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第三幕 エンタメデュエル・マジックショウ 作:名無しのゴーレム
「……さん。……姉さん!」
……ん、うるさいなぁ。たっくんめ、私が朝に弱いの知ってるくせに。
「……なぁ~に~。お説教はまた後でね~。」
「寝ぼけてんじゃねぇよ! 彩葉は!?」
ふぇ? 彩葉ちゃん?
「彩葉ちゃんなら、そこに……あれ?」
おかしいな、そこで寝てたはずなのに……たっくんの焦りの表情に、私も急速に目が覚めてきた。
「……トイレとかじゃないの?」
「家中探したが見つからなかった。なあ、夜中に誰か入って来なかったか?」
え、えーと、夜中か……
「……ごめん、寝てたから分からないけど……でも、鍵は閉めてたよ? じゃあ誰も入ってなんて……」
「……実は……」
たっくんの口から昨夜の事件について話された。夜遅くにこの家の前に立っていた少女。彼女とデュエルして負けたこと。そのままさっきまで外で倒れていたこと、そして……
「本当に!? その子、彩葉ちゃんを連れていくって!?」
「……ああ。……彩葉を探しに行く。」
「なら、私も……」
「姉さんはいい。この事件、どう考えても普通じゃない。……それに、俺が負けたせいでもある。姉さんは、いつ彩葉が帰ってきてもいいようにここに居てくれないか? もしかしたら、散歩に出掛けただけかもしれないしな。」
「そう。ならその通りに……するわけないでしょうが!!」
「な、何でだよ!?」
「決まってるでしょ!? あんたが居ない間、私がこの家を預かってたの! なら、彩葉ちゃんが居なくなったのは私の責任でしょ! それに何、デュエルで負けたから? そんな子相手に口約束が通じるとでも!? あんたが勝ってもどうせ同じ結果だったわよ! いい!? 私も全力あげて探すからね!」
「あ、ああ……」
「分かればいいのよ。さぁ、さっさと出かけるわよ!」
「それはいいが……姉さん、パジャマのままだぞ?」
「……え?」
――探すと言っても、何の手がかりもない以上、捜索は困難を極めた。警察への通報はたっくんが済ませたし……考えた末に、私が向かった先には、『すずめのさえずり』という、彩葉ちゃんがたまに遊びに行く場所だった。
「お邪魔しまーす……」
「ああ、こんにちは。あなたが……」
「はい。先ほど電話した、和泉 渚(いずみ なぎさ)と申します。朝早くにすみません。」
「そんなこと気にしないで下さい。彩葉ちゃんが居なくなったんでしょう? うちには来てないみたいです。念のため、子供たちにも聞いてみたんですけど……」
「そうですか…… あら、その子は?」
「え? ……あら和希ちゃん、どうかしたの?」
和希と呼ばれた少女はこちらをじいっと見つめる。
「ええっと、どうしたの?」
「……彩葉ちゃんの居場所、分かるかも。」
「え!? 本当!?」
「……和希ちゃん、それ本当?」
「……付いてきて。」
和希はそう言い残して素早く外へ出ていった。
「あ、私、行ってきます!」
「ちょっ、渚さん!」
おばさんの声を聞くこともなく、私は和希ちゃんの後を追い始めた。
「…………」
ある程度歩いたところで、和希ちゃんは足を止めた。
「え? ここって……」
私の目の前には、家の焼け跡が残っていた。完全に中が焼けてしまっているが、敷地の大きさからでもこの家が並みのものでないことが窺えた。
「ねぇ和希ちゃん、一体……」
「……ごめんなさい。」
突然の謝罪に、私も面食らってしまった。
「実は、私、彩葉ちゃんがどこに居るのか、知らないの。私、どうしてもここに来たくて……」
和希ちゃんが焼けてしまった家を見る。まさか……
「ここ、私の家なの。ずっと来たかったのに、駄目だって言われて……」
……まあ、止めたくなる気持ちも分かる。こんな小さな子に見せるには、この光景は衝撃的すぎる。
「それで、あんな嘘をついたの?」
「……ごめんなさい。怒ってる、よね?」
「……和希ちゃん、私のこと、テレビで見たことある?」
「え? ……ある、かも。」
「そう。実は私、プロのデュエリストでね。……私のモットーはね、『デュエルで世界中の子供たちに笑顔を』なの。……嘘をつくのはいけないことよ。でも、私はあなたを怒ったりしない。和希ちゃんはそんなことをしても、本当にここに来たかった。なら、連れてこなかった私たち大人が悪いの。あなたは悪くないわ。」
「……ありがとう。」
「いいのよ別に。じゃあ、そろそろ……あれ? 和希ちゃん、そっちは……」
和希ちゃんが家の跡に足を踏み入れる。ほとんどの瓦礫が撤去されていたが、まだ少し残っていて、子供が歩き回るには危険な場所だった。
「和希ちゃん、危ないわよ! 戻ってきなさい!」
「……あった!」
私の声に構わず探索を続けた和希ちゃん。どうやら何かを見つけたようだ。
「あったって、何が……?」
「ウンショ、ウンショ……開いた!」
地面を引っ張っていたように見えたが、やがて大きな鉄の扉が生えてきた。
「な、何これ……」
「…………」
「ま、待って! 私も行く!」
和希ちゃんが地面へと消えていった。そこまで近づいてみると、地下への隠し通路が現れていた。彼女はどんどん地下へと降りていく。心配になり、私もその後を追う。
「……ね、ねぇ、ここ、何の部屋なの?」
「……お父さんと、お母さんの部屋。いつも夜中に、ここで何かしてたの。」
「なんか、薄気味悪いわねぇ……」
階段を降りきると、広い部屋に着いた。どうにか電気を付けて、周りを見渡すと……
「何よこれ……研究所?」
「……これ、読んで。」
和希ちゃんが私に1冊の本を渡す。かなり古びた日記の様だが……ほとんどのページがかすれて見えず、後ろの数ページがやっとというところだった。
「分かったわ。えーと……『この研究も遂に終わりを迎えそうだ。何度か行った実験もすべて成功し、我々の仮説が正しいことが実証された。3日後に、いよいよ本番を執り行う。成功確率は良く見積もって70パーセント。不安が残る数値ではあるが、得られるであろう莫大な成果を前にしては十分に実行の価値のあるものだ。それでも心配なのは、やはり和希のことだ。万が一失敗すれば、最も危険なのはあの子だ。何か対策を講じなければ……』……ちょっと、何よ、これ。」
まさか、この火災は事故じゃないの? 『実験』? ページを捲る手が止まってしまう。
「……続けて。」
「でも……」
「お願い。」
「……『開始予定時間まで残り24時間を切った。和希も、今は知り合いのところに預けてある。……私たちがいなくなれば、あの子は一人ぼっちになる。あの子は、それに耐えられるのだろうか。だが、今更これを中止する訳にもいかない。数十年にも渡るこの研究を無に帰すことは、私だけでなく、数多くの先達の犠牲の意味を無くすことに他ならない。……和希が10才になれば渡そうと思っていたこれを、今更どうしたものか。思えば和希には、ずっと色々なことを我慢させてきてしまった。デュエルもその一つだ。ここの近くでデュエルを行い、【彼ら】を刺激しないようにするためだったとはいえ、あの年頃の子には、辛いことだろう。すべて終われば、私たちでデュエルを教えてやろう。呑み込みの早いあの子のことだ、きっとみるみる間に上達するだろう。』……」
最後の1ページ、その冒頭には『この日記を読んだ者へ』と書かれていた。
「……どうかした?」
「……いいえ、続けるわよ。……『これを私たち以外が読んでいるならば、恐らく私たちはこの世にはいないだろう。もし、これを読んだあなたが和希――私たちの一人娘を知るのならば、ぜひ彼女のことを助けてやって欲しい。そして願わくば、この日記の隣にあるはずのカードを、彼女に渡して頂きたい。これは……』」
突然、私の携帯が鳴った。
「あら、ごめんなさい。……もしもし、たっくん? もしかして彩葉ちゃん、見つかった……」
『姉さん! 今どこにいる!?』
「え? 何よ急に。ええと……」
『近くにすずめのさえずりっていう孤児院はないか? そこに和希っていう女の子が居るはずだから、その子に会って欲しいんだ。』
「……へっ!? 和希ちゃん!?」
「……?」
自分の名前が呼ばれ、和希ちゃんが首を傾げる。
「……何があったの?」
『詳しい説明は後でする。とにかく今は、その子のところに行って、俺たちが着くまで見といてくれ。頼んだぞ!』
「だから、一体……切れちゃった。たっくんめ、なんなのよ……」
「…………」
「? 和希ちゃん、それって……」
和希ちゃんがしげしげと手に持ったカードを見つめている。そのカードは……
「……それが、日記に書いてた?」
「だと、思う。」
「そう……一旦、外に出てみましょうか。私の弟がなんか言ってるし、そろそろおばさんも心配してるだろうしね。」
「……わかった。」
取り敢えず、私は日記を、和希ちゃんはカードを持って私たちは階段を上って外へ出る。すると……
「……まさか、本当にこんなところに居るとはな。」
私たちの目の前に、真っ黒な服に身を包んだ男性が立っていた。
「和希ちゃん、知ってる?」
私の問いに、和希ちゃんは首を横に振った。
「……誰よ、あんた。」
「済まないが、その少女をこちらに渡して頂きたい。その子は狙われているのだ。あの、『ヤツラ』に……」
「だから、誰だって聞いてるのよ!和希ちゃんが何に狙われてるってのよ!」
こいつがさっきたっくんが言っていたことと関係しているの……? 見るからに不審者っぽいし。
「……話すことは出来ない。どうしても、渡す気が無いのなら……」
男がデュエルディスクを構える。……なるほど、分かりやすいわね。
「いいわ、受けてあげる。……和希ちゃん、見ててね。私のエンタメデュエルを!」
「……うん。」
「「デュエル!!」」
渚 LP4000 手札5枚
男 LP4000 手札5枚
「私のターン! 私はモンスターをセット。カードを1枚セットして、ターンエンド!」
渚 LP4000 手札3枚 伏せモンスター1体 伏せカード1枚
男 LP4000 手札5枚
「……私のターン、ドロー! 手札から通常魔法、おろかな埋葬発動! デッキからギミック・パペット―シャドーフィーラーを墓地に送る。来い、ギミック・パペット―死の木馬! 死の木馬の効果発動! このモンスター自身を破壊する!」
? いきなり自爆って……
「死の木馬のもう1つの効果発動! このモンスターが破壊されたとき、手札からギミック・パペットを2体まで特殊召喚出来る。来い、ギミック・パペット―マグネ・ドール、ギミック・パペット―ネクロ・ドール! 私はレベル8のネクロ・ドールとネクロ・ドールでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 死の戦慄を奏でし地獄人形よ、存分に踊り狂え! No.40 ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス!」
ランク8のエクシーズモンスター……このための自爆だったのね……
「バトル! ヘブンズ・ストリングスで伏せモンスターを攻撃!」
「私の伏せモンスターは墓守の偵察者! リバース効果発動! デッキからもう一体の墓守の偵察者を特殊召喚!」
これで場にモンスターを残せた。これなら次のターンに……
「……バトル終了。ヘブンズ・ストリングスの効果発動! オーバーレイユニットを取り除き、墓守の偵察者にストリングカウンターを乗せる。手札から通常魔法、RUM-アージェント・カオス・フォース発動! 私の場のヘブンズ・ストリングスをランクアップ! 地獄人形よ、その真の力を我に! CNo.40 ギミック・パペット―シリアルキラー!」
「ランクアップ……あなた、相当強いみたいね。」
「その評価を貰うのはまだ早いな。場のシリアルキラーの効果発動! このモンスターの特殊召喚に成功したとき、ストリングカウンターの乗ったモンスターをすべて破壊して、カードを1枚ドローする。さらに、破壊したモンスターの中で一番攻撃力の高いモンスターの攻撃力分のダメージを与える。行け、シリアルキラー!」
墓守の偵察者に絡み付いた糸の拘束が、次第に強くなっていき、そして……
「……きゃあ!!」
渚 LP4000→2800
「和希ちゃん! ……あんた、よく子供の前でそんなカード使うわね!!」
「……私はこれでターンエンド。」
「この瞬間、リバースカードオープン! 永続罠、永遠の魂! 効果で手札のこのモンスターを特殊召喚するわ! 来て、最高の黒魔術師! ブラック・マジシャン!」
和希ちゃんは、まだデュエルの楽しさを知らない。でも、それなら私が教えてあげればいい。私と、私のカードたちならきっと出来るはず。それが、真のエンタメデュエルってものよね!
渚 LP2800 手札2枚 ブラック・マジシャン 永遠の魂
男 LP4000 手札2枚 CNo.40 ギミック・パペット―シリアルキラー
「私のターン、ドロー! 永遠の魂の効果発動! デッキから千本ナイフを手札に加える。手札から通常魔法、千本ナイフ発動! シリアルキラーを破壊する!」
ブラック・マジシャンの放った無数のナイフがシリアルキラーを切り裂いていく。
「バトル! ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!」
「…………」
男 LP4000→1500
「……墓地のシャドーフィーラーの効果発動! このモンスターを特殊召喚して、1000ポイントのダメージを受ける。ぐうっ……」
男 LP1500→500
「カードを1枚セットして、私はターンエンド。あっという間に逆転ね。どう、和希ちゃん! これがデュエルよ。どんな状況からでも次にはどうなるか分からない。わくわくするでしょう?」
「……あ、……うん。」
……大分間があったわね。まあいいでしょう。どうせ相手もまだ倒れてはくれない。なら、まだまだチャンスはある。
渚 LP2800 手札2枚 ブラック・マジシャン 永遠の魂 伏せカード1枚
男 LP500 手札3枚 ギミック・パペット―シャドーフィーラー
「……私のターン、ドロー! いいだろう、お前の言う通り、ここから逆転してみせよう。手札から通常魔法、アドバンス・ドロー発動! シャドーフィーラーをリリースしてカードを2枚ドローする。さらに通常魔法、傀儡儀式―パペット・リチューアル発動! 効果で墓地のシャドーフィーラー、マグネ・ドールを特殊召喚! 墓地のネクロ・ドールの効果発動! 墓地の死の木馬を除外してこのモンスターを特殊召喚する。」
一気にレベル8のモンスターを3体。まさか……
「私はレベル8のネクロ・ドール、マグネ・ドール、シャドーフィーラーでオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 万物の頂点に君臨する王よ、無双の力で我に勝利を! No.88 ギミック・パペット―デステニー・レオ!」
「……これはまた、随分と仰々しいのが来たわね……」
「……かっこいい。」
「え!?」
和希ちゃん、マジで!?
「墓地のアージェント・カオス・フォースの効果発動! 墓地のこのカードを手札に加える。デステニー・レオの効果発動! このモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除き、このモンスターにデステニーカウンターを乗せる。そして再びRUM-アージェント・カオス・フォース発動! デステニー・レオをランクアップ! 絶対の王よ、その真の力を見せよ! CNo.88 ディザスター・レオ!」
……さらにランクアップ。まったく、私よりエンタメしてんじゃないの?
「ディザスター・レオはカード効果の対象にならない。ディザスター・レオの効果発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手に1000ポイントのダメージを与える!」
「きゃあっ!」
渚 LP2800→1800
「さらにギミック・パペット―ボム・エッグを召喚。効果発動! 手札のギミック・パペット―ナイトメアを捨て、800ポイントのダメージを与える。」
渚 LP1800→1000
「く、くうっ……これは、ヤバイわね……」
あいつに次のターンを回せば、ディザスター・レオの効果で私は負ける。急がなきゃ……
「速攻魔法、サイクロン発動。永遠の魂を破壊する。」
「嘘でしょ!? くっ、永遠の魂の効果発動! デッキから黒・魔・導を手札に加えるわ。……永遠の魂が破壊されたことにより、私のモンスターはすべて破壊される。」
「カードを1枚セット。これでターンエンドだ。」
渚 LP1000 手札3枚 伏せカード1枚
男 LP500 手札0枚 CNo.88 ギミック・パペット―ディザスター・レオ ギミック・パペット―ボム・エッグ 伏せカード1枚
「私のターン……ドロー!!」
……よし、このカードなら!
「……さあ、いよいよショウタイムの幕開けよ!」
「……ショウタイム?」
「ええ、よく見てて! 今から始まるのは、至高の魔術師たちによる最高のマジックショウよ!」
「……ほう。ならば見せてもらおうか。」
「もちろん! まずはリバースカードオープン! 永続罠、蘇りし魂! 墓地のブラック・マジシャンを守備表示で特殊召喚! そして通常魔法、黒・魔・導発動! あなたの伏せカードを破壊するわ! お願い、ブラック・マジシャン!」
ブラック・マジシャンの攻撃が伏せカードを消し去る。
「さらに速攻魔法、ディメンション・マジック発動! ブラック・マジシャンをリリースして、手札からこのモンスターを特殊召喚する。来て、黒魔術師の弟子、ブラック・マジシャン・ガール! そのままギミック・パペット―ボム・エッグを破壊! 」
「……まだディザスター・レオが残っているぞ?」
「分かってるわよ! これでラスト! 通常魔法、黒・魔・導・爆・裂・破発動! 私の場にブラック・マジシャン・ガールが存在するとき、相手モンスターをすべて破壊する! さあ、お願いブラック・マジシャン・ガール! ブラック・バーニング!」
ブラック・マジシャン・ガールの渾身の一撃を受け、遂に王も倒れ伏した。
「……すごい! 」
「……!! でしょ!! 」
和希ちゃんの喜びの声に、私も思わず顔が綻んでしまう。対する男は全く表情を崩さない。
「……さて、終わらせましょうか。バトル! ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」
「…………」
男 LP500→0
「……私の勝ちよ。さっさと立ち去ることね。」
「ああ、そうさせてもらおう。だが、少し話をしたい。お前たち2人に関する話だ。」
「……私たち、2人に?」
「そうだ。よく聞いておけ。今、この町では……」
――これが、私たちがこの騒動に巻き込まれた、一番始めのお話だった。
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