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王国〜迫り来る脅威、共闘する仲間〜 作:名無しのゴーレム
「……まずは自己紹介から始めましょうか。私はユーノヴェルト・ハートラインと申します。この国ーーヘクシエールを代々治めるハートライン家の第24代当主です。ヘクシエールは私のご先祖様たちの統治の下、長らく平穏を保ってきていました……」
「……過去形ということは、今はそうじゃないのか?」
「ッ、貴様! 今までは見逃していたが、姫に対して無礼が過ぎるぞ!」
「シズク、私は気にしません」
「しかし、姫……」
「…………」
「……分かりました」
そう言ってシズクは黙ったが、依然としてこちらに向ける敵意の視線は変わらない。……俺、こいつにどんだけ嫌われてるんだよ。
「さて、続けましょうか。あなたの言う通り、この国はかつてない危機に瀕しています。それこそ、滅亡してしまうかもしれないほどの……」
「滅亡……一体、何が起きているんだ?」
「……帝国、ゲヴァルフォス。その地を治める『女帝』アルカ・グランベルゼが、この国に侵攻を始めたのです」
帝国、女帝……とんでもない話だ。
「彼らの力は圧倒的で、私たちは次々と敗北を重ねていきました。……特に女帝自ら率いる精鋭軍には、我が国の精鋭部隊……シズクが隊長を務める『カーバンクル』でも太刀打ちできませんでした」
「ッ……」
シズクが悔しそうに拳を握り締める。……それほどまでに実力差があるということなのか……
「……どうにかして帝国の侵攻を食い止める、そのためにゼロはあなたをこの世界に連れて来ました。……ゼロ、間違いありませんね?」
「はい。……遊介、見ての通り姫はまだ若い。なのにこうして、国のために尽力している。……どうだ、何か心当たりはないか?」
「え? ……あ」
思い出した。それは確かに、あの歴史書に書かれていた……
「じゃああんたは……ぐむっ」
「おっと。……この場で歴史書の話をするのは無しだ、いいな?」
口を塞がれた上に周りに聞こえない小さな声で命令された。……なんなんだよこいつは。
「ゼロ、どうかしましたか?」
「いえ、何も。さて、おおまかにうちの事情を知ってもらったところで、お前の答えは出たかな?」
「…………」
……無茶苦茶だ。こんな断片的な情報で、国どうしの戦争に加わるか否かを決めなきゃならないなんて。チクショウ、俺にどうしろってんだ……
『迷ったらさ、自分のしたいようにすればいいんじゃない?』
……きっとお前ならこう言うんだろうな、旭。……なら、俺の答えはーー
「……分かったよ。俺は闘う」
「……! ありがとうございます!」
「フン、当然の答えだな」
「……感謝する。貴君の力、この国を守るために使っていただこう」
「……よかった〜。あんだけ大見得切っといてお前に帰られたら俺の立場も危うかったからな……」
……おい。
「ならば、今からお前は私の指揮下に入ってもらう。文句は言わせないぞ?」
「え、ちょっ……」
「よろしくお願いしますね、遊介様!」
「いや、だから……」
「姫! こんな奴をそんな風に呼んでは……」
「いくら事情があろうと、一人を特別扱いするのは兵士たちの士気に影響が出るやもしれません。ですので姫、彼に対しても我々と同じように接していただければ……」
「……そう、ですよね。……遊介、これからよろしくお願いします」
「え、あ、いやぁ……はい」
言えねぇ……こんなキラキラした笑顔の女の子に『後ろの人の殺気が怖いです』なんて言えねぇ……
「……よし、じゃあさっそく部隊に合流してもらうぞ。ついてこい」
「え? ぐ、うおぉぉぉ!?」
シズクに首根っこを掴まれ、そのまま引っ張られていく……く、苦しい……
「……ここで待っていろ」
城内の一室に連れ込まれると、そう言われてそのまま置いて行かれた。
「……なんなんだよ、これ……」
コンコン、ガチャッ
「……ん? 誰だ……」
「シズク様ぁぁぁ!! ……って、誰だお前は!」
「いや、それは俺の……」
「くせ者め! ……ハッ! さてはお前、ゲヴァルフォスのスパイか!」
「ま、待て! だから……」
「問答無用! 今すぐ切り捨ててくれる! ハァァァ!!」
「うおわぁぁ!? 危ねぇ……テメェ、何しやがんだ!」
「先手必勝! お前は私の愛刀、金狩の錆にしてやる!」
「待て待て待て! 刀は無しだろ! ってか殺す気か!」
「当然だ! お前に逃げ場などない、おとなしく……」
「待つッスよロザリー! 刀を収めるッス!」
こ、今度は誰だ!?
「……エルドか。何故止める!」
「シズク様の話を聞いてないんスか!? 彼はうちの新しい隊員っス!」
「……おいお前、本当なのか?」
「そう、らしい。俺もいきなりここに連れてこられて、あいつにいきなり部隊に加えるとか言われて……」
「『あいつ』、だと? まさかそれはシズク様のことか! 無礼者め、やはり今ここで叩き斬って……」
「落ちつくっス、ロザリー!」
女が刀を抜こうとして男がそれを止める、そんなやりとりが数分続いた……
「……何している、お前たち」
「!! シ、シズク様ぁ!!」
「……ふぅ。もう少しで危ないところだったっス……」
「……エルド、何があったのか説明しろ」
「は、はいっス! それが……」
「……といったことがあったっス。」
「……ロザリー。」
「はい! シズク様、なんでしょうか!」
ゴツン!
「あ痛ぁ!?」
「お前は馬鹿か!? 何故城内で刀を抜いた!」
「だ、だって部屋に入ったら怪しい奴が目の前にいて……」
「言ったよなぁ! 新しい隊員の紹介をすると! お前は数分前の上司の話も覚えていられないのか!」
「ひ、ひぇ〜〜!! お許しを〜〜!!」
……なんなんだこれは。まさかこいつらが精鋭部隊だなんて言わないよな……?
「……まあいい、説教は後だ。お前たち、こいつが今日から私たちの新しい仲間となる遊介だ。実戦経験は浅いが、実力は私以上だ」
「なっ……それは本当ですか!? こんな男が!?」
俺、なんでこんなに嫌われてるんだ……? ってか、やっぱりこいつらが精鋭部隊なのか。
「へー、そりゃすごいっスね〜。じゃあ彼がこの国2番目の実力者ってことっスか」
「……2番目? それ、どういう意味……」
「全員揃ったところで、自己紹介を始めようか。……ロザリー、お前からだ」
「はい!」
先ほど俺に刀を向けてきた女か……
「私はロザリー、敬愛するシズク様が率いられる『カーバンクル』の一員だ。お前もこの部隊に名を連ねるのなら、シズク様と姫様のために命を捧げてもらうぞ」
「……いや、さすがに命は……」
「じゃあ次、エルドの番だ」
「あ、はいっス〜」
次はロザリーを止めた男か。なんか軽い感じだが……
「俺はエルドっス。前にヘマしてとんでもない借金を作っちまったっスけど、シズク様が俺の実力を買ってくれて借金を立て替えてくれたっス。その恩を返すためにもここで頑張らせてもらってるっス」
……駄目な奴なのかいい奴なのか分からないな。
「……さて、次はお前の番だな。入ってこい」
シズクの呼びかけに応じ、新たに一人の女性が入ってきた。見たところは普通の大人といった印象だけど……
「レイチェルと申します。以後お見知りおきを……」
……おお、まともだ。少しホッとしていた俺に、エルドが耳元で囁いた。
「……実は彼女、元指名手配犯なんスよ。司法取引でこの部隊に入ってるらしいっスけど、今でも許可なく外出出来ないそうっス」
「……ああ、だからシズクと一緒に来たのか……!?」
マジで!? 一番ヤバい人じゃねえか!?
「エルド、余計なことを話すな。……それじゃあ任せたぞ」
「…………はい」
!? 突如背後から声がした。振り向くとそこには、巨体の男が……
「お、お前、一体いつからそこに……」
「…………ローだ。…………モテたいからここに入った。…………以上だ」
「……へ?」
……逆に、あまりに普通すぎて戸惑った。いや、十分おかしいんだが。動機が不純すぎるだろ。
「そして私がこの部隊、カーバンクルの隊長を務めるシズク・サクラヤだ。……最後はお前だ、遊介」
……あ、俺も自己紹介しないといけないのか。えっと……
「遊介です。気づいたらここに入ることになってたけど、やるからには全力を尽くさせてもらいます。……よろしくお願いします」
「……フン!」
「よろしくっス〜」
「よろしくお願いします」
「…………ああ」
「……これで互いの自己紹介も終わったな。今からクイナのところに向かうぞ」
「今からですか?」
「そうだ。……さっそく今後の作戦についての話があるらしい」
「今後の、作戦……」
「あの帝国に勝つ手段があるってことっスか!? ……へぇ〜、さすがは軍師様っスね〜。どんな作戦なんスか?」
「それを今から聞きに行くんだ。……先に言っておくが、全員無事に帰ってこれるという保証はないぞ。覚悟は、出来ているな?」
「もちろんです! この命、シズク様のために散らせるなら悔いはありません!」
「さすがにロザリーみたいには言えないっスけど……シズク様のため、精一杯頑張るっスよ」
「……もとより、拒否権はありませんので」
「…………モテるためなら」
……かなりアレな連中だけど、覚悟は出来てるわけか。
「お前はどうだ、遊介」
「……やれるだけやる、としか。まだ生きたいし、勝って元の世界に帰らせてもらうよ」
「……よし。行くぞ!」
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