃいつまで経ってもお袋の治療費なんか貯まらねえに決まってんじゃねえか！」
「それにしたって、もうちょっと何とか出来たでしょう！？ なんでずっと家に帰って来なかったのよ！」
「ぐっ……」
「……お兄ちゃんがお母さんのためにプロデュエリストを目指してたってのは分かったわ。でも、なんで私のことは何にもしてくれなかったの！？ あの後私は周りのリーダーみたいになって、暴れてるギャングを成敗したり、無茶苦茶言ってくるセキュリティを何とかしてやり過ごしたり……本当は嫌だった、でもやるしかなかったの！ なんでその時にお兄ちゃんは居てくれなかったの！？」
「…………それは、悪かった。俺が勝手に、お前なら一人でも大丈夫だと思ってたんだ……」
「……感動の再会なのかもしれないが、もうそろそろ時間切れだ。男の方には興味はないが、女を庇い立てするのなら……容赦はしないぞ」



……ったく。兄妹喧嘩に首突っ込んでくるたぁ……



「……いい度胸してんじゃねえか」
「駄目よ、お兄ちゃん。この数はどうしようもない、だから……」
「そりゃあひとまず逃げるに決まってんだろ。どっかの誰かと違って、相手にしていい奴くらいは判別出来るんでな。……ほら、さっさと乗れ！」
「……うん！」
「よし、それじゃあ……飛ばすぜぇ！！」





D・ホイールで無理矢理アカデミアの包囲網を破る。とはいえ、あの数からして容易に逃げ切れるとは思えないが……



「……お兄ちゃん！ 出来るだけあいつらから離れすぎないで、こっちに引きつけて！」
「ハァ！？ 無茶言うな、なんでそんなことしなきゃいけないんだよ！」
「……実は、レジスタンスの人たちがこの辺りに隠れてた子供たちを避難させてるの。私は殿として逃げ回りながら足止めしてたんだけど……もう少ししたら神谷たちが応援に来るから、そこまで時間を稼いでちょうだい！」
「分かっ……待て。風音、今『神谷』って言ったか！？」
「……うん。私たちは一時的に手を組んで、一緒にここの人たちを守ってたの。あいつが持ってる神のカードの力がないと、この人数差はひっくり返せないから……」



……どういうことだよ。神谷 敦人、何を企んでやがる？



「……まあ、やれるだけやってやるよ。だが……」


風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア 伏せカード2枚
アカデミア生徒×10 LP2000 古代の機械混沌巨人


「……ちょっと目を離した隙に、何をどうしたらああなるんだ！？ ふざけんな、あんなのと真っ向から闘うなんざ……」
「あの偉そうなののフィールドにあるカードの効果よ！ 『ライフ半分払って好きな融合モンスターを出す』とか、たぶんそんなの！」
「インチキ効果もいい加減にしやがれ！！ ……ったく、じゃあそいつを狙えばこれ以上の増殖は抑えられるんだな！？」
「うん！」
「よし、それなら……俺のターン、ドロー！」


恭治 LP4000
風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア 伏せカード2枚
アカデミア生徒×10 LP2000 古代の機械混沌巨人


「……M・G チェーンを召喚！ チェーンの効果発動！ 手札のM・G アクセルを特殊召喚し、このカードのレベルを4に変更する！」

M・G チェーン レベル1→4

「レベル4のアクセルにレベル4のチェーンをチューニング！ シンクロ召喚！ 疾く馳せ参じよ、M・G アキレス！ バトル、アキレスで……」
「リバースカードオープン。永続罠、融合塹壕—フュージョン・トレンチ！ 融合モンスター以外のモンスターは攻撃出来ない！」
「な、にぃっ！？ くっ……カードを2枚セットして、ターンエンドだ！」


恭治 LP4000 モンスターゾーンM・G アキレス 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア、融合塹壕—フュージョン・トレンチ 伏せカード1枚
アカデミア生徒×10 LP2000 古代の機械混沌巨人


「私のターン、ドロー！ ……レヴュアタンを守備表示に変更。カードを1枚セット、これでターンエンドよ」


恭治 LP4000 モンスターゾーンM・G アキレス 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン（表側守備表示） 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア、融合塹壕—フュージョン・トレンチ 伏せカード1枚
アカデミア生徒×10 LP2000 古代の機械混沌巨人


「おい風音！ もうちょっとどうにか出来なかったのかよ！」
「仕方ないでしょ、あのカードのせいで攻撃出来ないんだから！ ……って、何よあれ！？」
「くうっ……！ あいつら、D・ホイールに追いつけないと分かってあのデカブツだけ動かしてんだよ！」



ディスクの表示を見るに、単純にバトルフェイズに入って攻撃してきてるみたいだが……



「あんなの全部、まともにくらってられるかよ！ リバースカードオープン！ 速攻魔法、マッハ・セーフティ！ 次の俺のターンのドローフェイズまで、すべてのプレイヤーが発生させた戦闘ダメージは0になり、モンスターは戦闘で破壊されない！」



これで、なんとか……！？



「……なんで、攻撃が続いてるんだよぉ！？」
「あいつら、デュエル関係無しに私たちに直接ダメージを与えてくるつもりよ！」
「なんだと！？ ……クソッ、確かに直撃したらD・ホイールごとぶっ潰されそうだな……！！」



10体の巨人たちの猛攻を、避ける、避ける、避ける……



「師匠に叩き込まれたライディングテクニック、舐めんじゃねえぇぇぇ！！」
「きゃあぁぁぁ！！ ちょっと、お兄ちゃん！ 振り落とされそうなんだけどぉぉ！？」
「知るか、しっかり俺に掴まってろ！」
「……！？ お兄ちゃん、上！！」
「あぁん……！？」



おそらくは混沌巨人が攻撃する際に巻き込まれたのだろう、破壊されたビルの破片が降ってきて……！！



「がっ、ああぁぁぁ！！！」
「お兄ちゃん！！」
「……っ、だい、じょうぶだ……軽く、左腕がやられちまったがな……」



後ろから迫ってくる巨人の大群に気をとられた俺は、上からの落下物を避けることは出来なかった。運の良いことに、致命傷は免れたが……



（やっべえな……これじゃあ、もう長いこと闘えねえぞ）



現に、左腕から力が抜けていくのを感じる。この調子で逃げ続けるのは不可能だ。



「……攻撃が、止んだか……じゃあ、次は俺のターンだな」
「お兄ちゃん、無理しないで！ 今のうちにどこかに隠れて、左腕の手当をしないと……」
「んなこと言ってる場合かよ……どの道、ここで俺たちが勝たなけりゃあいつらは辺り一体を壊して回るだろうぜ。……なら、勝つしかないだろ」
「で、でも……」
「風音。……俺を、信じろ。ずっと何にもしてやれなかった分、今ここでまとめて兄貴らしいことをやってやるからよ」
「お兄ちゃん……」



……さぁて、問題はどうやって逆転するか、だ。3、4人ならまだしも、いかんせん数が多い、多すぎる。さらに俺のデッキにはモンスター除去のカードがかなり少ないと来た。全員のライフを焼き切る、もしくは攻撃力4500の混沌巨人10体を処理する方法は……



（奇跡でもなけりゃ無理だな。精々1、2人、が限度だ……でも、それじゃあ意味がない。そもそも、あの永続罠カードがある限りこっちは攻撃すら出来ない……ハッ、まさに手詰まりだな）






『そのデッキはデュエルの中で進化していく。神の力に対抗するにはお前自身、そしてM・Gの進化が不可欠だ』






「ぁ……そうだ」



……M・Gは未完成。なら、今この場で完成させたなら……？



（でも、どうやって？ D・ホイールがあった方がいいと言っていたが、具体的にどうしろなんてのは一言も言われてないぞ……？）



「……お兄ちゃん」
「風音？」
「……大丈夫、私もついてるから。だから……そんな顔しないで」
「…………ハンッ！ 妹風情が兄貴の心配をするなんざぁ、百年早いんだよ！！」



……いいぜ、やってやる。何の確証もないが、今思いついたのを試すしかない。


恭治 LP4000 モンスターゾーンM・G アキレス 魔法・罠ゾーン 伏せカード1枚
風音 LP1600 モンスターゾーン 魔轟神レヴュアタン（表側守備表示） 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚
アカデミア LP2000 魔法・罠ゾーン 暴走融合—クレイジー・フュージョンエリア、融合塹壕—フュージョン・トレンチ 伏せカード1枚
アカデミア生徒×10 LP2000 古代の機械混沌巨人


「行くぜ……俺のターン、ドローッ！！」



それと同時に、D・ホイールをさらに加速させる。師匠の言葉を信じるなら、もっと速度を上げても支障はないはず……なら！！



「手札から通常魔法、戦士の生還発動！ 墓地のM・G チェーンを手札に加える！ チェーンを召喚！ チェーンの効果で手札からM・G ストッパーを特殊召喚！」



……経験したことのないような速度の中、半ば直感でモンスターを展開する。



「レベル1のM・G ストッパーにレベル1のM・G チェーンをチューニング！ 速度の頂きへ導く風よ、我が元に吹き荒れろ！ シンクロ召喚！ 疾く馳せ参じよ！ シンクロチューナー、M・G ゼファー！」
「シンクロ、チューナー……！ まさか！」



もはや後ろの風音の声すら聞こえない。もっとだ、もっと速く……






「……おぉぉぉぉ！！ 俺は、レベル8のアキレスにレベル2のゼファーをチューニング！ 速度の極致に至りし者よ、その神速を以ってあらゆる敵を抜き去り射抜け！ シンクロ召喚！ 疾く馳せ参じよ、T・M・G（トップ・マッハ・ガンナー） アタランテ！！」