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HOME > 遊戯王SS一覧 > 16話 声援の中の戦士

16話 声援の中の戦士 作:19

 ヤマト「バトルだ!『Hメドロウ・ヴァルキス』で、ダイレクトアタック!」
 プレイヤー「うわあぁ!」

プレイヤー LP600 → 0


  ヤマト:勝利!


アオヒサ、クレアに続き、ヤマトもデュエリストを倒して勝ち進んでいた。しかし、フィールドに腕を組んで立つだけの男が一人…。

 テンジ「………」
 男「……」

俯いてジッとしている。寝ているのかと思うほど動かないその態度に、対戦相手が居なくなってしまった相手プレイヤーも苛立ち始める。

 男「…くそっ。コイツいつまでそうしてる気だよ……。おいてめぇ!負けるのが怖いなら素直にサレンダーして待機室に戻れよ!こっちは大会で優勝狙ってきてるんだぞ!  聞いてんのか!!」
 テンジ「………そろそろか」
 男「あ?」
 テンジ「もう、全員のデュエルが終わったかって聞いたんだ」
 男「あぁ終わってるよ。お前がグズグズしてる間にな。それとも何か。俺が大会本選に出られないようにここに居座るつもりか!そんなの許される筈がねえ!おい審判!コイツ、デュエルする気がないみたいぜ!とっとと追い出して、俺を不戦勝にしてくれよ!」
 テンジ「慌てるな。俺は待ってたんだ。この時を…!」

ディスクを天高くかざし、テンジは叫ぶ。

 テンジ「お客さん!待たせちまってゴメンよお!これから、最っ高に楽しいデュエルを見せてやるから、存分に楽しんでくれ!」
 男「はぁ?楽しいデュエルだと?俺はもうすでに楽しくないんだよ!」
 テンジ「俺は待ってたんだよこの時を。他のプレイヤー全員のデュエルが終わり。残ったのは俺とお前だけ…つまり観客は俺達のデュエルしか見ていない。…そこで!俺が素晴らしいデュエルをするのを!大勢の人に見てもらうんだよ!さぁ、デュエルだ!」
 男「くそっ!むかつく奴だ!」

テンジ・男「デュエル!!」


 テンジ LP8000 手札5
 男 LP8000 手札5

 テンジ「俺のターンからだ!俺は手札から『E-エマージェンシーコール』を発動!デッキから『E・HERO』モンスター1体を手札に加えるぜ!『E・HEROスパークマン』を手札に加える。そして、モンスターをセットして、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

テンジ LP8000 手札2
  場
セットモンスター×1
セット魔法罠カード×2


 男「たいそうな事言ってたわりには守りに徹するのかよ…。俺のターンだ、ドロー!」

引いたカードを見て目を見開く。

 男「(来た!このカードを使えば…!)」

手札に来たカードを見て、男は勝利を確信する。男のデッキのキーカードを引いたのだ。

 男「手札から『二重召喚』を発動!その効果によって俺は2回召喚ができる!モンスター2体をセットして、カードを2枚ふせてターンエンドだ!」

男 LP8000 手札1
  場
セットモンスター×2
セット魔法罠カード×2


 テンジ「ありゃりゃ。攻撃してこないや。折角のラストデュエル。盛り上げなきゃ」
 男「うるせぇ!俺は遊びに来てるんじゃねえんだよ!とっとと進めやがれ!」
 テンジ「はいはい…。ドロー!」

男の怒声を軽く受け流し、テンジはドローした。

 テンジ「さあ!このデュエルを見てくれている良い子の諸君!そこのお母さんお父さん!おじいちゃんおばあちゃん!老若男女、俺のデュエルを見てくれよ!」

人差し指を天高くかかげ、フィーバーのポーズをとって歓声を沸かす。テンジのデュエルは始まったばかりなのだ。

 テンジ「ヒーローってのはよ。いつでも誰かに応援されるもんだぜ!『E・HEROクレイマン』を反転召喚!」

E・HEROクレイマン 地属性/戦士族 攻撃力800

赤い頭にゴツゴツとした大きな体つきのモンスターが

 男「守備力2000のモンスターか…。なるほど、さっきのターン、お前が手札に加えたスパークマンをセットしたと思い込ませ、守備力が高いソイツを攻撃させることで反射ダメージを狙っていたな」
 テンジ「その通り☆」
 男「ふざけやがって…!」
 テンジ「まぁまぁ。俺のデュエルはここからだよ。手札から魔法カード『融合』発動!俺の手札の『E・HEROスパークマン』と、場の『E・HEROクレイマン』で融合!」

 司会「おぉっと!優勝候補テンジ選手、お得意の融合召喚だぁ!」

 テンジ「そうさ!見せてやるよ、融合召喚!『E・HEROサンダー・ジャイアント』!」

E・HEROサンダー・ジャイアント 光属性/戦士族 ☆6 攻撃力2400

分厚く黄色い鎧を纏い、電気を常にバチバチと周囲に張り巡らす巨体の戦士が融合召喚され、会場を沸かした。

 子供「わぁ、カッコいい!」
 子供2「すごーい!いいぞおにいちゃーん!」

幼い子供達はヒーローの登場に大はしゃぎし、テンジもそれに拳を掲げて答える。

 テンジ「そうだろう!カッコいいだろう!ヒーローはこうでなくっちゃな!」

男は相変わらずテンジを睨み、デュエルを続けろと言わんばかりの視線を送る。

 テンジ「さて…バトルだぜ!サンダー・ジャイアントで、右側のセットモンスターを攻撃!」
 男「かかったな。リバースカードオープン!永続罠『針虫の毒液』発動!1ターンに二度まで、お前が攻撃宣言、またはカードの効果を宣言する度に、お前のデッキの一番上のカード2枚を墓地へ送るぜ!さあ最初の2枚!」
 テンジ「この動き…デッキ破壊だな!面白い!」

意気揚々とデッキトップを墓地へ送る。送られたモンスターは『E・HEROバーストレディ』『O-オーバーソウル』テンジのデッキは残り31枚。

 男「そして、お前が攻撃したモンスターは『ニードル・ワーム』!コイツのリバース効果によって、お前のデッキトップ5枚を墓地へ送るぜ!」

ニードルワーム 地属性/昆虫族 ☆2 守備力600

紫の芋虫が放った大きな針がテンジのデッキトップ5枚を貫く。デッキがさらに26枚へと一気に削られる。

 テンジ「おぉ、凄い減り方だ。俺はこのままターンエンド!」

テンジ LP8000 手札1
  場
E・HEROサンダー・ジャイアント 攻撃力2400
セット魔法罠カード×2


 男「へっ。その余裕、すぐに無くしてやるぜ!俺のターン、ドロー!  リバースモンスターだ!もう1体の『ニードルワーム』の効果発動!」

ニードルワーム ☆2 攻撃力750

テンジのデッキはさらに減って21枚。さらに男は追い打ちをかけた。

 男「ここでリバースカードオープンだ!魔法カード『浅すぎた墓穴』を発動!お互いのプレイヤーは墓地からモンスター1体を選択して裏側守備表示で特殊召喚する!俺はもちろん『ニードルワーム』だ!」
 テンジ「おぉっ!俺にモンスターをくれるのかい!ありがたいぜ。俺は『E・HEROスパークマン』を選択だ」

2体のモンスターが場にセットされる。さらに男はもう1体のモンスターをセットしてターンエンドした。

男 LP8000 手札1
  場
ニードルワーム 攻撃力750
セットモンスター×2
罠 針虫の毒液
セット魔法罠カード×1


 テンジ「俺のターンだ!ドロー!カードを1枚伏せて、サンダー・ジャイアントで左側のセットモンスターを攻撃!」
 男「なら『針虫の毒液』の効果で2枚を墓地へ送ってもらう。そして、お前が攻撃したモンスターは『メタモルポッド』!お互いのプレイヤーは手札を全て捨てて、5枚ドローする!」

テンジのデッキはドローすることでも減っていく。『針虫の毒液』と合わせて、合計7枚のカードが無くなり、今は13枚にまで減らされてしまった。

 テンジ「まだだ、メインフェイズ2!『E・HEROサンダー・ジャイアント』の効果発動!手札を一枚墓地へ送ることで、サンダー・ジャイアントの攻撃力よりも低い攻撃力を持つモンスター1体を破壊する!手札の『E・HEROバブルマン』を墓地へ送って、『ニードルワーム』を破壊だ!  そして、ターンエンド…!」
 男「さらにもう2枚だ…!」

テンジ LP8000 手札4
  場
E・HEROサンダー・ジャイアント 攻撃力2400
セット魔法罠カード×3


 男「もうデッキも残りわずかだな…俺のターン!ドロー! 『ニードルワーム』を反転召喚だ!5枚を墓地へ!」
 テンジ「……」

デッキは残り6枚…。テンジは黙ってカードを墓地へ送る。男は、負けそうになっているから志気が下がり、黙っているだけだと思っていたが、当の本人は違っていた。楽しんでいるのだ。この状況を打破する為の戦術を考え、発動のタイミングをうかがっているのだ。

 男「さっきのテンションはどうしだんだよ、おい。ほらほら楽しそうに笑ってみろよ。モンスター1体を伏せて、ターンエンドだ!」

男 LP8000 手札4
  場
ニードルワーム 攻撃力750
セットモンスター×2
セット魔法罠カード×1


 テンジ「ドロー………。   来た…」
 男「?」
 テンジ「来た、来た、来たああぁぁ!」

引いたカードを握る手が震え上がらせる。

 テンジ「さあ!このデュエルもここまでだ!」
 男「ちぃ!何をするか知らねえが!お前はここまでだ!リバースカードオープン!永続罠『針虫の毒液』をもう一枚発動だ!これで、お前は何かする度にデッキからカードが4枚墓地へ送られるぞ!」
 テンジ「そうだな…だが、1ターンに2回しか適用されないってことも知ってる。リバースカードオープン!魔法カード『融合』発動!手札の『E・HEROフェザーマン』『E・HEROオーシャン』で、融合召喚!」

2体のモンスターが空中でグニャリと回って一つの姿へと変化する。

 テンジ「行くぜ!コイツが俺のぉ!大逆転劇だ!融合召喚、凍てつかせろ『E・HEROアブソルートZero』!」

E・HEROアブソルートZero 水属性/戦士族 ☆8 攻撃力2500

白いマントに白い鎧。着地した瞬間に地面を凍らせ、辺りにキラキラと輝く冷気を放つ。その白く美しい姿のモンスターに、会場の声が大きくなる。
そして、テンジのデッキは……残り、2枚…!

 テンジ「いいねえ、いいねぇ、この歓声…!だからさぁ!俺はこうするんだ!リバースカードオープン!魔法カード『ミラクル・フュージョン』発動!俺の場と墓地のモンスターを除外し、『HERO』を融合召喚する!」
 男「(かかったなコイツ!俺のセットモンスターは、最後の『ニードルワーム』…!かりに表のニードルワームが破壊されもそれだけじゃ俺のライフは削りきれない…なにをしようとこのターン耐えしのげれば、俺の勝ちだ!)」
 テンジ「俺は!場のアブソルートZeroと、墓地の『ネクロガードナー』で融合!」
 男「な!?せ、折角だした融合モンスターを素材にするだと!?」
 テンジ「そうさ!コイツが!俺の必勝コンボだ!  融合召喚『E・HEROエスクリダオ』!」

丸い影が人の形を成し、最終的には黒い鎧を纏った異形の戦士となった。

E・HEROエスクリダオ ☆8 攻撃力2500

 司会「に、二連続融合だぁ!これは、予選最終デュエルにして熱い展開となってきたぞぉ!」

 テンジ「『E・HEROアブソルートZero』が場を離れた時、相手の場のモンスターを…すべて破壊する!」
 男「そんな…!?」
 テンジ「その反応…、やっぱり伏せは『ニードルワーム』だな!?この虫野郎!」

アブソルートの幻影が氷の波動を撃ち込み、男の場のモンスターを一掃する。テンジが予想した通り伏せられていたニードルワームは破壊され、他のモンスター共々男の場から居なくなってしまった。

 テンジ「まだだ!俺の反撃は終わっちゃいない!最後のリバースカード!もう一枚の『ミラクル・フュージョン』だぁ!」
 男「ま、まだするのかよ!」
 テンジ「当たり前だ!だが、さすがにただの融合じゃあお客さんも飽きちまうだろう!そこで、俺が見せるのは…脅威の4体での融合だ!」

目を見開き、勝利への声を高らかに上げるテンジはミラクル・フュージョンを発動した。

 テンジ「お前がデッキ破壊をしてくれたおかげだぜ。おかげで俺は、融合素材を墓地に貯めることができた!墓地の『E・HEROフェザーマン』『E・HEROバブルマン』『E・HEROクレイマン』『E・HEROバーストレディ』を素材に!」

 司会「お!?お!?おおおぉぉぉ!!これは!まさかの4体融合だぁ!」

 テンジ「黄金に輝く戦士よ!その光をもって、俺の勝利の道を照らせぇ!融合召喚『E・HEROエリクシーラー』!」

E・HEROエリクシーラー 光属性/戦士族 ☆10 攻撃力2900

全身金色の派手な戦士が後光を放ちながらテンジの場に降り立つ。そして効果を発動した。

 テンジ「俺のデッキは0枚。そして、お前に伏せカードは無い。さっきの『ニードルワーム』のリバース効果が発動されてたら…俺の負けだったろうな」
 男「く…!」
 テンジ「エリクシーラーの効果発動!コイツが融合召喚に成功した場合、除外されているすべてのカードをデッキに戻す!」

発動したミラクルフュージョンによって除外されている5体のモンスターと、1体の融合モンスターをデッキに戻した。これでデッキの枚数は回復し、次のターンが来てもデッキ切れでの敗北を免れた。

 テンジ「ついで言っておくけどよ!俺の場のエスクリダオにも効果があるんだぜ!俺の墓地の『E・HERO』1体につき、攻撃力を100ポイントアップさせる。さっき6体も戻しちまったからそんなに上がらないけど、俺の墓地には今…16体のモンスターが存在する。よって攻撃力1600ポイントアップ!」

E・HEROエスクリダオ 攻撃力2500 → 4100

 男「でも、その2体の攻撃力を足したとしても、合計は7000!足りないんだよ!次のターン、俺の手札にあるカードを使えばお前は…」
 テンジ「そこでお前に質問だ!  俺のこの残り3枚の手札。なんだと思う…?」
 男「………!」
 テンジ「さあ!そろそろ終わりだ!少年たちよ!俺の勝利を括目せよ!  手札から『融合』発動!」

1度のデュエルで4回目の融合を決めるテンジに会場は最高潮に達する。テンジはその黄色い声援をBGMに、最後のモンスターを出した。

 テンジ「手札の『E・HEROザ・ヒート』と『E・HEROフォレストマン』を素材にぃ!現れよ『E・HEROノヴァマスター』!」

E・HEROノヴァマスター 炎属性/戦士族 ☆8 攻撃力2600

灼熱の炎を纏い、赤いマントをひらめかせながら颯爽と炎の戦士が場に現れた。テンジは3体のヒーローに命令する。

 テンジ「バトルだ!ノヴァマスターでダイレクトアタック!」
 男「ぬぐぅ!」

男 LP8000 → 5400

 テンジ「次だ!エスクリダオでダイレクトアタック!」
 男「ぐっ!」

男 LP5400 → 1300

 テンジ「これで最後だ!エリクシーラーで、トドメのダイレクトアタァック!」
 男「う、うわああぁ!」

男 LP1300 → 0


  テンジ:勝利!



最後の攻撃が決まるとともに、観客たちからの拍手喝采が送られる。予選だというのに、まるで決勝戦かのような盛り上がりを見せたデュエルは、テンジの勝利で幕を閉じた。

 司会「なんとも熱いデュエルで予選終了だぁ!だがしかし、これは予選!本選は強豪ぞろいの中の激しいデュエルになるぞぉ!」


VIPルームに満足気に入っていったテンジはガッツポーズをとる。

 テンジ「っしゃあ!まずは予選突破!」
 アオヒサ「お前なら予選なんて余裕じゃねえか」
 テンジ「あぁん?どんなデュエルだろうと、勝ってうれしいのは当たり前じゃねえかよぉ」
 アオヒサ「大体お前、かなり手抜きだったな?」
 テンジ「……なんのことかなぁ。俺は知らないなぁ」

頭を左右にブランブランと振りながら部屋の奥にあるソファーにダイブするテンジにアオヒサは言う。

 アオヒサ「サンダー・ジャイアントで表側攻撃表示になったニードルワームを攻撃しなかった。ソイツを攻撃してれば、デッキ切れの早さは抑えられた筈なのに…」
 テンジ「…だって、どうせ俺勝つじゃん。よほど手抜きをしない限り俺は強いんだよ。それに見たろ?あの子供達の笑顔。ヒーローの戦う姿を見て喜ばない子供はいなんだぜ」
 アオヒサ「その余裕っぷりで足元すくわれないようにしろよ。なんせ今回の大会には…」
 テンジ「?」
 アオヒサ「アイツもいるんだから」

アオヒサが目をやった方を見ると、そこには白髪の青年…エリルが居た。

 ヤマト「あ、テンジさん。勝ったんだね」
 テンジ「おうよ。えっと……」
 ヤマト「ヤマトだよ」
 テンジ「そうだったそうだった。トマ…ヤマトだったな」
 ヤマト「(今、トマトって言おうとした…?)」
 テンジ「んで、そこのスカした奴がめっちゃ強い…と?」
 アオヒサ「ああ。ヤマトが助けられるくらいだ。かなり強い」
 テンジ「ふーん…。いいねぇ。そんな奴が大会に出てるんだったら、この大会はもっと盛り上がる筈。かならず奴とデュエルできるように勝ち進んでいくぜ!」

指をポキポキ鳴らして喜ぶテンジはエリルに近づく。目の前まで来ると、二人はジッと見合った。

 テンジ「お前が…。えっと………。誰だっけ」
 エリル「……」
 アオヒサ「ダメだアイツ。人の名前覚えきらねえんだ…」

苦笑いするアオヒサとヤマトを余所に、テンジは話を続ける。

 テンジ「まぁこの際なんでもいい。お前が強かろうと弱かろうと…俺はお前と全力でデュエルするぜ。そん時はよろしくな」

右手を差出して握手を求めたが、エリルは無視して部屋を出て行ってしまった。

 テンジ「ありゃ…。人と話すのは苦手なのかな」
 ヤマト「そうみたいだね。腕は凄く立つんだけど…」
 テンジ「…やっぱ強いのか」
 ヤマト「うん。僕が負けそうになってた時、助けてくれたんだ」
 テンジ「なんだ。良い奴なんじゃん」

安心したような物言いでテンジはソファーに腰掛ける。



 クレア「……」

一人、トイレの鏡を見て考え込むクレアは自分の首筋に手を当てる。薄らと傷ができてしまっている箇所があり、それがリリヤとのデュエルで着いたものだということも知っている。

 クレア「(考えちゃダメ。焦らなくても、アイツとはいずれ決着をつけるんだから…!)」

水を手のひらに貯め、嫌な記憶を洗い流すように何度もバシャバシャと顔を濡らす。
未だに思い出す。リリヤの不敵な笑みが、エクスカリバーが奪われる瞬間が、敗北したあの瞬間が…。

 クレア「く…!」

いくら自分を抑えようとしても、つい拳を握ってしまう。今は大会中。ヤマトやアオヒサ、テンジに後れを取らないように頑張らなければいけないというのに…。



その時、VIPルームやスタジアムでは司会がマイクを片手に次の試合について話していた。

 司会「さぁて!皆さま!予選が終了し、次は、本選でございます!16人中8人が第二回戦へと出場できる!そして、優勝者には賞金と大会限定のレアカードが進呈されるぞ!デュエリストの諸君!トーナメントの表はコレだ!」

司会が画面いっぱいにトーナメント表を映し出す。

 ヤマト「僕は……1回戦目…」

そんなヤマトの相手は、大柄な男で如何にもプロデュエリストまっしぐらといった雰囲気を持つ男。

 男「お前が俺の相手か」
 ヤマト「アナタが、僕の相手ですか」
 カヤ「そうだ。俺はプロデュエリストのカヤ・スカラーだ。互いに正々堂々とデュエルしようじゃねえか」

その顔付きとは裏腹に、優しい笑顔をヤマトに向け、握手を求める。ヤマトもそれに応じて手を差し出した。

 ヤマト「うん。全力でデュエルしよう」
 カヤ「そろそろ試合だ。俺は先に行くぜ」

筋肉質な腕をグルグルと回し、首をポキポキ鳴らしながらカヤは一足先に会場へと向かう。
ヤマトも後を追うように走り、二人同時に会場に入った。室内の明かりとはまた違った太陽の光と、取り囲む観客たちからのエールや紙吹雪、チアガールたちの踊りなど、本当にスポーツの試合でも始まるかのような盛り上がりようだ。

 カヤ「……。俺は、絶対に勝つぜ」
 ヤマト「え?」
 カヤ「…」

何と言ったか聞き取れなかったヤマトを無視し、カヤは難しい表情でデュエルリングに立つ。
予選と違い、ラインだけではなく二人の足場が浮上して客に見やすいようになっている。

 司会「さあまず1戦目!無名のプレイヤー、ヤマト選手VS…『元』プロデュエリストのカヤ・ステラ―選手だぁ!二人とも、準備はいいか!レディー…!ゴー!」


 ヤマト・カヤ「デュエル!!」
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