第112話　死した者　残された者　作：ター坊

~メアリー サイド~

「…ちゅう訳やな」
「……はい」
阿津血城での話はアキっちからだいたい聴いた。信重ぶっ倒した思うたらユイっちと明智を人質に取られて逃げることを躊躇していると、ユイっちと明智は自分から地獄の穴に落ちたと。
「…私達も助けることが出来なかった…」
「でもそのおかげで助かったんやろ？」
きっとユイっちは覚悟決めて落ちたんやろうな。人質に取られてる限り遊月っちの死か全員の死かのどっちかや。ユイっちはそれを回避するために自分から死んで人質を無くすことで早く脱出を促したんやと思う。そのおかげでユイっち以外誰も欠けることなく帰ってくれたんやと思う。
「でも…もっと、何かなかったのかしら……」
「…せやな」
ウチはその場にいなかったから分からんけど、少なくとも誰も死なずに済む道はあったかもしれへん。けど、時間がなくてこんなことになってしまったんやろうな。

ガチャ

戸が開いた。
「龍可。どう、様子は？」
「ううん。要らないって」
龍可っちはシュンとした様子で戻ってきた。帰ってきてから遊月っちも美羽っちもひどく落ち込んだ様子で部屋のベッドに倒れ、泣いてるみたいや。無理もないわな。
「そう…。美羽も遊月さんも、帰ってきてから何も口にしてないのに…」
「それはアキっちも一緒やろ」
いや、帰ってきた奴全員そうや。留守のウチらもその話を聞いてロクな食事はとってへん。
「そんだけ、ユイっちの存在は大きかったちゅーことやな」
「そう…ですね」



~遊月サイド~

私はただ泣いていた。私はこんな未来なんか望んでいなかった。やはり信重公の言う通り、私の五行の巫女の宿命がそうさせたのでしょうか？
私はどこでユイ様の人生を狂わせたのでしょうか？

一緒に阿津血城に乗り込んだとき―？

お春さんの救出を頼んだとき―？

それとも

私が出会ったから―？

ユイ様は私や皆様のために自らの死を選びました。あの時私は頭の中が真っ白になり、じいやに手を引かれながらその場から逃げ、ハッとした時にはもう阿津血城は地獄へと沈んでいました。じいやはユイ様の覚悟を無駄にしてはいけないと諭しました。確かにユイ様に生かされた命、私が死んで詫びるなんてことはしません。けれど、やはり私がいなければユイ様はずっと生きてたのに、と思わずにはいられませんでした。
そう。私のせいでユイ様が…。

もうあの頼もしい言葉は聞けない―。

もうあの温かい手で撫でられることもない―。

もう、あの笑顔が見れない―。

ユイ様…。本当に申し訳ありませんでした…。



~美羽サイド~

「ユイ…。ユイ……」
私はユイが羽織らせてくれたジャケットを抱きながら泣いていた。ユイが穴に落ちた時、私は一瞬何が起きたか分からなかった。そしてみんなが逃げるなか、私もただただ城から逃げ出した。
初めて会った頃、私はサイコ･デュエルディスクに乗っ取られてユイを傷つけた。なのにユイはそんな私を

優しく迎えてくれた。

優しく励ましてくれた。

そんなユイが私たちの前で消え、なんだか心に大きな穴が空いたような気持ちだ。まだ私はその優しさに何も返していないのに。
「ユイ…」
さすがに、ユイが蘇る奇跡なんか起こせないよね…。ユイ…。恐いよ……。私、これから戦っていけるのかな…？

もう一度、声を聞きたい―。

ごめんね…ユイ。私、ユイみたく強くないや……。



~柳生サイド~

阿津血城の激闘の翌日。拙者は寝ずに朝を迎えてしまった。ふと、同室の寝床を見てもやはりユイ殿はおらぬ。ユイほどの若者、散らすべき命ではなかった。手負いの昨日の拙者を自身で叱責するばかりだ。
「八兵衛殿」
「又左衛門殿…」
やはり、又左衛門殿も眠れなかったようだ。
又左衛門殿と共に部屋から出ると船内の空気は淀んでいた。まるで全員の失意の念を吸ったように暗く、重く思える。
「ユイ殿。ただの若者と思うておったが、時が時ならば一国の主になれたかも知れませんな」
「…左様ですな」
又左衛門殿が言った通り、それだけユイ殿は皆の支えとなっていた。

飯などの生活でも

式霊決闘による戦いでも

「本当に、惜しい命であった…」
拙者と又左衛門殿がそう悔やんでいるとこちらに向かってくる駆け足の音が聞こえてくる。
「城之内殿。如何なされた？」
足音の主は城之内殿の他にもゴーシュ殿クロウ殿もいる。
「それが信じられねぇと思うけどよ」
「奴が…奴が帰ってきたんだよ！」
「奴…？まさか…！？」
「ああ！アイツ、心配させやがって！バカヤロウ…！」
「今日は最高に良いノリだぜ！」
「さっき窓から見えたんだ！だから迎えに行こうって訳よ！」
それは吉報！
「拙者らも良いかな？」
「当たり前だ！」
又左衛門殿は姫に知らせに行き、拙者は皆と共に船の出口へと向かった。