第89話：とにかく可愛い決闘者・2　作：光芒

第89話（番外編第8話）：とにかく可愛い決闘者・2





☆TURN02


「私のターン、ドローよ。歩美ちゃん、もし歩美ちゃんが後攻になった場合はドローしていいからね？」
「ひゃ、ひゃい！」
（もう、返事をしただけで可愛いって反則よ！ でもアカデミアの学生としてどんな相手に対しても手は抜くわけにはいかないし……）

　デュエリストとしての信念と歩美に対する愛情の間で揺れる綾香だが、この場は自分の欲を抑え込むことにした。

「私は手札から炎竜星-シュンゲイを召喚するわ！」

　綾香の手札から召喚されたのはレベル4・炎属性の炎竜星-シュンゲイ。その攻撃力は1900と下級モンスターにおいてもかなり高い方であり、マドルチェ・シャトーで強化されたマドルチェ・マジョレーヌと互角であった。

（もし手札にサイクロンがあったら先に使ってたけど……無いからしょうがない）
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移るわ！ 炎竜星-シュンゲイでマドルチェ・マジョレーヌを攻撃！」

炎竜星-シュンゲイ ATK1900 VS マドルチェ・マジョレーヌ ATK1900

「ふぇっ！？ おなじこうげきりょくだと……」
「シュンゲイとマジョレーヌは相討ちになって破壊されちゃうね……」

　凛の言う通り、シュンゲイの放った炎と迎撃したマジョレーヌの魔法が合わさって爆発を起こし、2体のモンスターは共に破壊されてしまう。しかし、この2体は破壊された時に発動できる効果がある。

「あうう……まじょれーにゅさんが……」
「大丈夫。マドルチェ・マジョレーヌは相手によって破壊されて墓地に送られた場合、デッキに戻るの。でも今は綾香さんのターンだから、先に効果を処理するのは綾香さんのモンスターの方だね」
「こうか……？ しょり……？」
「まだ難しかったかな？ 綾香さん、ボクたちが歩美ちゃんの代わりに効果の処理を行うので先にどうぞ」
「じゃあそうさせてもらうわ。破壊されて墓地に送られたシュンゲイの効果でデッキから水竜星-ビシキを表側守備表示で特殊召喚するわね」

　特殊召喚されたビシキの守備力は2000。下級モンスターとしては高い守備力に入るが、マドルチェ・シャトーが発動している以上その守備力でも過信はできない。それでも破壊されたところで後続を呼べるなどアフターケアが利くのが【竜星】の強みでもあるのだが。

「それじゃあ歩美ちゃん、墓地に行ったマジョレーヌはデッキに戻してね」
「は、はい」
「バトルフェイズを終えてメインフェイス2に移るわね。私はカードを3枚セットしてターンエンドよ」


歩美　LP4000　手札：4枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：1（マドルチェ・シャトー）墓地：0　除外：0
綾香　LP4000　手札：2枚
デッキ：33　モンスター：1（水竜星-ビシキ）魔法・罠：3　墓地：1　除外：0


☆TURN03


（3枚セットかぁ、気を付けないといけないかも）
「歩美ちゃんのターンだよ。このターンから歩美ちゃんはドローできるから」
「ひゃ、ひゃい！ わたしのターン、ドロー！」

　綾香は前のターンにマジョレーヌの効果でサーチされたマドルチェ・ミィルフィーヤを警戒していた。もしあのカードが存在すればマドルチェ独自の展開力が如何なく発揮されるからだ。仮にもし大量にモンスターを展開されてしまえば竜星のリクルート効果をもってしても防ぎきれる保証はなく、普通の半分である4000のライフなどすぐに吹き飛んでしまうだろう。

「わたしは“マドルチェ・ミィルフィーヤ”さんをしょうかんします！」


※マドルチェ・ミィルフィーヤ
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻500/守300
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
このカードが召喚に成功した時、手札から「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。


「あっ……かまないでいえた！」
（そんなことでも喜びを感じられる歩美ちゃん超可愛い）

マドルチェ・ミィルフィーヤ ATK500→1000

「えっと、マドルチェ・ミィルフィーヤのこうかをはつどうします！ てふだから「マドルチェ」モンスター1体をとくちゅしょうかんします！ おねがい、“マドルチェ・エンジェリー”さん！」


※マドルチェ・エンジェリー
効果モンスター
星4/地属性/天使族/攻1000/守1000
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
また、このカードをリリースして発動できる。デッキから「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは戦闘では破壊されず、次の自分のターンのエンドフェイズ時に持ち主のデッキに戻る。
「マドルチェ・エンジェリー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。


マドルチェ・エンジェリー ATK1000→1500

「あうう、やっぱりかんじゃった……」
「大丈夫だって。ちゃんと綾香さんはわかっていてくれてるから」

　綾香は歩美にわかるように大きく頷く。歩美はそれを見てホッとした様子を見せた。

「じゃあエンジェリーの効果を発動しよっか」
「はい！ エンジェリーのこうかをはつどうします！ エンジェリーをリリースして、デッキから「マドルチェ」モンスター1体をとくちゅしょうかんします！ とくちゅしょうかんするのは、“マドルチェ・ホーットケーキ”さんです！」


※マドルチェ・ホーットケーキ
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻1500/守1100
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
また、自分のメインフェイズ時に、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターをゲームから除外し、デッキから「マドルチェ・ホーットケーキ」以外の「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。「マドルチェ・ホーットケーキ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。


マドルチェ・ホーットケーキ ATK1500→2000

「うわぁ、ホットケーキおいしそう……じゃなかった。ホーットケーキさんのこうかをはつどうします！ えっと……じぶんのぼちのモンスター1体をせんたくしてゲームからじょがいして……ホーットケーキさんいがいのマドルチェモンスター1体をとくちゅしょうかんします！ じょがいしちゃうのは……エンジェリーさんです。ごめんね、エンジェリーさん」

　エンジェリーに一言謝罪の言葉を挟んでから除外する歩美。除外したモンスターは特定のカードを使わない限りゲームで使用することはできなくなってしまう。それがモンスターにとって申し訳ないこと、と感じていたため歩美はカードに向かって謝ったのである。
　その様子にはデュエルの相手である綾香はもちろん、アドバイスを送っている美夏と凛、審判を務めている遊希、そしてデュエルの行く末を見守っている千夏・詩織・エヴァ・結衣・心・ベアトリスの心をも虜にしかねないほどの愛しさだった。

（……純粋ね）
―――何処かの誰かとはえらい違いだ。
（うっさい）
「デッキからとくちゅしょうかんするのは“まどるちぇ・めっちゃんじぇらーと”さんです！」


※マドルチェ・メッセンジェラート
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1600/守1000
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
このカードが特殊召喚に成功した時、自分フィールド上に「マドルチェ」と名のついた獣族モンスターが存在する場合、デッキから「マドルチェ」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。


マドルチェ・メッセンジェラート ATK1600→2100

「めっちぇんじぇらーとさんがとくちゅしょうかんにせいこうしたとき、わたしのフィールドに「マドルチェ」と名のついたけものぞくモンスターがいるばあい、デッキから「マドルチェ」と名のついたマジック・トラップカード1枚をてふだにくわえることができます！ てふだにくわえるのは……“マドルチェ・チケット”です！」
「マドルチェ・チケット！？ 今、歩美ちゃん自分で……」

　さっきまでは美夏と凛のアドバイスを受けながらデュエルをしていた歩美であるが、今回のメッセンジェラートの効果でサーチする魔法・罠カードはなんと自分で判断して決めたのである。ルールブックを片手に持ちながらデュエルをしているのは変わらないのだが、わずか3ターン目で自分で判断してカードを選べる、というのは間違いなく大きな進歩である。

（……やっぱりこの子からは才能を感じるわ。綾香、いい加減可愛さにやきもきしてる場合じゃないわよ）
「いまてふだにくわえたマドルチェ・チケットをはつどうします！」


※マドルチェ・チケット
永続魔法
自分のフィールド上・墓地の「マドルチェ」と名のついたカードがカードの効果によって自分の手札・デッキに戻った時、デッキから「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
自分フィールド上に「マドルチェ」と名のついた天使族モンスターが存在する場合、手札に加えず表側攻撃表示で特殊召喚する事もできる。「マドルチェ・チケット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。


「マドルチェ・シャトーの効果でメッセンジェラートの攻撃力がビシキの守備力を上回りましたね。でも竜星にはリクルート効果があるからまだデュエルは……」
「いや、このターンでデュエルは終わるかもしれないデス」

　エヴァのその言葉にえっ、と驚いた様子で返すベアトリス。だが、すぐに彼女も気が付いた。歩美のフィールドには地属性・レベル3のモンスターが2体存在し、その条件でエクシーズ召喚できるモンスターが存在するのだ。

「よし、じゃあ歩美ちゃん。あのモンスターをエクシーズ召喚するんだ！」
「あの……モンスターさん？」
「待ってよ凛。あのモンスターじゃわかんないでしょうが。歩美ちゃん、エクストラデッキを見せてもらっていい？」

　歩美はうん、と頷くとデュエルディスクからエクストラデッキを取り出して美夏に渡す。恐らく歩美はエクシーズ召喚をしたことがないと思われるため、どのカードを出すかというアドバイスを美夏と凛はするつもりだった。
　しかし、エクストラデッキを確認し終わった美夏と凛は一度見終わったにも関わらずもう一度エクストラデッキを確認する。見間違いなどではなかった、歩美のエクストラデッキにはあのモンスターこと“M.X-セイバー インヴォーカー”が入っていなかったのである。
　インヴォーカーは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことで自分のデッキから戦士族か獣戦士族の地属性・レベル4モンスター1体を特殊召喚できるのだ。この効果で地属性・戦士族のマドルチェである2体目のメッセンジェラートや“マドルチェ・バトラスク”を召喚すれば、レベル4のマドルチェ2体で“クィーンマドルチェ・ティアラミス”をエクシーズ召喚できたのだ。
　ティアラミスは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで墓地のマドルチェモンスター2体をデッキに戻し、相手のカードを2枚までデッキバウンスできる、という効果を持っている。この効果でインヴォーカーとティアラミスの効果を発動するためにオーバーレイユニットとして墓地に送られたマドルチェ2体をデッキに戻せば、綾香のフィールドのビシキとセットカード3枚のうちの1枚をデッキバウンスすれば、綾香のフィールドにはセットカードが2枚残るのみ。
　マドルチェ・シャトーの効果でティアラミスの攻撃力は2700にまで上昇するため、セットカードが攻撃反応でなければティアラミスとインヴォーカーの攻撃で総ダメージ量は4300に達し、綾香のライフは0になっていたかもしれなかった。エヴァや美夏・凛の見通しは思わぬ形で外れることとなったのである。

「ま、まあインヴォーカーは希少価値の高いレアカードだからね……歩美ちゃんが持っていないのも仕方ないよ。ボクたちだって持ってないし」
「だったら歩美ちゃん、このまま攻めちゃおう！」
「はっ、はい！ わたしはメインフェイズ1からバトルフェイズにうつりまちゅ！ えっと、まどるちぇ・めっちゃんじぇらーとさんでビシキさんをこうげきです！」

マドルチェ・メッセンジェラート ATK2100 VS 水竜星-ビシキ DEF2000

「この瞬間、リバースカードを発動するわ！ 永続罠、竜星の具象化！」
「りゅうせいのぐしょうか……？」
「1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された時、デッキから竜星モンスター1体を特殊召喚できるのよ！」

　メッセンジェラートの攻撃によってビシキが破壊される。その瞬間、破壊されて墓地に送られたビシキと表側表示になった竜星の具象化の効果が併せて発動する。

「まずはチェーン2の竜星の具象化の効果でデッキから地竜星-ヘイカンを守備表示で特殊召喚！ そしてチェーン1のビシキの効果でデッキから2体目の炎竜星-シュンゲイを特殊召喚するわ！」
「ふぇぇ……綾香おねえちゃんのモンスターさんがふえちゃったよぉ……」
「焦らないで。ホーットケーキの攻撃力なら両方倒せるよ！」
「えっと、ホーットケーキさんでシュンゲイさんをこうげき！」

マドルチェ・ホーットケーキ ATK2000 VS 炎竜星-シュンゲイ ATK1900

綾香 LP4000→3900

「やったね！ 綾香さんのライフに先にダメージを与えたよ！」
「でもシュンゲイの効果も発動しちゃうんだけどねー」
「破壊されて墓地に送られたシュンゲイの効果でデッキからチューナーモンスターの光竜星-リフンを守備表示で特殊召喚するわ！」

　先にライフを削ったのは意外にも歩美だった。しかし、今綾香のフィールドに存在するのは共に守備表示の竜星2体。よってこれ以上のダメージは期待できない。ただし竜星はシンクロ召喚をメインの召喚法としているカテゴリーだ。よってシンクロ召喚を行うにあたって必要不可欠なチューナーモンスターを残しておくわけにはいかなかった。

「ミィルフィーヤさんでリフンさんをこうげきします！」

マドルチェ・ミィルフィーヤ ATK1000 VS 光竜星-リフン DEF0

「破壊されて墓地に送られたリフンの効果でデッキから“闇竜星-ジョクト”を守備表示で特殊召喚する！」


※闇竜星-ジョクト
チューナー・効果モンスター
星2/闇属性/幻竜族/攻0/守2000
「闇竜星-ジョクト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1)：自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「闇竜星-ジョクト」以外の「竜星」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
(2)：自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在しない場合、手札の「竜星」カード2枚を墓地へ送って発動できる。デッキから攻撃力0と守備力0の「竜星」モンスターを1体ずつ特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外される。


「うーん……バトルフェイズからメインフェイズ2にうつりまちゅ。えっと、エクシーズ召喚はしたほうがいいですか？」
「そうだね……ホーットケーキはともかくミィルフィーヤは攻撃力が1000しかないからね。綾香さんのモンスターの攻撃に耐えられそうな……このモンスターとか」
「そうね、あたしだったらこのモンスターを召喚するかなー」
「わかりましたっ。わたしはレベル3のマドルチェ・ホーットケーキさんとマドルチェ・ミィルフィーヤさんでおーばーれい！ 2体のモンスターさんでおーばーれい・ねっとわーくをこうちく！ エクシーズしょうかん！ えっと……さわるととってもいたいばくだんさん！ “発条機雷ゼンマイン”さん！」


※発条機雷ゼンマイン
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/炎属性/機械族/攻1500/守2100
レベル3モンスター×2
フィールド上のこのカードが破壊される場合、代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。
この効果を適用したターンのエンドフェイズ時に1度、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。


「わたしはこれでターンエンドでちゅ！……あう」


歩美　LP4000　手札：3枚
デッキ：31　モンスター：2（マドルチェ・メッセンジェラート、発条機雷ゼンマイン ORU:2）魔法・罠：2（マドルチェ・シャトー、マドルチェ・チケット）墓地：0　除外：1
綾香　LP3900　手札：2枚
デッキ：29　モンスター：2（地竜星-ヘイカン、闇竜星-ジョクト）魔法・罠：3（竜星の具象化）墓地：4　除外：0


☆TURN04


「私のターン、ドロー！」
（うーん……もっと歩美ちゃんの可愛いデュエルを見ていたかったけど……仕方ないよね？）
「まず私はリバースカードを発動するわ。永続罠、竜魂の幻泉よ！ このカードの効果で墓地のモンスター1体を幻竜族にして守備表示で特殊召喚するわね。召喚するのはシュンゲイよ！」

　墓地からシュンゲイが蘇生されることで、綾香のフィールドに存在するモンスターのレベルはチューナーモンスターのレベルも合わせて総数が9になる。
　レベル9のシンクロモンスターでは竜星では“幻竜星-チョウホウ”、汎用シンクロでは氷結界の龍 トリシューラやミスト・ウォームなどが存在する。しかし、この局面ではどのモンスターを出したところで歩美のライフは0にはできなかった。

「そしてこのカードを召喚するわ。来なさい、2体目の光竜星-リフン！」
「2体目のリフン……まさか！」
「私はレベル4のシュンゲイ、レベル3のヘイカンにレベル1のチューナーモンスター、リフンをチューニング！ “天空に輝く星々の光、今その力を集わせ高貴なる光の竜を呼び覚ませ！” シンクロ召喚！ 降臨せよ、輝竜星-ショウフク！！」

　綾香のフィールドには綾香のデッキのエースモンスターの一角であるショウフクが光と共に天空から舞い降りる。シュンゲイとヘイカンをシンクロ素材にしているため、ショウフクの攻撃力は500ポイントアップし、さらに戦闘では破壊されなくなっていた。

輝竜星-ショウフク ATK2300→2800

「シンクロ召喚に成功したショウフクの効果を発動！ このカードのシンクロ召喚に使用した幻竜族モンスターの属性の数まで相手フィールドに存在するカードをデッキに戻すことができる。ショウフクの素材になった属性は炎・地・光の三種！」
「えっと……それだと……3まいも……？」
「よくできました、その通りよ。デッキに戻すのはゼンマイン、メッセンジェラート、マドルチェ・シャトーの3枚よ！」

　ショウフクの放った光の波動によってそれらのカードがフィールドから消失する。これで歩美のフィールドには今の時点では何もすることができないマドルチェ・チケットのみが残る形となった。

「ふぇぇ……わたしのモンスターさんたちが……」
（さすがに心が痛むけど……我慢して私！）
「そして最後のリバースカードもオープン！ 永続罠“強化蘇生”発動！」


※強化蘇生
永続罠
(1)：自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
そのモンスターは、レベルが1つ上がり、攻撃力・守備力が100アップする。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


「さらにモンスターを特殊召喚！？」
「墓地のシュンゲイを特殊召喚するわ！ このカードによって蘇生されたシュンゲイのレベルは1つ上がり、攻守の数値も100アップする！」

炎竜星-シュンゲイ レベル4→5　ATK1900→2000 DEF0→100

「そしてレベル5となったシュンゲイにレベル2のチューナーモンスター、ジョクトをチューニング！ “天空に輝く星々の光、今その力を集わせ邪なる闇の竜を呼び覚ませ！”シンクロ召喚！ 降臨せよ、邪竜星-ガイザー！！」

　そして光あるところに闇もある。綾香のフィールドにはショウフクと並ぶデッキのエースの一角であるガイザーまでもがシンクロ召喚された。当然シュンゲイが素材となっているため攻撃力もさらにアップする。

邪竜星-ガイザー ATK2600→3100

「あぅぅ……」
「ごめんね、歩美ちゃん。でも、歩美ちゃん強かったわよ！ バトル！ 輝竜星-ショウフクでダイレクトアタック！ “竜星昇天波”！」

輝竜星-ショウフク ATK2800

歩美 LP4000→1200

「きゃっ！」
「これで終わりね！ 邪竜星-ガイザーでも追撃！ “竜星抹殺波”！」

邪竜星-ガイザー ATK3100

歩美 LP1200→0





＊





「あうう……まけちゃった」
「ごめんね、ボクたちがついていながら」
「ううん、美夏おねえちゃんも凛おねえちゃんもいろいろおしえてくれてありがとね。わたしうれしかったよ？」
「うおおお……これはやばい」

　そう言って首を小さく傾ける歩美を見て、美夏と凛の心臓も「キュン」と音を立てる。

「歩美ちゃあああん！」
「綾香おねえちゃ……むぎゅっ！」

　デュエルを終えて駆け寄ってきた綾香は歩美が自分の名を呼び終わるより先にぎゅっと歩美を抱きしめた。

「凄かったわ！ 歩美ちゃん思っていたよりもずっと強かったんだもん！」
「えっ、わたしつよかったの……？」
「ええ。いっぱい勉強すれば歩美ちゃんはきっといいデュエリストになれるわ！ 私たちが保証するもの、そうよね！」

　同意を求めた綾香に対し、全員がうん、と深く頷く。歩美は「ふええ」と声にならない声を上げて顔を赤面させる。ほとんど初めてのデュエルだったのにも関わらず絶賛されたことがどうにもくすぐったいようだった。

「負けはしたけど歩美ちゃん、今のデュエルは誇っていいと思うわよ。きっとこのデュエルが自信につながるはず」
「遊希おねえちゃん……ありがとうございます！」
「ええ、こちらこそ」

　遊希は周囲を見渡す。自分が指導する結衣もそうだが、周りの誰もが歩美のデュエルを見て自分たちも頑張ろう、という気合が溢れていた。そして自然と教える側の自分にも力が入る。

（私も頑張らなくっちゃね）
―――そうだな。歩美の頑張りに応えられるように。

　遊希と光子竜が決意を新たにする中、歩美がもじもじしながら綾香に声をかける。

「ねえ、綾香おねえちゃん……」
「何かしら？」
「マドルチェさんを見ていたら……わたしあまいものが食べたくなっちゃった。3時のおやつ、綾香おねえちゃんといっしょに作りたいなぁ……」
「……！？ 作る作る作る！！ おねえちゃん歩美ちゃんのために一生懸命甘くて美味しいおやつ作ってあげるからね！！」

（……せっかく締まった雰囲気で移れそうだったのに……綾香のバカ）

　そんな遊希の嫉妬を余所に綾香はひたすら歩美に頬ずりし続けるのであった。