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HOME > 遊戯王SS一覧 > 2:威光のフランベルジェ

2:威光のフランベルジェ 作:ほーがん

第2話「威光のフランベルジェ」



廃ビルの影、男は佇んでいた。
ロングコートの襟を寄せ、白い息を吐く。
男は呟いた。

「やれやれ・・・子守りも楽じゃないな。」



遊牙は白い髪の少女ルナと共に活動拠点としている屋敷を目指していた。
「・・・ルナ。」
ぽつりと遊牙が口を開いた。
「な、なに遊牙?」
ルナは少し驚いたように、隣を歩く遊牙に向いた。
「・・・奴らは何者だ。何故追われている?」
ルナを『被験体』と呼び、連れ去ろうとしたあの連中。ルナは遊牙の言葉を聞き、うつむき加減で言った。
「・・・・わからない。」
その言葉に遊牙は疑問を浮かべる。
「わからない?」
「そう・・・いつからか私はあの人達に追われるようになって、それで・・・。」
ルナは下を向いたまま言葉を続ける。
「私、自分が誰だか分からないの・・・。知ってるのは『ルナ』って名前だけ。気づいたらあの街に来てて、あの人達に追われてた。それ以外、何も・・・。」
遊牙はルナに優しく言った。
「なら、俺と一緒だ。」
”え?”というようにルナは顔を上げた。
「俺も名前以外、自分の事を知らない。いつ生まれたのか、親は誰なのか、何も知らない。」
「遊牙・・・。」
不器用な笑顔を作り遊牙は言う。
「けれど、そんな俺を拾ってくれた仲間が居た。大切な仲間だ。」
「仲間・・・・。」
遊牙は続けた。
「きっとみんな、俺の時と同じようにルナを受け入れてくれるに違いない。」
「そう・・・かな。」
ルナは不安そうな顔で呟く。
「ああ。心配しなくていい。みんな良い奴らだからな。」
遊牙の言葉を聞き、ルナは笑顔を取り戻した。
「ありがとう、遊牙。」


一方、一人の男——名を木嶋という——は、荒廃した町中を一人進んでいた。
「あのガキ、よくも俺の顔に泥を塗りやがったな・・気付いたら道のド真ん中で寝てたし・・・見つけ出して取っ捕まえてやる・・!!」
木嶋は辺りを見渡しながら早歩きで歩いた。どこも寂れた風景が続くのみ。
「くっそ、どこいったんだ!時間からしてそう遠くへは言ってないはず・・・。」
腕時計を見ながら苛ついた声で言う。そんな木嶋の前に一つの人影が立ちふさがった。

「そんなに急いで、どこに行く気かな。」

突然現れた男に、木嶋は驚き足を止めた。
「な、なんだ貴様!」
木嶋の言葉にロングコートを着たその男は、ニヤりと笑う。
「さぁ、誰だろうな。それより、人を探してるんじゃないのかな。例えば、そう・・白いワンピースの少女を連れた赤髪の少年とか。」
男の言葉に木嶋は声を荒げて訊いた。
「貴様まさか、あのガキを知ってるのか!!教えろ!今あいつはどこにいやがる!!」
男は黙ってD・ディスクを構えた。
その行動に木嶋はなるほど、といった顔でD・ディスクを腕に嵌め込んだ。
「デュエルで勝てば教えるってか。いいぜ、DWA3番隊隊長の、この木嶋様を倒せるならな!!!」
男は不敵に笑う。
「物わかりが良くて助かるよ、隊長さん。」


「デュエル!!(LP4000 VS LP4000)」


デュエル開始直後に木嶋が叫ぶ。

「先攻は貰うぜ!!俺のターン!!」

手札のカードを取り出した木嶋は、それをディスクの上に叩き付けた。

「俺は魔法カード《不完全変態》を発動!LPを1000払い、デッキから昆虫族モンスターを1体墓地へ送る!さらにその後、墓地へ送ったカードよりレベルが1つ高い昆虫族モンスターを手札・墓地から特殊召喚できる!(LP4000→LP3000)」

木嶋のデッキから1枚のカードが迫り出す。

「俺はデッキから《ネオバグ・2(☆5/地/昆虫/2000・1900)》を墓地に送る!そして手札から《ファイアー・バンブルビートル(☆6/炎/昆虫/2500・1000)》を特殊召喚!!」

墓地へ送られたカードと引き換えに、炎を纏う巨大な甲虫が唸りを上げて出現した。

「《ファイアー・バンブルビートル》の効果発動!こいつの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからレベル4以下の昆虫族モンスターを2体まで墓地に送る事ができる!俺は《代打バッター》と《甲虫装甲騎士》を墓地に送る!」

再び、デッキからモンスターが墓地へ送られた。
男はその様子を黙って見つめる。

「これで、俺の墓地の昆虫族は3体・・・。俺は手札から《クィーン・ネオバグ(☆8/地/昆虫/3000・2900)》を特殊召喚!!!」

木嶋の叫びと共に、凄まじい怒号を上げ、女王はフィールドを震撼させながら現れた。

「このモンスターは自分の墓地の昆虫族モンスターが3体のみの場合、手札から特殊召喚できる!!さらに、《クィーン・ネオバグ》のモンスター効果発動!!デッキから《ネオバグ》を特殊召喚!!」

女王が産んだ卵から、羽音を立てて殻を吹き飛ばし《ネオバグ》が出現する。

「さらに手札から永続魔法《密林の黄金樹液》を発動!!自分の場の昆虫族モンスターの攻撃力は300アップする!さらに、自分の場に昆虫族モンスターが2体以上揃っている場合、1ターンに1度墓地から昆虫族モンスターを特殊召喚できる!蘇れ、《ネオバグ・2》!!」

4つの大アゴを備えた昆虫型生命体が他の巨大昆虫に並ぶ。

「まだだ!!まだ終わらねぇ!!俺は墓地の《代打バッター》と《甲虫装甲騎士》を除外し、《デビルドーザー(☆8/地/昆虫/2800・2600)》を特殊召喚する!!!」

最後の手札から現れた巨大なムカデ型モンスターは、砂埃を上げ、相手の男を睨み付けた。

「どうだ!!俺の昆虫軍団は!!怯え切って声も出ないか!!」

黙って見ていた男はフッ、と笑みをこぼして言った。

「ターンエンドかい?見た所手札も尽きたようだけど。」

男の様子に木嶋は苛立った表情を見せる。

「けっ、余裕ぶっこいてられるのも今のうちだ!!次のターンこいつらで総攻撃を仕掛けてやる!ターンエンド!!」


男はゆっくりと自分のデッキに手を伸ばした。

「さて、行かせてもらおうかな。俺のターン、ドロー!」

男は引いたカードを横目で確認し、直ぐさまそのカードをD・ディスクにセッティングした。

「俺は手札から永続魔法《黒い旋風》を発動!」

男の場に魔法カードが表示される。

「このカードは自分が「BF」モンスターを召喚する度に、デッキからそのモンスターよりも低い攻撃力を持つ「BF」を手札に加える事ができる。そして、俺は手札から《BF-白夜のグラディウス(☆3/闇/鳥獣/800・1500)》を召喚!」

直刃の短剣を構えた鳥人がその翼を広げた。

「この瞬間、《黒い旋風》の効果発動!デッキから《BF−幻日のスティレット(☆2/闇/鳥獣/チューナー/0・1000)》を手札に加える!さらにこのモンスターを特殊召喚!」

鋭いナイフのような剣を持つ黒翼の鳥獣が、威勢良く飛び回る。

「《BF−幻日のスティレット》は自分のフィールドに攻撃力1500以下の「BF」が存在する場合、手札から特殊召喚できる。さぁ、ショータイムと行こう!」

男はニヤリと笑いながら高らかに叫んだ。

「俺はレベル3の《BF-白夜のグラディウス》にレベル2の《BF-幻日のスティレット》をチューニング!」

光の輪となった黒翼の鳥獣は、空に舞い上がる鳥人を囲んでゆく。


「黒き旋風よ!怒濤の刃振りかざし、地を這う敵を両断せよ!シンクロ召喚!吹き荒れろ!《BF−睥睨のハルバード(☆5/闇/鳥獣/シンクロ/2300・500)》!!」


竜巻の中から、風を断ち切るように戦斧を振り下ろし漆黒の鳥人がフィールドに吹き荒んだ。

「なに・・・!!またシンクロモンスターだとぉ・・・!!」

シンクロモンスターの登場に、木嶋の表情に怒りが溢れる。

「《BF-睥睨のハルバード》の効果発動!このカードのシンクロ召喚に成功した時、墓地に存在するレベル3以下の「BF」を守備表示で特殊召喚する!舞い戻れ、《BF-幻日のスティレット》!」

鳥獣は再び空を舞った。さらに男は手札のカードを取り出す。

「さらに俺は手札の《BF−鉄鎖のフェーン》を墓地に捨て《BF−赤影のシュリケン(☆1/闇/鳥獣/100・100)》を特殊召喚する!こいつは手札の鳥獣族モンスターを捨てる事で手札から特殊召喚できる!」

忍者の姿をした小柄な鳥人はその体格に見合わない巨大な手裏剣を背負い、フィールド上で腕を組み鼻を鳴らした。

「さて、そこまで強力な昆虫モンスターを展開してくれたんだ。こっちも切り札を呼ばせてもらう!」

男は再び叫ぶ。

「俺はレベル5の《BF-睥睨のハルバード》とレベル1の《BF-赤影のシュリケン》にレベル2の《BF-幻日のスティレット》をチューニング!!」

2体の鳥人は、光の輪に包まれた。


「黒き烈風よ!威厳の剣を持ちて、天空を駆け巡れ!シンクロ召喚!舞い踊れ!《BF-威光のフランベルジェ(☆8/闇/鳥獣/シンクロ/3000・1200)》!!」


吹き荒れる旋風の中から現れた鳥人の騎士は、波打つ巨大な剣を構えフィールドに舞い降りた。

「シンクロモンスターを素材にシンクロ召喚だと・・・!!!」

木嶋は新たなシンクロモンスターの出現に驚愕した。

「だが、こっちには5体の昆虫モンスターが居る!それに今の《クィーン・ネオバグ》の攻撃力は3300!《デビルドーザー》は3100!他のモンスターを破壊しようと《密林の黄金樹液》の効果で復活できる!そのモンスター1体じゃこの布陣は崩せねぇ!!」

声を荒げてそう叫んだ木嶋を、男はまたフッと笑う。

「そうだな。確かにそのコンボは強力だ。だが俺にその布陣を崩す気はない!」

男はそう言い、手札のカードを木嶋に見せつけた。

「魔法カード《ブラック・フィール》発動!」

D・ディスクにその魔法をセッティングし、男は言葉を続ける。

「このカードは、墓地に眠るレベル4以下の「BF」を1体除外することで、自分フィールドの「BF」シンクロモンスター1体はこのターン除外したモンスターと同名カードとして扱い、その効果を得る!」

男の墓地が光り、一枚のカードが迫り出した。

「俺が墓地から除外するのは《BF−鉄鎖のフェーン》!!」

木嶋は怪訝な顔をする。

「名前をコピーして何をするつもりだ!!攻撃力は変わってねぇぞ!!」

男は『鉄鎖のフェーン』のカードを持ちながら説明する。

「《BF-鉄鎖のフェーン》は相手に直接攻撃できる。このカードの攻撃力は500しか無いが、その効果を攻撃力3000の《BF-威光のフランベルジェ》が手に入れたとしたら・・!」

その言葉に木嶋は青ざめた顔をする。

「ま、まさか・・・!!」

男は不敵に笑い木嶋を指差す。

「こういう勝ち方もあるって事だよ、隊長さん!!行け、《BF-威光のフランベルジェ》!!相手プレイヤーにダイレクトアタック!!」

剣を構えた鳥人の騎士は地を這う巨大な昆虫達を飛び越え、相手プレイヤーの首を捉えた。


『デッドリィ・ブラックスラッシュ!!』


まるで一陣の風のように突き抜けた鳥人の騎士は、一閃した後、剣を背中に収めた。


「クソぉぉおお!!シンクロモンスターなんて大っ嫌いだぁ!!!(LP3000→0)」


『勝者:Unknown』


男は倒れ込んだ木嶋に近づいた。

「ま、今回は諦めてお家に帰るんだな隊長さん。」

木嶋はその場で丸まりながらむせび泣いた。

「クソ・・・シンクロなんて・・・シンクロなんて・・・。」

その時。

「・・・隊長〜・・木嶋隊長〜・・・どこです?・・・」

男は前方に広がる灰色の霧から複数の人影が見えた所で、振り向きその場を去ろうとした。

「待て・・・。」

男の足を木嶋が止める。

「せめて・・・名前を教えろ・・次会ったら容赦しねぇ・・!」

やれやれといった風に男は木嶋の方を向き、口を開いた。

「俺の名は、ジェイミー・ホーガン。またな、木嶋隊長。」

男はスタスタと歩き、その場を後にした。




その頃、遊牙とルナは仲間と共に住まう屋敷へとたどり着いていた。

が。

「おい・・遊牙・・。お前、とうとう野良犬や野良猫じゃ飽きたらず、人間まで拾って来たのか!!?」


「(やっぱり、受け入れられ無いじゃないかー!)」
ルナは心の中でそう叫んだ。


次回第3話「熱血勇者・仁ノ森カケル」

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名無しのゴーレム
二回連続でシンクロ使いに敗れる木嶋さんに同情してしまいますね…
そしてジェイミー・「ホーガン」…正体が気になりますね。 (2015-05-03 08:50)
ほーがん
名無しのゴーレムさんコメントありがとうございます。
木嶋さんは一応準レギュラーなので、今後も色々させたいと思います。
ジェイミー・ホーガンについては後の話で掘り下げようかと思っています。 (2015-05-06 03:04)

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