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HOME > 遊戯王SS一覧 > 4:逆襲の木嶋

4:逆襲の木嶋 作:ほーがん

第4話「逆襲の木嶋」


その時。遊牙は”どこか”にいた。それがどこかは分からない。ただ、そこが遊牙自身にとって安心できる場所であることは知っていた。
周りにはぼんやりと芝生の床が広がり、白い建物が遠くに見える。
そこには”仲間”がいた。今とは違う、別の”仲間”が。

「・・・にして・・の・ゆう・・・が・・・」

一人が話しかけて来る。しかし、視界はぼやけ、声は上手く聞き取れない。
ただ、なんとなくその人を遊牙は知っている気がした。根拠などないが。
とても、懐かしく。とても優しい。

そして、とても儚い、記憶の欠片。


「・・・・また、あの夢だ。」
遊牙はベッドの上でそう呟いた。ゆっくりと体を起こす。
下のベッドからカケルのいびきが聞こえる。時間はまだ真夜中らしい。
ベッドを降り、寝室を出て、裏口から外に出た。

夜風がそよそよと吹き、心地のいい涼しさを保っている。
遊牙は深呼吸して、夜空を見上げた。
灰色の空が広がる昼間に対して、夜は驚くほど空が綺麗だった。
無数の星々が広がり、その中心で美しく月が輝いている。
「月(ルナ)、か・・・。」
遊牙がぼそっと呟くと後ろから声がした。
「どうしたんだい。こんな夜中に。」
遊牙が振り向くと、そこにはガネリおばさんが立っていた。
「いや、少し寝付けなかっただけだ。」
「そうかい。」
おばさんはゆっくりと遊牙の隣へと歩み寄った。
「・・・昨日は突然すまなかった。」
遊牙はボソッと切り出した。
「なにがだい?」
それに対しおばさんは優しい声で返す。
「ルナのこと。彼女を、なんの前置きも無しに連れて来てしまったことは申し訳ないと思っている。」
「・・・あの子はね、寂しかったんだよ。」
おばさんは夜空を見上げて言う。
「寂しかった・・・?」
「ああ、そうさ。初めてここにたどり着いた時のあんたと全く同じ目をしてたからね。私にはすぐわかったよ。”ああ、この子には家族が必要なんだ”ってね。」
遊牙はフフッっと小さく笑った。
「おばさんには敵わないな。もう少し寝る事にするよ。」
「ええ、おやすみ。」
家へ戻ってゆく遊牙を、おばさんは微笑んで見送った。
「さて、私も寝るかね。」



「・・・が・・・遊牙・・」
不鮮明な声で何かが聞こえる。
「遊牙・・・・起きて!!」
遊牙はその声に渋々、体を起こした。
「どうした・・・。」
その声の主、凛香は声を荒げた。
「もう!今日の買い出しは遊牙担当でしょ!早く行って来て!」
そう言って、凛香は買い物袋を差し出した。
「買い出しって、まだ朝じゃないのか?」
遊牙の言葉に凛香は呆れた顔で言う。
「もうそろそろお昼よ。全くいつまで寝てるんだか。」
「そうか、それはすまなかった。すぐに行って来る。」
そういうと遊牙は凛香の手から買い物袋を受け取り、掛けてある上着を羽織って、屋敷を飛び出した。
「はぁ、相変わらず行動が早いわね遊牙は・・・。」

遊牙が外に出ると、屋敷の庭でルナが洗濯物を干していた。
「あ、遊牙おはよう。」
エプロンを付けたルナは遊牙に走り寄った。
「ルナは洗濯もできたのか。」
遊牙は驚いたように言う。
「なんでできるのか覚えてないんだけど、なんかやってみたらできちゃった。」
ルナは笑顔でそう答えた。
「そうか。洗濯ありがとうルナ。じゃあ、買い出しに行って来る。」
遊牙は屋敷の門を開け、外に出た。
「いってらしゃーい!」
ルナは手を振って遊牙を見送った。

遊牙は市場を目指す途中、袋に入っていたメモを確認した。
「ミルクに生活用水、予備のバッテリー、それから今日の食材か。」
だいたいいつも通りか。遊牙はそう思うとメモを袋に戻した。
歩きながら遊牙はあの時の事を考えていた。

『『被験体0042発見!!』』

あの集団。警察か軍人のような制服を来たあれはなんだったのか。
今まで、見た事も聞いた事もない。突然現れ、ルナを攫おうとしたあの連中。
何が目的なのか。ルナを捕まえて何をしようとしているのか。
考えても、謎は深まるばかりだった。

「あ。」

そうこうしているうちに闇市に到着していた。ここは、この荒廃した街の中でも数少ない”比較的”まともな市場だ。
中に入ると違法市場とは思えないほどの人でにぎわっている。この街に住む人々の生活を支えているのはこの闇市と言っても過言ではないだろう。
「よ、遊牙!今日は何買いに来たんだ?」
一つの店から声がした。遊牙が立ち止まったそこは電気関係の品物を扱う店だった。
「あぁジル、今日は予備のバッテリーが欲しい。」
派手な柄の半袖ワイシャツに短パンとサンダル。極めつけのアフロヘア。この奇抜な中年男性こそ、ここの店主のジルである。
「おおそういえば前買ったときから2ヶ月か。確かにそろそろ交換どきだな。よぅし、ちょーっと待ってな。」
そういうとジルは店の奥に入って行き、凄まじい埃を立てながら予備のバッテリーを探した。
「おお、あったあった。ほいよ。ガネリさんにはいつも世話になってるからな、特別価格で半額にするからよ!」
「いつもすまないジル。」
遊牙はポケットから数枚のコインを取り出し、それをジルに渡すとバッテリーを受け取った。
「ところでジル、少し聞きたい事がある。」
「ん?なんだ?電気の事ならなんでも聞いてくれ!」
ジルは陽気な声で言った。
「いや、電気のことじゃないんだが、変な制服の集団の話とか知らないか?」
遊牙の言葉にジルは怪訝な顔をする。
「いいや、この街で一番変なのは俺だろうしなぁ。知らないな。」
妙に説得力のある言葉に遊牙は肩を落とす。
「そうか、やはり知らないか。変な事を聞いてすまなかった。」
「いやいや!こちとら変な話は大歓迎さ、あはははっ!!」
ジルはそういうと陽気に笑った。


「そいつらは、恐らくDWA・・・すなわち『デュエル・ウォリアーズ・アライアンス』だろう。」


突然、遊牙の背後から声がした。直ぐさま振り向くとそこにはロングコートを着た謎の男が立っていた。
「なんだ、あんたは。」
遊牙は思わずD・ディスクを構えそうになるが、男の目がそれをさせなかった。
相手に敵意が無い事を察し、遊牙はD・ディスクを仕舞った。
「奴らは『神の鉄槌』に対抗するべく生み出されたデュエル戦士集団。」
男は静かにそう言った。
「『神の鉄槌』・・・」
言葉が詰まった遊牙にジルが言う。
「ああ、お前たちの世代は『神の鉄槌』をあんまり知らないもんな。」
ジルに続けてロングコートの男は言った。
「『神の鉄槌』は今から20年前に起こった事件、そしてその事件の発端となった侵略者の通称。突如、どこからかやって来たデュエリストと思われる”何か”が次々と街を破壊して行った。奴らは我々とは別次元の強さを誇り、一般人は誰一人として抵抗できぬままついに街は陥落。その侵略の痕は今もこの街に残り続けている。」
ロングコートの男は辺りを見渡した。それにつられて遊牙とジルも辺りを見た。闇市の外の灰色の街は、半壊の廃ビルが立ち並び、ひび割れたアスファルトが伸びている。
「その時に結成されたのがデュエル戦士の同盟軍、つまり『DWA』というわけだ。」
男の言葉にジルが口を挟んだ。
「待て!『DWA』なら俺も知ってる。なんせあの当時は『DWA』はみんなのヒーローだったからな。だがその時の『DWA』はまともな組織体制もなければ、制服なんてなかったただのレジスタンス集団だったはずだぞ!しかも『DWA』は15年前に解散してる!」
ジルの言葉を聞き、男は語り出した。
「『DWA』は必死の抵抗で、侵略者を排除する事に成功した。敵が居なくなった事で解散したと言われているが、実際は裏で『DWA』は確実に残っていた。ここからは俺の推測だが、恐らく、人智を超えるほどの力を持っていた『神の鉄槌』を倒したという事実を驕る者が現れたんだろう。その人物を中心に、やがて『DWA』はこの街だけではなく、いずれ世界の全てを手中に・・・ここでやめておこう。」
男は突然、言葉を止めた。
「『DWA』はまだ残ってるってか。しかし、なんであんたはそんな話に詳しいんだ?あんた一体・・・。」
ジルはその男に問いかけようとしたが男は振り向き、去って行った。
その去り際、男は遊牙に小声で伝えた。
「遊牙、絶対にルナにデュエルをさせるな。」
遊牙が振り向くと、そこに男の姿はもう無かった。




買い物を済ませ屋敷に帰る途中、遊牙はあの男の言葉を思い出していた。

『『遊牙、絶対にルナにデュエルをさせるな。』』

なぜ、あの男は自分の名前を、そしてルナの事も知っているのか。少なくともこちらには面識は無いはずだった。
”デュエルさせるな。”なぜ、ルナにデュエルをさせてはならないのか。謎が謎を呼ぶ展開に遊牙は困窮した。

そんな時。


「くっくっく・・・ここで会ったが100年いや1000年目!!!!」


後ろから響いた声に遊牙が振り向く。
「見つけたぞ!!今度こそ逃がさねぇ!!」
そこに居たのは、あの時ルナを連れ去ろうとした集団の男の一人、木嶋だった。
「お前は!」
遊牙は透かさずD・ディスクを構えた。
「この木嶋様をコケにしやがった事、忘れたとは言わせねぇぞ・・!!」
木嶋は遊牙を睨み付けながらD・ディスクを腕にはめた。
「今日は他の奴らは一緒じゃないのか。」
遊牙の言葉に木嶋は叫ぶ。
「この任務は俺一人に与えられたものだ!!誰にも手柄は渡さねぇ!!」
「任務だと?」
木嶋は卑劣な笑みを浮かべながら言う。
「ああ、お前を完膚なきまでに叩きのめして、生け捕りにするっていう任務だよ!!」
「くっ、できるものならやってみろ。お前は一度俺に負けている。」
木嶋はD・ディスクを展開し叫んだ。
「俺を今までの俺だと思うなよ!!」


「デュエル!!(LP4000 VS LP4000)」


「先攻はもらう。俺のターン。」

先に遊牙が動き出す。

「俺は《コープスナイト・ウェイス(☆4/闇/アンデット/1700・0)》を召喚。」

黒いオーラを放つ剣士がフィールドに出現する。

「またそのモンスターか!?相変わらず馬鹿の一つ覚えだな!」

木嶋の言葉を無視し、遊牙は続ける。

「さらに手札から《コープスナイト・アリエル(☆2/闇/アンデット/チューナー/900・0)》を特殊召喚。このモンスターは自分のフィールドに他の「コープスナイト」が存在する場合、手札から特殊召喚できる。」

幼い少女のような風貌の小さな騎士が、ウェイスの横に並ぶ。

「俺はレベル4の《コープスナイト・ウェイス》にレベル2の《コープスナイト・アリエル》をチューニング!闇の甲冑よ!勝利の剣をその手に抱きて、憚る敵を打ち払え!」

光の輪となったアリエルがウェイスの体を包み込んでゆく。

「シンクロ召喚!現れよ!《コープスナイト・デッドシェリー(☆6/闇/アンデット/シンクロ/2200・1900)》!」

長い髪を揺らしながら、長剣を携えた姫騎士がフィールドに舞い降りた。

「《コープスナイト・デッドシェリー》の効果発動。このカードのシンクロ召喚に成功した時、墓地の「コープスナイト」モンスター1体を手札に戻す。俺は墓地の《コープスナイト・アリエル》を手札に戻す。」

遊牙の墓地からカードが迫り出し、手札へと回収される。

「そして、エンドフェイズ。《コープスナイト・ウェイス》の効果発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズに、デッキから「コープスナイト」を1枚手札に加える。俺はデッキから《コープスナイト・ヴェルナンド(☆6/闇/アンデット/2400・0)》を手札に加えて、ターンエンド。」

遊牙のターンが終了し、木嶋のターンへと移る。


「ぶちのめしてやる・・・俺のターン!!」

勢い良くカードを引いた木嶋は、手札をカードを取り出しD・ディスクに叩き付けた。

「俺は魔法カード《収斂進化》を発動!手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体と同じレベルを持つ昆虫族モンスターをデッキから特殊召喚する!!お前のモンスターのレベルは6!よって俺はデッキから《ファイアー・バンブルビートル(☆6/炎/昆虫/2500・1000)》を特殊召喚!!」

炎を纏った甲虫が羽根を唸らせ場に躍り出る。

「この瞬間、《ファイアー・バンブルビートル》の効果発動!このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからレベル4以下の昆虫族モンスターを2体まで墓地に送る!俺はデッキから《プチモール(☆1/地/昆虫/チューナー/300・200)》と《アーマード・フライ(☆3/地/昆虫/2000・2000)》を墓地に送る!!」

その効果により2体の昆虫族モンスターが、木嶋の墓地へと向かう。

「俺はたった今墓地に送った《プチモール》の効果を発動!このカードは1ターンに1度、墓地に存在するこいつ以外の昆虫族モンスターを1体除外する事で墓地から特殊召喚できる!俺は墓地の《アーマード・フライ》を除外し、《プチモール》を特殊召喚!!」

木嶋の声に合わせて、小さな幼虫がフィールドに出現した。

「チューナーモンスター・・・。」

遊牙はその小さな幼虫に警戒の目を向けた。

「そして、手札から《デーモン・レディバグ(☆1/闇/昆虫/0・0)》を召喚!」

羽根に悪魔の顔をかたどった天道虫がフィールド内を飛び回る。


「これで、全ての準備は整った!!俺は、レベル6の《ファイアー・バンブルビートル》とレベル1の《デーモン・レディバグ》にレベル1の《プチモール》をチューニング!!!」


プチモールの体は光の輪となり、その中に2体の甲虫が飛び込んだ。


「可能性の幼子よ、今こそ殻を突き破り絶望の翼を広げよ!!シンクロ召喚!!舞い上がれ!!《究極完全成態 グレート・モルフォ(☆8/地/昆虫/シンクロ/3500・3000)》!!!」


禍々しい模様をした巨大な翼を広げ、昆虫の王はフィールドに君臨する。突風吹き荒れる中、木嶋は笑いながら叫んだ。

「さぁ、叩き潰してやるよ・・・・!!!!」




次回第5話「約束の価値」


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ター坊
出た!木嶋さんのシンクロコンボだ! (2015-05-06 12:36)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
狙ってたコンボが決まって浮かれる時ってありますよね。 (2015-05-06 23:16)

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