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決起〜立ち向かう勇気を〜 作:名無しのゴーレム
……玉座の間は静まり返っている。まだ『それ』が事実であるという確証はない。だけど……
「……クイナ様! カーバンクル隊が帰還しました!」
「……! 報告ご苦労。今すぐ向かう」
「ま、待って! ……私も行かせてください!」
「姫……分かりました。付いてきてください……」
王城を出たところでシズクたちを見つけた。その表情は暗いもので、それだけで『それ』が確かな事実であることが窺えた……
「シズク!」
「ぁ、姫…………申し訳ございません!」
「……謝らないでください。シズクは精一杯戦ったのでしょう?」
「っ、それでも! それでも私は部下を見捨てて逃げ出した! ……隊長として、あるまじき行為をしてしまった!」
「シズク……」
「……シズク殿。到着して早々にすまないが、情報の確認をしたい。……遊介殿が女帝により拉致されたというのは事実か?」
「……ああそうだ! 奴らはあいつを捕らえてすぐに退却を始めた! 私たちには見向きもしないで!」
「そうか。……遊介殿が拉致された理由は分かるか?」
「そんなこと分かるかよ! ……私のせいだ。私のせいで、あいつは……」
「落ち着けよシズク。自分を責めてなんとかなる問題じゃないだろうが」
気づけば、そこにはゼロが立っていた。
「……ゼロか。戦場にいなかった貴様に何が分かる……」
「分かるさ。隊長がそんなに狼狽えちゃあ部下にも影響が出るってもんだ。……後ろを見な」
「……? ぁ……」
「……シズク様。お願いです、あまり自分を責めないでください……」
「そうっスよ。遊介君を救い出せなかったのは俺たちの力不足のせいっス。だからいつもみたいに叱り飛ばしてほしいっス……」
「部下には最低限の威厳を保っていてください。……私を倒したときのあなたは、そんなに弱々しくはありませんでした」
「…………失態をさらした。…………これではモテない。…………だから、次は勝つ」
「お、お前たち……」
「分かったろ? お前を信じて付いてきてる奴の前なんだ、情けない姿は見せてやるな」
「……貴様に説教されるとは、私も落ちたものだ」
「ハッ、その調子なら問題ないな。……っと、忘れるところだった。姫、これを」
「……?」
ゼロが一通の手紙を差し出した。
「……これは!?」
「姫? 何が書いてあるのですか?」
「……『遊介を返してほしければ私と決闘しろ』、と……アルカ・グランベルゼから私にあてられたものです」
「そうでしたか……さっき帝国からの使いが来て、これを届けてきたんです」
「なんだと? ……っ、我々が、この王城付近まで敵国の兵士が来ていたのを見過ごしたというのか……!」
「まあまあ、そんなに気を落とすなよ。使いは一人だったし、まったく武装していなかったんだからな」
「……期限は2日、それ以内にあちらが指定した場所に来るようにとのことです。そうしなければ……」
「姫、向こうの申し出を……決闘を受けるのですか?」
「…………」
「罠の可能性も高い。うかつに行けばそのまま捕らえられるということも……」
「なら見捨てるというのか! ……例え貴様が兵を出さずとも、私一人でも向かう! あいつは……私が助け出す!」
「シズク殿! ……少しは、自らがこの国の筆頭騎士であるという自覚を持ってほしい。あなたまで囚われれば、もう我々に打つ手はないのだ……」
「っ……クソッ!」
「策は考えよう。しかし、うまくいく確証はまったくない……」
「待てよ。帝国の、女帝の今までの動きで相手を嵌めるなんてことがあったか? むしろこちらの策を真正面から打ち崩すって感じだったはずだ。なら、相手の狙いは手紙の文面通り姫との決闘なんじゃないか?」
私との、決闘……
「それであちらにどのような利益がある? ……私には分からないな」
「……女帝が実益を考えているとは思えないけどな」
「なんだと? ……ゼロ殿、それはどういう……」
「あの、クイナ……ひとまず城内に入りましょう。シズクたちも、一度休まないと……」
「……姫の言う通りですな。カーバンクル隊は指示があるまで待機、姫も一度部屋にお戻りください。私は戦況の把握をしますので……」
「…………」
ーー決闘。その言葉の意味を、私は一人自室で考えていた。
(帝国、あるいは大陸最強とすら謳われるアルカ・グランベルゼ。彼女と戦い勝つ……そんなことが、私に出来るの?)
いや、それ以前に……
コンコン
「……入ってください」
キィィィ……
「……姫、私に用とは?」
「シズク。……あなたにお願いがあります」
「お願い、ですか? ……はい、なんでしよう」
「……国に仕える騎士としてではなく、対等な一人の人間として、私の質問に答えてください。……あなたは、私に決闘を受けてほしいですか?」
「そ、それは……」
「……気兼ねする必要はありません。私は、あなたの言葉が聞きたいのです」
「……例え私が騎士でなくとも、私には姫と姫の父上ーーアベルカイン様から受けた恩があります。だから、姫を死地に向かわせるわけには……」
「『私の友達』としての、あなたの意見は?」
「……昔の話はやめてください。あれは、私が幼かった頃だけのことです」
「……そこまで強く拒むということは、あなたは受けてほしいと思っているということですか?」
「っ! …………」
……嘘はつけない、ということなんですね。
「あなたの気持ちは分かりました。なら、私は……」
「姫、待ってください! アベルカイン様に続いて姫までいなくなってしまえば、この国は……」
「シズク。……ただそこにいるだけの君主に価値などありません。国を統べるということは民のためにその身を捧げること……お父様はそう教えてくれました。だから、私は……」
シズクとの会話から数十分後……玉座の間には私とシズク、そしてクイナとゼロが集まった。
「……全員、揃いましたか」
「姫、どうして私たちを? 早く次に備えて準備をしなければ……」
「クイナ。……私、決闘を受けることにしました」
「……なんですと!? しかし、姫は……」
「いつまでも戦いを避けているわけにはいかないでしょう。それに、彼を……遊介を、帝国から取り返さなければなりませんから」
「……覚悟は、出来ているのですか?」
「……ゼロ」
「はい、姫。……これを」
「!! それは……姫のデュエルディスクですか!? おい、どうして貴様がそれを!」
「私が用意するように言いました。…………」
デュエルディスクに向かって手を伸ばす。でも……
「…………っ!」
震えが止まらない。……目の前にあるこれが人を傷つける道具だという事実が、ずっと怖くて仕方なかった。それでも、これがなければ彼を助けられない。
「……彼は、この国の民ですらない身でありながら単身で女帝に立ち向かいました。それなのに……私が逃げ出すなんて、できるはずがない!」
勢いのままにそれを掴み取る。震えはまだ止まらない。……それでも構わない。私は、悩みながら前に進むんだ。
「……お父様が望んだ、争いのない世を作るために……私の手で、この戦いを終わらせます」
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