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HOME > 遊戯王SS一覧 > 10:41番目のデュエルロイド

10:41番目のデュエルロイド 作:ほーがん

第10話「41番目のデュエルロイド」



―15年前。

一人の男がガラス管の前に立つもう一人の男に近づいた。
「ヘラルド、できそうかい。」
声をかけられた男―ヘラルド―はその男の方を向く事無く答える。
「ああ、もうすぐ完成だ。最強の『DR(デュエルロイド)』がいよいよ現実のものとなる・・・。」
ヘラルドの言葉に男は顔を曇らせた。
「最強のDRか・・・。『神の鉄槌』の再来に備えて造られたデュエルの戦士・・・。」
男はガラス管に手を当て、中の液体に浮かぶ胎児を見つめて呟く。
「なぁ、ヘラルド。”この子達”に親は要るだろうか・・・?」
ヘラルドは無機質な声で返した。
「”これ”は兵器だ。人でない以上親など必要ない。」
男は目を細める。
「本当にそうだろうか・・・。」
ヘラルドは睨んだ。
「用が無いならとっとと出て行ってくれ、ジャックス。私は忙しい。」
その男―ジャックス―は、フッと溜め息を着いた後、右回りして歩き出した。

「”これ”、か・・・。甘いのかもしれないが、俺にはそうは思えないよ、ヘラルド。」



そして現在。

「凛香聞こえるか?」
遊牙は通信機に声をかけた。
「・・・」
返答が無い。
「カケルと合流できた。凛香、何かあったのか?」
「・・・遊牙・・・。」
凛香の声が細々と聞こえる。遊牙は声を大きくして言った。
「凛香?どうした。何があったんだ?」
「・・・遊牙・・・あなた・・・何者なの・・・?」
その言葉に遊牙は困惑する。
「何を言ってるんだ凛香。言葉の意味がわからないぞ。」
その時、ブチッという音とともに通信が途絶える。
「凛香。凛香!」
遊牙の声かけに通信機は反応しない。
「凛香の奴どうしちまったんだよ?」
カケルが不思議そうに訊ねる。
「分からない・・・。”俺が何者か”なんて、一体何があったんだ・・・。」
遊牙も不思議そうな顔で、通信機を見つめた。



一方、凛香は。
「へぇ、こんな所に潜り込んでるなんて、あなたも相当物好きね。」
凛香の前に現れたのは、スタイルのいい大人の女性だった。
その女性は凛香から通信機を取り上げると、スピーカーを引きちぎった。
「くっ・・・!!」
凛香は直ぐさま立ち上がり、D・ディスクを構えた。
「随分威勢がいい子だね。まぁ今のご時世、女はそのくらいの威勢がないと生きて行くのは難しいものね。」
女性は凛香にゆっくりと近づく。
「何も取って食ったりしないわよ。私はミシェル。あなたは?」
女性は柔らかい物腰で凛香に訊ねた。
「やるなら早くD・ディスクを構えなさいよ!」
叫んだ凛香にその女性―ミシェル―は、やれやれといった風に肩をすくめた。
「だから、デュエルはしないの。あなた、わざわざゴミの吸い上げパイプ潜ってここまで来たんでしょう。何か理由があるはずよね?」
凛香は声を荒げた。
「そんなこと話す訳無いでしょ!」
ミシェルはD・ディスクを嵌めた凛香の腕を優しく触った。
「通信機を使ってたということは、ここに他の仲間も一緒に来てるわけね。でも、こんな所で電波飛ばしてたらすぐヘラルドに気づかれるわよ。まぁあいつは今、他の事にご執心だから気づかないかもしれないけど。」
ミシェルは言葉を続ける。
「とりあえず、そのD・ディスクを仕舞ってちょうだい。」
凛香は警戒の目を向けながらも、ゆっくりと構えた腕を降ろした。
「わかってくれてありがとう。しかし、ヘラルドのデータベースに入り込むなんて凄い才能ね。コンピュータ得意なの?」
ミシェルは凛香に訊ねた。
「て、適当に押してたら、勝手に開いただけよ。」
ミシェルは驚いた顔をする。
「そ、そう。あいつのセキュリティダメダメじゃない。それで、このデータで何か見たんでしょう?」
凛香の表情が曇る。
「ま、大体わかるわ。あの子を助けに来たんでしょう。ヘラルドの”おもちゃ”を。」
その言葉に凛香は顔を上げた。
その反応を見てミシェルは頷く。
「なるほど・・・。あなた、あの子の仲間かしら。」
凛香は黙ってミシェルを見つめる。
「あの子が仲間を作るとはねぇ・・・。ふーん。面白いわね、あなた達。」
ミシェルは凛香の後ろへ歩くと、ドアの横に埋め込まれたパネルを操作した。
「仲間の方へ合流しないと不味いんじゃない?ほら、どうぞ。」
その言葉と同時にドアがスライドして開く。
「あなた、何者なの・・・?」
凛香の疑問にミシェルは笑う。
「私は『DWA』のトップに仕える四賢人の一人。でも、別に『DWA』の思想や目的なんかに興味ないわ。」
凛香はハッとして、ミシェルに叫んだ。
「そうよ、『DWA』ってなんなの!?こんな所で何をしようとしているの!!」
ミシェルは凛香に近づき、言った。
「・・・あなたくらいの歳の子じゃ本来の『DWA』も『神の鉄槌』も知らないわよね。いいわ、教えてあげる。20年前に何があったのか。そして、あの子。『DR:0042』が何者なのかを。」
凛香は固唾を飲んだ。
ミシェルはゆっくりと喋り始めた。
「20年前、この街、かつて”ヒルズ”と呼ばれていたこの地に、突如として現れた謎の侵略者。人々は倒れ、建物は崩壊して行った。奴らの目的がなんだったのか、それは今でも分からない・・・。表向きはこんな感じかしら。」
凛香は黙って聞いていた。ミシェルは言葉を続ける。
「でもね。本当はそうじゃないの。この場所、この街はね、特別な場所だったのよ。ワームホールって知ってるかしら?」
凛香はミシェルの言葉に首をかしげる。
「そう、まぁ一般的な知識じゃないものね。ワームホールって言うのは空間と空間をつなぐトンネルみたいな物よ。そのワームホールの始まりと思われる小さな亀裂がここの地下にあった。それがある実験によって開いてしまった。」

「私も詳しくは知らないけど、特別なカードの開発を行ってたらしいわ。それがトリガーとなって事故が起きた。この地下の深くにあったワームホールが開いてしまった。」

「そこから別次元、他の銀河系、あるいは平行世界の住人。ともかく、この世界の者ではない”何か”がこちら側に来てしまった。とても人とは思えない姿。現生人類を遥かに超越する未知の生命体。人智の及ばぬ力・・・まさに『神の鉄槌』。」

「彼らは私達の世界をむさぼるように破壊していった。私達はなんとか抵抗しようと試みた。けれど、圧倒的な力の前に私達は跪くしかなかった。」

ミシェルは目を瞑り話を進める。

「それでも私達は生き残るために徒党を組んだ。それが最初の『DWA』。私達は『神の鉄槌』にデュエルを挑んだ。最初は善戦してたの。何しろ彼らはデュエルの素人だったから。でも驚異的な早さで学習していった彼らは、3日と経たないうちに私達の腕を越えて来た。すぐに劣勢になったわ。仲間は一人、また一人と消えて行った。けど、そんな時。」

ミシェルは上を見上げ、何かを思い浮かべるように語った。

「私達の前に光輝く”竜”が現れた。その竜は眩く光ったと思うと『神の鉄槌』を追い払った。一瞬でね。何が起きたのか分からなかったわ。気づいたときには竜は消えていた。」

「『神の鉄槌』は去り、ワームホールは閉じた。私達『DWA』は『神の鉄槌』を倒した英雄と讃えられたけど、本当はその竜のおかげだったの。やがて敵が居なくなったことで『DWA』は一度解散した。」

凛香の方へミシェルは向き直る。

「けど、それからすぐに『DWA』は再結成された。指導者を変えてね。」

「『DWA』の新たな指導者「ノーン」はこう言った。『我々は英雄なり。すなわち世界は英雄に対し奉仕しなければならない。』ってね。」

「ノーンは『神の鉄槌』が現れたワームホールを『ゲート』と名付けた。『ゲート』の跡地には『神の鉄槌』の鱗片、つまり彼らの遺伝子が残されていた。それを元に人工デュエル戦士を作る事を、ノーンは研究者の代表だったヘラルドに命じた。」

「そうして生み出されたDRの42番目。それがあの子よ。あの子はね、『神の鉄槌』の複製体なの。」

凛香はようやく口を開いた。
「ルナが『神の鉄槌』の複製体・・・。そのノーンって人は、何が目的なの・・・?」
ミシェルは答える。
「さぁね、興味ないわ。」
凛香は問うた。
「じゃあ、あなたの目的は何!?」
ミシェルは真剣な眼差しで答える。
「私の目的は、あの時見た竜の正体を知る事。ここに居るのは一番情報が手に入りやすい場所だと思っただけ。・・・あの日見たあれは幻なんかじゃない。私はあれがなんだったのか、それを知りたいだけよ。」

凛香は何かを思い出したように声を上げた。
「そうだ・・!!『DR:0041』って・・あれは一体なに!?」
ミシェルは言う。
「ヘラルドのデータにあったの見たの?『0041』はヘラルドの失敗作よ。というよりも『0001』から『0041』まで全部台無しにされたらしいけどね。」
凛香は訊ねる。
「失敗作って・・・どうして・・・!何があったの!」
ミシェルは言った。
「・・・ジャックス。全てはあの男が原因よ。」
凛香は思い出す。
「(そういえば、あのホーガンって人がジャックスって名前を言ってた気が・・・。)」
ミシェルは言葉を続ける。
「ヘラルドはノーンに言われた通り、『神の鉄槌』の複製体を40体、それとスペアパーツとしての1体、合計41体を生み出した。でも、ヘラルドは他の研究もあって、出来上がった後の事はチームメンバーのジャックスに任せていた。それがヘラルドにとって大きな間違いだった。」

「ジャックスは41体のDRを兵器としてではなく41人の人として育ててしまった。それが原因でDRには心が芽生え、自我を持つようになった。ヘラルドはそれが気に入らなかったの。」

ミシェルは後ろめたいような表情で言葉を紡いだ。

「怒り狂ったヘラルドは、41体のDRを”処分”してしまった。・・・そしてジャックスも。」

「さらに、そのジャックスを庇おうとしたもう一人のメンバー、シェリーもヘラルドは手にかけた。残った唯一のメンバー、ホーガンは『DWA』から逃げどこかに消えた・・・。」

ミシェルは続ける。

「だから、今度こそ自分の理想の兵器を作る事に執着したヘラルドは、もう一人DRを造った。それが・・・。」




「我が最高傑作『0042』だ。」



扉の向こう。不気味な表情を浮かべる男が立っていた。
「おや、ヘラルド。話を聞いてたのかい?」
ミシェルはその男—ヘラルド—に声を掛ける。
「機密事項をよくも部外者に話してくれたな、ミシェル。ノーン様がこれを知ったらどうなるだろうな。」
ヘラルドの脅しをミシェルは鼻で笑う。
「ふっ、ノーンの腰巾着が何を。生憎だけど、私にそんな脅しは効かないね。」
ヘラルドはゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
「お前には効かずとも、こいつにならどうだ?」
そう言ったヘラルドは凛香の首を掴んだ。
「ぐっ・・・!!!」
凛香は首を掴むヘラルドの手を振りほどこうともがく。
「虫けらが紛れ込んでるとは聞いていたが、こんなチンケな代物とはな・・・。」
ミシェルは叫ぶ。
「放しなヘラルド!!その子にはやるべき事があるんだ!!」
だが、ヘラルドは笑って言った。
「そうか。だが、私のやるべき事はこの虫けらを始末する事だ。」
そういうとヘラルドは首を掴んでいる腕を徐々に持ち上げ始めた。
「がぁっ・・・あぁっ・・・!!!」
凛香の足が浮き始める。

だが、その時。


「やめろぉぉおお!!!」


ヘラルドに強烈なタックルが向かった。ヘラルドは凛香の首から手を放し、部屋の中を転がる。解放された凛香は、倒れ込みそうになった所をミシェルに支えられた。
凛香は自分を助けた人物を見て、かすれた声で言った。
「・・遊牙・・・。」
怒りをあらわにした遊牙は転がったヘラルドの方へ歩いた。
「貴様、凛香に何をする!!」
起き上がったヘラルドは遊牙を睨みつけた。しかし、その表情は瞬時に驚愕へと変わる。
「ば、馬鹿な!!!ど、どうして・・・どうして、『0041』が生きている!!!?」
遊牙はヘラルドの顔を見た。


その瞬間、遊牙の頭に数々のビジョンが浮かび上がった。



『・・・遊牙、なにしてるんだよ!お前もこっちこいよ!』

『遊牙!次は何して遊ぶ?』

『こら、エリー、わがままいっちゃダメだぞ!』

『えー、だってウェイスが・・・』

『スケイルおにーちゃん!遊牙見なかった?』

『遊牙!』

『遊牙。』



『『ユーガ。』』




「ぐぁぁああっ!!!」

激しい頭痛に見舞われた遊牙は頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。

「俺は・・・俺は・・・」

視界が霞み、走馬灯ように目の前を記憶の断片が過ってゆく。

「俺は・・・俺は・・・」



「俺は・・・『0041』・・・。」



次回第11話「閉ざされた記憶」


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ター坊
神の鉄槌…!それにまだ終わりそうにない伏線っぽいもの。ここまで奥深いストーリー、俺には書けんなぁ…。こう言った話、書けるもんなら書いてみたい。 (2015-05-18 09:59)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
そんなに奥深い話ではないですよ。ター坊さんの作品に比べたら話数も表現もまだまだです。 (2015-05-26 14:06)

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