49話 吹き荒れる風の音　作：名無しのゴーレム

男 LP4000 手札5枚
女性 LP4000 手札5枚


「俺のターン！ …ハ、いきなり来たぜ！ カードを1枚セット！ 手札から通常魔法、手札抹殺発動！ お互いの手札をすべて捨てて、その枚数ドローする！ そしてリバースカードオープン！ 通常魔法、真炎の爆発発動！ 俺の墓地のフレムベル・マジカル、フレムベル・ヘルドッグ、ネオフレムベル・シャーマンを特殊召喚！」

…一気に3体のモンスターを並べたか。なるほど、口先だけではないらしい。

「手札からネオフレムベル・オリジンを召喚！ 行くぜ！ レベル4のフレムベル・ヘルドッグにレベル2のネオフレムベル・オリジンをチューニング！ シンクロ召喚！ 大地の騎士ガイアナイト！」

…何だと！？ ここは融合次元のはず。なぜシンクロ召喚が使われているんだ…？

「まだまだ！ レベル3のネオフレムベル・シャーマンにレベル4のフレムベル・マジカルをチューニング！ シンクロ召喚！ ラヴァル・ステライド！ ステライドのシンクロ召喚に成功したことにより、手札を1枚墓地に送る。俺はこれでターンエンドだ！」


男 LP4000 手札1枚 大地の騎士ガイアナイト、ラヴァル・ステライド
女性 LP4000 手札5枚


「私のターン、ドロー！ 私は魔轟神レイヴンを召喚！ レイヴンの効果発動！ 手札を1枚捨てて、レベルを1つ上げる。」

魔轟神レイヴン レベル2→3

「暗黒界の軍神 シルバの効果発動！ このモンスターが手札から捨てられたとき、このモンスターを特殊召喚する！ 私はレベル5のシルバにレベル3のレイヴンをチューニング！ シンクロ召喚！ 舞い降りろ、ダークエンド・ドラゴン！」

あの女性もシンクロ召喚を…

「墓地の魔轟神クシャノの効果発動！ 手札の魔轟神獣ケルベラルを捨てて、このモンスターを手札に加える。ケルベラルの効果発動！ このモンスターが手札から捨てられたとき、このモンスターを特殊召喚する！ 墓地の魔轟神ソルキウスの効果発動！ 手札のクシャノ、魔轟神獣ノズチを墓地に送って、このモンスターを特殊召喚！ レベル6のソルキウスにレベル2のケルベラルをチューニング！ シンクロ召喚！ 舞い降りろ、魔轟神ヴァルキュルス！ ヴァルキュルスの効果発動！ 手札の魔轟神クルスを捨てて1枚ドロー！」

どんどんとモンスターが増えていく。まだ続くのか…？

「クルスが手札から捨てられたことにより、墓地のケルベラルを特殊召喚！ 手札の魔轟神獣キャシーを捨てて、墓地の魔轟神クシャノを手札に加える。キャシーの効果発動！ ラヴァル・ステライドを破壊！」
「くそっ！！」
「ダークエンド・ドラゴンの効果発動！ このモンスターの攻撃力・守備力を500ポイントダウンさせてガイアナイトを墓地に送る！」

ダークエンド・ドラゴン 攻撃力2600→2100

「…そ、そんな…」

あっという間に男の場からモンスターが消え去った。

「バトル！ ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック！」

男 LP4000→1900

「これで終わりよ！ ヴァルキュルスでダイレクトアタック！」
「ぐわぁぁぁ！！」

男 LP1900→0



「…どう？ これでもまだ、『あんな女』なんて言える？」
「…く、くそっ、お前ら、覚えてろよ！」

そんな捨て台詞を残して、男たちはこの場を去っていった。


「……やっと行ったわね。そこのあなた、大丈夫だった？」
「…ありがとうございます。おかげで助かりました。」
「…何があったかは知らないけれど、とりあえずその子たちを運びましょうか。」
「…俺は矢次 強志といいます。あなたは？」
「私は速見 風音（はやみ かのん）。さあ、早く運んであげましょう。」

こうして、俺たちはこの女性――速見さんの家へと向かったのであった。


「どう？ まだ起きそうにないの？」
「はい。すみません、速見さん。迷惑をかけてしまって…」
「いいのよ。困ったときはお互い様でしょ？ あと、風音でいいわよ。その呼び方、何かムズムズするし。敬語も要らないから。」
「…そうか。それじゃあ改めて、風音、さっきは本当にありがとう。」
「どういたしまして。それよりあなたたち、見かけない顔だけど、どこから来たの？」
「ええと、俺たちは…」

…困った。まさか別次元から来ましたなんて言えないし、一体どうしたら…

「…細かい説明は、あいつらが起きてからでいいか？」
「うん、別にいいよ。」

…凉花に一度相談しよう。

「ところでさっきの奴ら、風音を見て急に態度を変えたけど、あいつらとどういう関係なんだ？」
「ああ、それはね…えっと…」

…どうやら、答えに困る質問だったらしい。…話を変えるか。

「…ここ、お店だよな？ 風音が経営してるのか？」
「…ここはね、お母さんが開いた食堂なんだ。でもお母さんが倒れちゃってからは、私が代わりに店長みたいになっちゃってるけど…」
「…悪い。嫌なことを聞いちまったか。」
「構わないわよ。…あ、あの子たち、起きたんじゃない？」

俺たちの上方、風音の家のところから音が聞こえた。

「行ってきてあげなよ。私は店の準備があるからさ。」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。」


「…強志、これは一体どういうことなんですか？」

2人の居る部屋に入って早々、凉花に尋ねられた。

「ああ、それはな… じゃない！ おい、どういうことなんだよ！」
「…？ 聞いているのは私の方なんですけど…」
「…そうだったな。それでも、まず確認させてくれ。…ここは、本当に融合次元なんだよな？」
「…何があったんですか？」
「こっちに着いてすぐ、この次元のデュエリスト同士のデュエルがあったんだ。だが、そのどちらもシンクロ召喚を使っていた。凉花はどう思う？」
「それは…まさか…」

「……そんなぁぁ！！」
「ひぃっ！！」

凉花のすぐ後ろにいた京子が唐突に大声を上げた。

「京子、いきなり叫ぶな！ 凉花が固まっちまっただろうが！」
「ごめん、でも…」

京子の視線の先、そこにはついさっき紗枝さんから渡されたお弁当があった、のだが…

「…あー、完全に中身が崩れてるな。」

まあ、あんなことがあったから当然なんだが…

「…お母さんが、せっかく作ってくれたのに…」

京子が落ち込んでいると、風音が部屋に入って来た。

「あ、2人とも起きたんだ。…えーと、それは？」

風音の指差す先、そこには京子のお弁当があった。

「…これはだな…」

…ものはついでだ。京子たちにも今の状況を説明しておこう。




「…なるほど。」
「…私が気を失っている間にそんなことが… 風音さん、ありがとうございます。」
「へぇー、風音さん、デュエル強いんですね！」

「…私、さん付けで呼ばれるんだ…そんな年に見えてるんだ…」
「風音…」

そんなに気にしてるのか…

「…ところでそのお弁当、私に任せてくれない？」
「…え？ どういうことですか？」
「そのままじゃ食べられないでしょ？ 私が少し手を加えて、出来るだけ元の味に近いようにしてみるよ。」
「出来るの！？」
「やれるだけやってみるわ。…それ、お母さんが作ってくれたものなんでしょ？ なら、きちんと食べてあげないとね！」
「…ありがとう、風音さん！」
「さて、と。なら急がないと。もうすぐ開店だからね。」
「……そうだ！」

突然、京子が閃いたように声を上げる。

「京子、どうかしたのか？」
「いや、風音さんには助けてもらいっぱなしだからさ。私たちでお店の手伝いをしたらどうかなーって思ったの。」

…なんだって？

「…そうですね。風音さん、私たちは何をすればいいですか？」
「えーと…料理が出来るのは？」
「…まあ、一応出来るけど…」
「…すみません、今まで料理というものは一度も…」
「私も学校の授業くらいでしかやったことないかな…」

こいつら…

「…じゃあ、強志は調理のサポートを、他の2人は注文を聞いたり料理を運んだり…で、いいかな？」
「「はい！！」」


――何故だ。どうして別次元で食堂の手伝いを…


「…お兄さん、何ボーッとしてるの？」
「…いや、何でもない。さあ、さっさと取りかかろうか！」