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HOME > 遊戯王SS一覧 > 03:賞金稼ぎ・カケル

03:賞金稼ぎ・カケル 作:ほーがん

第3話「賞金稼ぎ・カケル」


月明かりの下、二人で旅を始めてから朝を迎えた。暖かい日差しが東の空から差し込む。朝の太陽とは人の心までも高揚させるものだ。しかし、今のユーガは若干の後悔を抱えていた。

「ん、どうしたユーガ?さっさと歩け。今日中には他の街へ出るぞ。」

何個目になるか分からない乾燥パンをかじりながら、前を歩くリンカが言う。食事に困らせないと言ったが、ここまでの大食いだとは思わなかった。

「ああ、そうだな。」

溜め息を付くユーガ。他の街とは言うものの、その実態はどこも同じ瓦礫の山だ。しかし、それでもかつて自分が暮らしていた村のように、生活している人が居るかもしれない。そう思い、今まで孤独な旅を乗り越えて来たのだ。

「(だが、最初の仲間がこうも大食いだとはな・・・。)」

食料には蓄えがあると言ったものの、それは決して無限ではない。予想よりも遥かに早く消費していくリンカは、ユーガの計算を大きく狂わせていた。

「なんだ、暗い顔をして。旅の仲間が増えた事をもっと喜んだらどうだ。」

不服そうにリンカが言う。その原因が自分にあると気づいていないのだろう。ユーガはまた溜め息を付き、適当に返事をした。

「ああ、そうだな。」

ふと、目の前に見えた瓦礫の丘に、リンカはひょいと登ると辺りを見渡す。

「しかし、どこまで行っても瓦礫ばかりだな。私が居た建物からは随分遠くなったが、相変わらず人の気配は無しか。」

下から見上げるユーガは、また適当な返事をする。

「ああ、そうだな。」

それを聞いたリンカはムッとした顔で、ユーガに言った。

「おい、ユーガ。貴様さっきから『ああ、そうだな』しか言ってないだろ!」

そんなツッコミを余所に、ユーガは歩き出した。予想以上の速度で減って行く食料に対し、早々に手を打たなければ旅どころではなくなる。それは現実的な問題としてユーガを悩ませた。

「全く、ん?なんだあれは・・・・。」

その時。リンカが遠方に何かを発見する。

「・・・食料保管庫・・・だと・・・!!?おい、ユーガ!!」

突然の叫びに、ユーガは足を止める。

「なんだ。」

振り返ったユーガに、リンカは嬉々として言う。

「向こうの方角に『食料保管庫』と書かれた建物が見えたぞ!行くしかあるまい!!」

その言葉を聞き、ユーガは怪訝に思う。

「(食料保管庫だと・・・?昨日、この街を巡った時にはそんなもの見つからなかったが・・・。)」

ユーガが返答する前に、リンカは走り出していた。

「行くぞユーガ!付いて来い!」

「お、おい。待て。」

否応なしに、ユーガは追いかけるしかなかった。



その目的地である食料保管庫と書かれた建物の前。双眼鏡で二人の様子を覗く者が居た。

「こっちに来てるな・・・。どうやら作戦成功のようだぜ・・・。」



なんとかリンカに追いついたユーガは走りながら、口を開く。

「待てリンカ。俺が昨日街を回った時はそんな物なかったぞ。」

しかし、リンカに止まるつもりなど無い。

「それはユーガが見逃していただけだろう!私は行くぞ!気の済むまで食ってやる!」

今のリンカには何を言っても無駄だった。ユーガは半ば諦めながら、リンカの後を走る事にした。

だがしかし。その建物に近づくにつれて、それが建物ではなく、瓦礫から作られた掘建て小屋だとわかった。

「な、なんだこれは・・・。」

その前に辿り着き、困惑するユーガ。リンカは叫んだ。

「食料はどこだ!どこにある!!」

その時、その小屋の陰から人影が現れる。

「ふっふっふっ、引っかかったな。食い意地の張った奴らめ!」

リンカを後ろに下げ、ユーガは身構える。

「誰だ。」

その人物は笑いながら言った。

「誰だ、だと?良いだろう、教えてやるぜ。俺の名は・・・」

顔を上げたその人物は、羽織ったポンチョの中から銃型の武器を取り出すと、それをユーガに向けて口を開いた。

「正義のバウンティハンター、カケル様だぁ!!」

困惑するユーガ。しばし、両者の間に静寂が流れる。ウェスタンガンマンといった風貌のその人物、カケルはバツ悪そうに言った。

「っち、ノリが悪いなお前。まぁ、いい。お前の事は知ってるぜ、ユーガ!」

名前を呼ばれたユーガは、カケルを睨みつける。

「何故俺の名を知っている。」

やり取りを見ていたリンカが口を挟む。

「それより、食料はあるのか!?無いのか!?どっちだ!!」

その訴えを無視し、カケルは言った。

「へっ、そりゃ知ってるさ。お前、邪悪なる呪詛集団”村”の生き残りだろ!?」

ユーガは困惑する。

「なんのことだ?」

カケルはその態度に苛つき、端末を取り出すとそれをユーガに見せた。

「お前はその邪悪な”村”の呪詛法を受け継ぐ危険人物だって、俺の回線に通達があったんだよ!!ほら、見ろ!!」

そこに表示されていたのは、ユーガの写真と報酬内容。そしてその下には、”DEAD OR ALIVE NO ASK”の文字が。

「生死を問わず、だと。」

「そうだ!!だから、俺はお前を取っ捕まえて報酬を手に入れてやる!!正義の名の下にな!!」

しびれを切らしたリンカが言う。

「おい無視するな!食料はどこだ!」

ユーガは喚くリンカの方を向く。

「ややこしくなるから、少し黙っててくれ。」

「くっ・・・!」

渋々黙るリンカ。ユーガはカケルに向き直る。

「それで、どうやって捕まえるつもりだ。」

その言葉にカケルは笑う。

「へっ!んなもんこうやってだよ!!」

そう言うとカケルはその手に持つ銃のトリガーを引いた。瞬時に銃口を飛び出たワイヤーは、ユーガの左腕のデュエルディスクを捕らえる。

「何だ。」

ユーガのディスクに4000のLPが表示され、強制的に展開された。

「これは・・・。」

「これでお前はもう逃げられねぇ!大人しくデュエルするんだな!」

カケルはその銃を自分の左腕に宛てがう。すると、その銃は瞬く間にデュエルディスクへと変形した。

「(さっき通達があったと言ったな・・・。俺を探している奴らなんて考えられるのは一つだけだ。殺し損ねた俺を捕まえようとしている連中、それは・・・。)」

ユーガはカケルを睨む。

「(こいつに勝って聞き出すしかない。通達元の正体を。)」

ディスクを構え、カケルは叫ぶ。

「お前の邪悪な野望、この俺が砕いてやるぜ!!」



『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』


カケルは余裕そうに言う。

「先攻は譲ってやるよ。まずは呪詛師のお手並み、見せて貰おうじゃねえか。」

一瞬不服そうな顔したが、ユーガは一歩前に出た。

「俺のターン。手札から《アライブナイト・ケリウス(☆4/光/戦士/800・2100)》を召喚。」

ユーガの場に巨大な盾を持った白騎士が出現する。

「へぇ、邪悪な呪詛を受け継いだくせにキラキラしたモンスター使うんだな。」

カケルの呟きも気に留めず、ユーガは続けた。

「このモンスターは召喚成功時に守備表示になる。そして、カードを1枚セット。」

そのプレイングをリンカが鼻で笑う。

「ふっ、いきなり守備表示とは度胸がないなユーガ。」

それを聞いたユーガは咳払いすると、カケルに言う。

「・・・俺はターンエンドだ。」


カケルはデッキに手を伸ばし、勢いよくカードを引いた。

「よし、行くぜぇ俺のタァァァン!!!」

その叫びにユーガは思わず呟く。

「暑苦しい奴だな・・・。」

カケルは構わずに進める。

「来い俺の相棒!!手札から《I・B(イモータル・ブレイバー)マイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》を召喚!!」

赤いボディのヒーローロボットと言うべきか。燃え盛る炎の中からそのモンスターは現れた。

「さらに俺は手札から永続魔法《アタッチメント・カタパルト》を発動!!」

ヒーローロボットの後ろに、巨大な射出機が出現する。

「このカードは1ターンに1度、自分フィールドに《I・Bマイデン》が存在する場合に、デッキから「B・A(ブレイバー・アタッチメント)」と名の付くユニオンモンスター1体を特殊召喚できる!」

その言葉にユーガは身構える。

「ユニオンだと。」

カケルのデッキから1枚のカードが迫り出す。

「俺はデッキからこのモンスターを特殊召喚するぜ!飛び立て!《B・Aフレイム・ファルコン(☆3/炎/機械/ユニオン/1200・1200)》!!」

射出機から飛び立ったのは、烈火の隼。さらにカケルは叫んだ。

「さぁ、よく見ておけ!武装合体!!」

掛け声と共に、ロボットは飛び上がった。それに合わせ、烈火の隼はパーツごとに分かれ、ロボットの各部に合体しその力を解放する。

「《I・Bマイデン》、フレイムモード!!」

それを見たリンカは驚愕する。

「が、合体しただと・・・!」

その言葉に答えるようにユーガが口を開く。

「あれがユニオンの能力だ。」

得意げな声でカケルは言った。

「その通り、ユニオンは対応するモンスターの装備カードとなる能力!俺はこの効果で《B・Aフレイム・ファルコン》を《I・Bマイデン》に装備させたのさ!そして装備カードとなった《B・Aフレイム・ファルコン》の効果発動!装備モンスターの攻撃力を500アップするぜ!!(ATK1900→2400)」

自分の場に居るモンスターを見てユーガは思う。

「(ケリウスの守備力を上回ったか・・・。)」

カケルはユーガのモンスターを指差した。

「バトルだ!《I・Bマイデン》フレイムモードで、《アライブナイト・ケリウス》を攻撃!!「フレアトーチ・スマッシュ」!!」

掌から火球を飛ばすマイデン。その炎はケリウスを盾ごと焼き尽くした。

「この瞬間、装備されている《B・Aフレイム・ファルコン》の効果発動だ!装備モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

熱の余波がユーガを襲う。だがユーガは表情を変える事無く、ダメージを受け切った。

「・・・(LP4000→3200)」

リンカが心配そうに言う。

「お、おい、ユーガ。大丈夫か?」

その瞬間、ユーガが口を開いた。

「この瞬間、罠カードを発動。《生への渇望》。」

ユーガの場に伏せられていたカードが開く。

「このカードは自分フィールドのモンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。今、破壊されたモンスターを自分フィールドに守備表示で特殊召喚する。蘇れ、《アライブナイト・ケリウス》。」

白銀の盾持ちが復活し、場に膝を付いた。

「そして、俺は特殊召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受け、カードを1枚ドローする。」

再びダメージを受けようとするユーガ。その行動を見て、リンカはハッと気づく。

「(そうか、なるほど・・・。しかし、わざわざ自分のライフを削ってまで使いたいのか、あのカードを。)」

そして、罠カードより出た衝撃波がユーガを襲った。

「・・・(LP3200→2400)俺は1枚ドローする。」

カケルは言った。

「わざわざダメージを受けてまでモンスターを蘇らせるとはな・・・。俺はカードを2枚セット!そして、《アタッチメント・カタパルト》の効果で特殊召喚したユニオンモンスターは、ターンの終わりに破壊される!」

マイデンを覆っていたパーツが砕け飛ぶ。しかし、カケルは笑っている。

「俺はターンエンドだ。さぁ、お前のターンだぜ?」


ユーガは静かにデッキに手を伸ばす。

「俺のターン。」

引いたカードを確認したユーガは、そのカードをディスクに置いた。

「俺はチューナーモンスター《アライブナイト・エリアル(☆2/光/戦士/チューナー/900・700)》を召喚。」

幼い風貌の女騎士が、身体に釣り合わない大きな剣を握って現れる。

「へぇ、チューナーか。邪悪なデュエリストってのはどんなシンクロを見せてくれるんだ?」

カケルの言葉に構わず、ユーガは言った。

「俺はレベル4の《アライブナイト・ケリウス》にレベル2の《アライブナイト・エリアル》をチューニング。」

光の輪となった仲間に、盾持ちの騎士が飛び込んだ。


「眩き光の甲冑よ。勝利の剣を手に、その輝きを昇華せよ。シンクロ召喚。切り開け、《アライブナイト・シェリー・レイ(☆6/光/戦士/シンクロ/2200・1900)》。」


燦々と煌めく剣を掲げ、聖なる姫騎士はフィールドに降り立つ。

「な、なんか邪悪なデュエリストが使うには随分、正義の味方っぽいモンスターだな・・・。」

その姿を見たカケルが呟く。しかし、直ぐさま頭を横に振ると言葉を付け足した。

「い、いや!こういう奴ってのは見た目から騙して来るもんなんだ!そうに決まってるぜ!」

一人でブツブツと喋るカケルを余所に、ユーガは言い放つ。

「バトルだ。《アライブナイト・シェリー・レイ》で《I・Bマイデン》を攻撃。」

剣を構え、姫騎士は飛び出す。カケルは叫んだ。

「させるか!!俺はリバースカードを発動!罠カード《次元幽閉》!相手の攻撃モンスター1体を除外する!!」

姫騎士の前に突如として次元の裂け目が出現する。しかし、ユーガは落ち着き払った声で言った。

「無駄だ。《アライブナイト・シェリー・レイ》がバトルする時、このカードは他のカードの効果を受けない。よって攻撃は続行。」

姫騎士は剣を振り下ろし、目の前の裂け目ごと敵を切り裂いた。

「クソっ、マイデンは破壊させねぇ!!俺はもう1枚のリバースカードを発動!!罠カード《不滅の勇者》!!このカードを発動したターン、俺の《I・Bマイデン》は破壊されず、相手のカード効果を受けない!!」

カケルのフィールドでカードが開き、マイデンに力を与える。姫騎士から発せられる閃光の中、ユーガが言う。

「だが、戦闘ダメージは受けてもらう。」

衝撃と閃光の余波にカケルは悶えた。

「くっ・・・!!(LP4000→3700)」

荒くなった息を吐きながら、カケルは笑う。

「へへっ、守り切ったぜ、相棒・・・!」

手札とフィールドを確認したユーガは、カケルに告げる。

「俺はこれでターンエンドだ。」


ターンが回り、カケルがデッキに手を伸ばす。

「こっからが本番だ!俺のターン、ドロー!」

そして引いたカードを見たカケルはニヤリと笑う。

「そろそろ使えってことか・・・?全く、やれば良いんだろ・・・なぁ?」

自分のデッキを見ながら呟くカケルに、ユーガは怪訝な顔をする。

「まずは《アタッチメント・カタパルト》の効果発動だ!デッキよりユニオンモンスター《B・Aブレード・ダイナソー(☆4/地/機械/ユニオン/1600・1000)》を特殊召喚!!」

カケルのフィールドに、鋭利な刃の尾を持った恐竜型マシンが現れた。

「おお恐竜だ!あっ、でも機械族か。ふん、モドキめ。」

ユーガの後ろで勝手に高揚し、勝手に落胆するリンカ。

「また装備するのか。」

そのユーガの言葉に、カケルはチッチっと人差し指を揺らす。

「いーや、今度はもっとすげぇ合体を見せてやろうじゃねぇか・・・!!」

そして、取り出される1枚のカード。カケルは不敵に笑うとそのカードを見せつけた。


「魔法カード、《武装融合(アタッチメント・フュージョン)》発動!!!」




次回 第4話「ゴミ溜めの地下街」
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ター坊
賞金稼ぎってどこかダークなイメージがありますがカケルはその逆をいきますね。
そしてリンカちゃんの腹ペコキャラも「おいおいw」と思います。
それにしても呪詛師とか意味深なワードが出てきましたな…。その真意は一体? (2016-01-28 18:25)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
(ユーガが悪者かどうかは別として)悪者をとっちめる役として賞金稼ぎというキャラクターは描きやすいです。あらゆる秩序や文明が崩壊した世界なので、リンカのように食に関して素直で貪欲な人間はこの物語ではむしろ普通だったり。
呪詛云々のくだりは果たしてカケルの思い違いなのか、それとも・・・という所は次回に持ち越しです。 (2016-01-30 18:32)

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